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「こ……こんなところにいたのか」ジョセフィーヌは腕を引かれてギョッとしてしまった。
ギルフォードがハアハアしながらそこに立っていたからだ。
(な……なんで!?)
「……挨拶をしてないだろうが」
目を丸くするジョセフィーヌにギルフォードは呆れたような声を出した。舌打ちが聞こえたような気がするが気の所為だろう。
「……すみません」
ジョセフィーヌは恥ずかしくて頰を染める。
そうだ……王に挨拶をしていない。
(それで追いかけて来てくださったんだわ。私ったら……本当にバカすぎる……おバカさん……)
ジョセフィーヌはぐいっとジュースを飲み干すとギルフォードの後を慌てて追いかけた。
「あ……お、お待ちくだいまし〜殿下〜」
(気まずいわぁ……)
挨拶を終え、ジョセフィーヌはギルフォードの隣に立ち床を見つめていた。挨拶を忘れていただけではなく、結果アイリスと二人きりの時間を邪魔してしまったのだから。
ギルフォードは先ほどから不機嫌なのか一言も発しない。それはそうだろう。
かと言ってそれを払拭するほどのスキルもジョセフィーヌは持ち合わせておらず……ただただ二人は時が過ぎるのを待った。おまけに挨拶の時、王から「後半年で婚姻すること」を指摘されてしまいそれがまた気まずい……
(その場に流されて「とても楽しみです」と言ってしまったわ。殿下はますます私を捨てづらくなってしまったんじゃないかしら……あわわわわ)
小説内のギルフォードはとても優しく情に厚い、男らしい人物だ。嫌いな婚約者とは言え……あのように言われては気も揺れてしまうだろうに。ギルフォードはそれも好ましく思っていなさそうだ。
よりにもよって王の前で「楽しみ」だとジョセフィーヌは言ったのだから。
「ギルフォード」
どんよりとした二人に似つかわしくない爽やかな声がする。そこにはディードリッヒが立ってニコニコ笑っていた。
「兄上」
「おや、珍しいね。随分仲睦まじいじゃないか?」
ディードリッヒはジョセフィーヌを見て目を丸くしている。ジョセフィーヌは曖昧に誤魔化そうと微笑んだのだが……
「決して仲睦まじくはございません。我々はお互い言いつけられた婚約者同士ですから」
ギルフォードはきっぱりとそう言い放った。
(そ……そんなにハッキリ!?酷すぎます……!は!)
ジョセフィーヌはギルフォードの物言いに、一瞬軽い抗議をしようかと思ったけれど……視線を感じてそちらを見た。
ホールの回廊の2階部分から不安そうにこちらを眺めるアイリスがいたのだ。
(アイリス様!だ……だから殿下はこんなにハッキリと私への嫌悪感を示してらっしゃったのだわ!)
「ジョセフィーヌ嬢が煩く言うものですから、この先夜会のたびに迎えには行くことになりましたが……まあこのままでは体裁が悪いですから仕方がないですね」
ギルフォードは心底面倒くさそうに言うと、腕を組んで押し黙る。
(え!そ、そんなに嫌なら本当に本当に別に来なくても大丈夫でございますぅ!)
「まあまあ、そんなにお嫌でしたら今までと変わらない体制で大丈夫ですよ?殿下」
ジョセフィーヌは慌ててそう言った。
そんなに不快に感じている男性と道中を共にするのは勘弁願いたい。たまたま悪役感を出したくて適当に言ったことでこのようなことになるとは……!
「……別に迎え位行ってやる」
ギルフォードは面倒くさそうに言う。
「でも……」
「もうこれは決定事項だ。君のために護衛も手配した。それをキャンセルしろと?これ以上わがままを言うのか?」
(さっき言ったばかりなのに……!もうそこまで進んでいるのですか!?)
