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8 - 悲嘆の月(🇨🇳×🇯🇵)

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2025年09月21日

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『来週、日本まで行って、今度こそ久々にお前に会うつもりだったあるが…………結局やめることにしたある』
「…………え」


 テレビ電話にて、耀さんは開口一番、私にそう告げた。


「…………どうして、ですか?」

『今の日中関係を鑑みた結果ある。我が行ったところで、今の日本では歓迎なんて微塵もされねぇある。忽ちスパイ扱いあるよ』

「っそんな…………そんなこと言われたら、私が反論しますよ。耀さんはそんな人じゃないって」

『そんなことしたって、おめぇが傷付くだけある。我を擁護したところで、「売国奴」だの「非国民」だのと罵られるのが関の山あるよ』

「じゃあ……私から中国に行って、貴方に会いに行くのは……」

『それも駄目ある。今の中国の治安、そして国民の日本人への態度がどれだけひでぇか、おめぇも知ってる筈ある。それで事件に巻き込まれる可能性も、高ぇあるからな…………』

「…………っ」


 耀さんの語る絶望的な言葉に、私は息を詰まらせた。


 その人の人となりと国民性は、決してイコールじゃないのに。なのにそれがイコールなのだという認識が、さも当たり前のものとしてまかり通っているという、惨い状況。 それは日本も中国も同じだ。


 互いにその民族を「絶対悪」と信じて疑わない認知の歪みが、確かに其処にある。それは私と耀さんの関係に「綺麗事」や「まやかし」というレッテルを貼り付け、最初から無かったものとして、潰しにかかろうとする。


「私は、私は厭です……そんなことで、耀さんに会えないなんて……それに、貴方にはもう何年、直接お会いしていないか……」

『…………少なくとも、4年くらいあるな』

「4年もじゃないですか!!」


 私は叫んだ。


「幾らこうしてネットがあっても……貴方の匂いだとか、温もりだとか、そんなのは媒体では感じられないじゃないですか……それに貴方の場合、いつ当局に目をつけられても、おかしくないのに……」

『菊…………』

「会えるものなら会いたい……私は生身の哥哥に会いたい……哥哥……っっ」


 忽ち涙が溢れ、モニターの向こう側にいる、耀さんの顔が歪んでいく。このままだと、 この先一生哥哥に会えないかもしれない…………そんな不安と絶望が、私の心をずたずたに引き裂いていく。


「っひぐ…………哥哥…………」

『…………阿菊アージィ


 耀さんが咽ぶ私に声を掛ける。かつての呼び名で、優しい優しい調子で。


『今…………おめぇの家の窓から、月は見えるあるか?』

「…………っ、ぐす」


 悲しみに痛む目を拭いながら、私は窓の外を見た。真っ暗な夜空に浮かぶのは、静かに輝く満月。


「…………見え、ます」

『そうあるか、同じあるな。我の家の窓からも、月が綺麗に見えるある』


 モニターに視線を戻すと、耀さんは笑っていた。


『月は想い合う人と人とを繋ぐ、そんな存在ある。大丈夫ある、阿菊。想い合っていれば、いつかまた……おめぇと直に逢える日が、必ず来るあるよ』

「哥哥…………」

『可愛い弟弟、常におめぇの側にいられなくても、我はおめぇを────』

「…………哥哥?耀さん?」


 突如ぷつりと、通信が途絶えた。


 其処から再び、モニターが繋がることはなかった。





 ひと月後、私の自宅に一つの小包が届いた。


 中に入っていたのは……幼い頃の私と耀さんが写った写真、そして……テレサ・テンのカセットテープ。ラベルには、『月亮代表我的心』とあった。


 今宵も綺麗な月が出るから、それを眺めながら、このカセットを聴こうか。鳴呼、でも…………貴方を思い出して、また泣いてしまいそうだ。


 あの日以来、耀さんとは…………全く連絡が取れなくなってしまったから。

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