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アンナの部屋を出てから、しばらく歩くと、また一人で出歩いているジョージアと出会った。僕は、結構な頻度で散歩帰りらしいジョージアと出くわすような気がする。

「ジョージア様、先日はご招待していただきありがとうございました」

まずは、挨拶がてらに先日のお礼から話し始めることにした。僕に微笑みかけてくれたので、関係性は良好だといえよう。

「あぁ、サシャか。こちらこそ、話ができてよかった!」

「ところで、どこかに出かけられますか? これから伺おうとしていたのですが、お邪魔でしたら、また改めて……」

そう言ったところで、ジョージアに遮られる。

「ちょっと息抜きに出てきただけだから、よかったら一緒に散歩にいかないか?」

特にこれからの用事もなかったので、僕は「一緒に行く」と返事をする。なぜか、ジョージアが嬉しそうにしているのは気のせいだろう。ん? と思ったが、一緒に中庭に向かうことにした。

「そういえば、チューリップの見ごろはもう終わりだと聞いていますが、また、新しい花でも咲くのですか?」

聞いてみるものだ。こんな質問でも、きちんと答えてくれる。

「今度は、東の端にある国から取り寄せた「ハス」という花が咲くそうだよ。ちょうどこれくらいのピンクの花が咲くとか。まだ、見ていないけど、水の中で咲くと聞いて見に行こうとしているんだ。珍しいと思わないかい?」

ジョージアに言われ、ちょっと想像をしてみるが、イメージが全くわかない。あれから、花の図鑑など見漁ってみたけれど、東の端の国のものまでは見なかった。

「水の中に咲く花ですか? 不思議な花もあるですね? 想像がつきませんよ」

そうこう話しているうちに中庭についた。どこに咲いているのか見当がつかなかったため、二人でぶらぶらしていると池にポコッと浮いているピンク色のものが見える。

「あれ、ですかね……?」

恐る恐る池の方を指してジョージアを見てみると、うんと頷いている。先ほど、話していたくらいの大きさのピンクの花が何個か浮いている。

「上から見てみようか?」

池を見渡せるように東屋が設置してあるので、二人でそこへ足を運ぶ。

かわいい女の子とならいざしらず……妹の未来の旦那だと思うとせつない。

口には出さなかったが、相手はかなり美人なのだ。下手に女の子と一緒にいるより、なぜかとても緊張した。対面に優雅に座るジョージアは、先ほどの花を指さし、「なかなかのものだ」と満足そうにしている。僕もそちらに視線をうつすと、ジョージアのいうとおり見事な花であった。

「美しいですね。今度、妹にも教えてあげます」

「そうしてあげてくれ。去年はなかった花だ。気に入ってもらえるといいな」

一通り、花を楽しんだわけだが、そろそろ本題を伝えてもいいころじゃないだろうか?

「ジョージア様、我が家への招待状をお渡ししたく……今でもいいでしょうか?」

そういって先ほど書いたばかりの招待状をポケットより出す。雰囲気のある東屋とジョージアのおかげで、ラブレターでも渡している気分だ。僕は、そんな気は、全くないのだけど……と肩を落とす。

「そういえば、日にちは決まったの?」

「はい、翌週の休日にさせていただきました。一応、妹の外聞もかんがみさせていただいて、ジョージア様へは僕からの招待状ということになっています。我が家にいらしたら妹と話ができるように用意させていただいてますので、ご安心を。隠れ蓑というわけではないのですが、実は当日もう一方呼ぶことになっています」

「それは、アンナリーゼ嬢の友人?」

「そうみたいです。アンナの友人らしいのですが、誰かまでは聞かされていません。こちらの方は、僕が対応させていただくことになっています」

ほぅという言葉と面白いという顔でこちらをじっくり見られ、僕は少し恥ずかしくなった。

「それは、どちらが言い出したの?」

「どちらと言いますと? あえて言うなら二人でってところでしょうか? 妹は、僕とは違い何せすごい縁談の数を受けていますからね。特定の方と会っているとなると外聞がよくないですし、私はこのとおりモテませんから……妹にあやかることになりました」

「なるほど」と頷いている。

納得しているらしい。

それはそれでちょっと! と思うが、事実、妹の縁談話はすさまじい。それに比べ、全く何もないのは僕だ。学園の卒業も控えているというのに、縁談のひとつも申し込みがない。それを妹がなんとかしてくれると言ってくれるのだ。すがれるものにはすがる。情けないと言われようが、僕には妹のアンナリーゼがいれば、と思うことが多い。エスコートも決まらなければ、僕のパートナーをしてくれるだろうしと思っていた。

ジョージアみたいにわらわらと言い寄られるのも大変だが、全くないのも大変なのだ。卒業式のエスコートも控えている今現在、大変困っているのも事実。今から打てる手は打っておかないと当日、泣くのは僕自身だ。

あぁ……妹よ……僕の天使!

いつもは、あれだけど……と、一人の世界に入っていった僕はジョージアに不思議そうに見つめられていた。

「サシャ? 戻ってきてくれ……」

「あ……はい、ただいま戻りました、ジョージア様。と、いうことでですね、当日、妹のことをよろしくお願いします」

そこまで言うと、僕は楽しみすぎて、また向こうの世界に戻りそうである。

「そうだ、家に招待してもらう仲になるのだし、先日もその話をしただろう? ジョージアと呼んでほしいのだけど? あと、敬語もなしで」

目を明後日の方に泳がせたいが、この蜂蜜の瞳には何か特別な魔法でもかかっているのか……逸らせない。

「滅相もないですよ!と言いたいとこだけど、いいの? そんなこと言っても」

「あぁ、構わない。正直、誰も彼もがかしこまって寄ってくるのはちょっと窮屈なんだ。その方がありがたいし、できれば、教室でもそうしてほしい」

ジョージアは、ほんのり微笑。

落ちない令嬢はいないだろう……何その笑顔……僕、恋に落ちそうですけど……ちょっと赤面。

「わかった! これからはそのように。先日も実はどうしようかと迷っていたんだ」

こちらは、妹と同じ土台のはずなのだが、なぜか平凡な顔立ちになっている僕の最高の笑顔でお願いしておく。

「ん。サシャ、今度の招待、楽しみにしている!」

そこで話は終わり、寮までまた一緒に歩く。ちらほら、カップルが中庭の散策をしているのが見えていた。周りからはどんな風に見えるのか、男二人で中庭を散歩していることが、恥ずかしくなり二人とも赤面だった。お互いの顔をみて指摘し合い、大きな声で笑ってしまう。

なんだ、ジョージアってかなりいいやつじゃん! 僕、かなり気に入ったかもしれない。

今日のひとときのことを両親への報告として書くことに決めたところだった。

ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

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