「左様でございますか……失礼いたしました」
ジョセフィーヌは動揺を隠すために扇子で口元を覆う。
大変なことになってしまった……!今後は二度とあんな要求はしまい……
「ギルフォードは相変わらずだね。もう少し優しくしてあげたら」
「……優しくしていますが」
ギルフォードは淡々とした様子でディードリッヒにそう言った。ディードリッヒは気の毒そうな視線をジョセフィーヌに送ると、首をすくめていなくなる。
まあ確かにギルフォードの気持ちを組むとかなり彼はジョセフィーヌに優しくしているだろう。
今までジョセフィーヌが無茶苦茶やっているのだろうから仕方がない。
しかし——ディードリッヒがいなくなり、ジョセフィーヌはなんだかとても心細くなってしまった。だか当然ながらそんな彼女にギルフォードが寄り添ってくれるはずもなく——
ジョセフィーヌは再び床を眺めることにした。
————————————————
「体調はどうだ」
「いつもと変わりございません」
ジョセフィーヌはあの地獄の夜会の後、やって来たギルフォードににこやかに対応しつつ……もう口を開くのが恐ろしくなっていた。
(ある意味なんでも叶えてくれちゃう……!そこに愛など全くないのに!キレながら叶えてくれる!)
「…………」
「…………」
ジョセフィーヌはただひたすら願っていた。
————早く帰れ————と
「何か好きなものはあるのか」
ギルフォードは腕を組み、背もたれに寄りかかりながらジョセフィーヌに尋ねる。さして興味もない——特に意味もない質問だ。
「え?ええと……特にございません」
ジョセフィーヌは本当のことを言う必要はない、と適当に答える。またこれをきっかけにギルフォードに嫌な思いをさせては身の危険を感じてしまう。ギルフォードはジョセフィーヌの答えに片眉を上げた。あまりにも適当すぎただろうか————
「……女はレースだとか、ぬいぐるみだとかが好きじゃないのか」
「私は特にどれも興味はありません」
ジョセフィーヌは本当はぬいぐるみがとても好きだ。
可愛らしい動物を模したぬいぐるみが特に好きで、記憶がない今も部屋にあったぬいぐるみと一緒に眠っている。でも、ギルフォードに本当のことを言う必要はないのだ。
「…………じゃあ普段何をしている」
「壁のシミを見てます」
「なんだと?」
「壁の……ほら殿下の背後にありませんか?あれを見ます。するとウネウネ動いてるように見えたりするので……」
「…………」
「それで時間を潰しています」
————————————————
(あああああ……)
「ギルとお出かけするって本当ですか!?」
もう……今日はなんなのだろう!
ギルフォードが帰ったと思いきや——しばらくしてアイリスがやってきた。しかもなんだその誤情報は!ジョセフィーヌは頭を掻きむしりたくなった。
「そのような予定ございませんが……」
「ギルが言ってたの……ジョセフィーヌ様が連れて行けと煩いから出掛ける羽目になったと……」
「……え?い、言ってません言ってません!」
ギルフォードとお出かけだなんて考えるだけで恐ろしい!どういうことだろう……!
ジョセフィーヌは小説を思い出す。
そう言えば……そんな描写があったような気がする。
ジョセフィーヌが自身の誕生日にギルフォードと強引に出掛ける。その時にギルフォードにジョセフィーヌが関係を迫り、アイリスが助けに来るのだ。
(強制的にイベントが!?私誕生日なの!?)
「でも……」
「本当に言っておりませんで……なぜこのようなことになったのやら……」
もしかすると記憶を失う前に言っていたのだろうか。
「じゃあどうするんですか?ギルと出掛けるんですか?」
アイリスは顔を歪ませて、相当切羽詰まったような様子だ。このまま死んでしまいそうな……
(殿下のことをそこまで……!)
「あ!じゃ……じゃあ当日熱を出します!私、絶対殿下とお出かけしません……!それでいいですか?すみません本当に……無意識のうちに言ったのかもしれないわ……」
ジョセフィーヌは彼女をなだめるようにそう言って顔の前で手を組んだ。ジョセフィーヌだって出掛けたくない。以前の彼女は違ったのかもしれないけれど……
(私ったら!余計なことを……!)
「……絶対そうしてくださいね!お願いします!」
アイリスはほっとした様子でジョセフィーヌの顔を覗き込むように見上げる。そんな彼女にジョセフィーヌは聞かなければならないことがある————
「あの……因みに殿下は私といつお出かけするとおっしゃってました……?」
——————————————
「なぜ今日体調を崩す」
(勝手にしたことになった)約束の日……超絶不機嫌なギルフォードがジョセフィーヌの部屋までやって来て、貧乏ゆすりをした。
「すみません……コホコホ」
「チッ……」
ジョセフィーヌが咳をする真似をしたところ、もうそれ以上は何も言えなくなったのかギルフォードは舌打ちをする。
この前も気の所為ではなく実際に舌打ちをしていたのかもしれない。
「殿下、感染しては大変でございますのでお帰りくださいまし」ジョセフィーヌは目を潤ませて言った。
————早く帰れ————
「丈夫だから感染らん」
ギルフォードは不機嫌そうに言うとそっぽを向く。
(ガーン!帰ってくださいまし……!)
「でも……殿下の貴重なお時間が……!」
「そもそも今日はお前のために空けてある」
ギルフォードのセリフ……本来ならば胸キュンなのだろうが、ジョセフィーヌには全く嬉しくない。それにギルフォード自体も甘い言葉として言ってはいないだろう。
「それでも……」
「俺に予定を変更しろと言うのか?」
「い……いいえ……」
(あーーーーーー!!!ヤダヤダヤダヤダヤダー!あーーーーー!!!!!)
こうして予期せず……二人のお家デートが開催されることになってしまった。
「チッ……」
ギルフォードの舌打ちをBGMに————
(本当に眠くなってきちゃったわ……)
暫くギルフォードの監視を受けていたジョセフィーヌだったが……ウトウトとまぶたが落ちてきた。
「すみません、額のタオルを冷やす水を交換して貰えますか?」
ギルフォードがミラにそう言いつけた。
手がキュッと優しく握られる。
さり気なく離しても……再び握られるので眠さに負けてどうでもよくなってきた。
「いや……これは彼女が手を握って欲しそうにしていたので、手が冷たいからと」
ギルフォードの声にジョセフィーヌは思う。
(全然していない)と————
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「ギルフォード様?なぜ手を握ってくださらないの?私たち婚約してますのよ?」ジョセフィーヌ様はイライラと眉を寄せる。
「……あまり人前でベタベタするものではないですから」
ギルフォードはそちらを見ないようにボソボソと発言する。
「…………」
「自分は仮にも第二王子で」
「……ぷ、私がいなければその権力も地位も失う……ポンコツ王子の間違いではありません?」
ジョセフィーヌ様は嘲笑うかのようにそう言った。
酷すぎる!
私は黙っていられなくなり、一歩前に踏み出した————
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これもまた強制イベントなのだろうか?最早ギルフォードがジョセフィーヌの手を握りたい人みたいになっているが……大丈夫なのだろうか。
「…………ふぅ」
「どうした、苦しいのか?おい、りんごを食え。栄養を取れ、回復しろ」
ジョセフィーヌが思わずため息をつくと、ギルフォードは自分が手土産に持ってきたりんごをジョセフィーヌの口元に持ってくる。
(うるさい……)
しかし確かにギルフォードが握った手は温かい。
コメント
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おつかれー、第6話読んだよ! 夜会からの流れで、ギルフォードが追いかけてきて手を握ったり、りんご食べさせようとしたり…あれれ?「嫌われてる」はずなのに行動が優しくない?ってニヤニヤしちゃったわw ジョセフィーヌの「早く帰って」念じまくりも可愛いし、強制イベントに翻弄される姿が面白かった🔥 記憶戻る気配ないけど、このまま距離縮まるのかな?次が気になるー!
芙月みひろ
45
設楽理沙
1,530
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