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「じゃあキッチンは?日菜ちゃんはスイーツを作る方が合ってるんじゃ…」

「それもダメだ」

暁さんにも即答する榊くん。

「なんだよー。『好きでやってない』んじゃなかったのかよー」

なぜかイタズラめいた顔でのぞきこむ拓弥くんをうるさがるように、榊くんはぶっきらぼうに言った。

「…こんなトロいやつに2週間も付き合ってきたんだ。ここまで来たら意地でも独り立ちさせねぇと俺の苦労が無駄になっちまうんだよ。俺はおまえらみたいにいい加減じゃないからな」

「へぇー」と拓弥くんと暁さんは顔を見合わせた。

そして、こらえきれないかのようにぷっと噴き出した。

「そんな固いこと言ってごまかしているけどー、本音はもっと別だったりしてーぇ」

「はぁ…!?」

「あれ?晴友くん、ここに置いてあるのはなにかな?」

「…!」

わざとらしい口ぶりで言った暁さんの手には、ケーキが乗ったお皿が…。

「こんなところにケーキ。晴友くん、休憩中にケーキなんて食べるっけ?」

「そ、それは…」

「-――それとも、日菜ちゃんにあげようとしてたとか?」

わたしに…?

思わず榊くんを見つめると、目が合った。

けれども、すかさずそらされてしまう。

その横顔には、ムッと怒ったような表情が浮かんで…。

「…それは新作の試作だ。こいつ、もともとは常連だったやつだからな。意見を聞こうと思ったまでだ。これは俺のためにやってるのであって、別にこいつをどうしようとは」

『はいはい』

話半分な様子で一緒にうなづく拓弥くんと暁さん―――だけど、

「こらぁああ!拓弥っ!」

「暁くぅううん?」

パン!パン!

突然、乾いた音が2回、休憩室に鳴り響いた。

不意の一発を仲良く頭にもらった拓弥くんと暁さんが、ぎょっとして背後を振り返ると、

『仕事サボってなにしてるの、あんたたち?』

完璧に声をユニゾンさせて、シェフスタイルの祥子さんと、ホールスタッフの美南ちゃんが引きつった笑みを浮かべていた。

それまでの余裕ある態度とは一変。

拓弥くんと暁さんは、文字通り震えあがって身を寄せ合った。

「私一人でホール回させるなんていい度胸ね、拓弥ぃ?」

美南ちゃんは右拳を左手の平にパシパシぶつけながら拓弥くんの前に仁王立ちした。

「な、な、なんだよ、晴友だってサボってるだろー」

「晴友はスタートから休憩なしだったからいいの!あんたなんてパフェ注文した女の子とおしゃべりしていただけじゃない!」

「トークサービスだって仕事の内だ!」

「問答無用!」

「痛っ!」

と、顔面に掌底をもらう拓弥くん。

美南ちゃんは雑誌モデルをやってそうなくらい、お洒落で美人でスタイルのいい女の子だけど、空手有段者という一面も持っている。

しっかりしていて面倒見がいいから、祥子さんからの信頼も厚くて、ホールではリーダー的な存在。

特に幼馴染の拓弥くんには、『しつけ』と称して一際キビしい。

そんな美南ちゃんと拓弥くんの隣では、同じように暁さんが祥子さんに『しつけ』をされていた。

「誰が勝手に下がっていいなんて言ったかなー、暁くん?」

「いやぁ、祥子さんのお手を煩わせないようにと早めに補充しておこうと思って」

「ふぅん、ワッフルを持ってとは、ずいぶん変わった補充なのねぇ」

「うぐ…。俺と拓弥くんは日菜ちゃんを先輩としてなぐさめていただけなんだけどなぁ」

「そうだ。晴友が日菜ちゃんをいじめるからいけないんだぞ。元はと言えば、こいつがへそ曲がりなのがいけないんだよ」

「俺がへそ曲がりだぁ?」

榊くんが思いっきりにらんだけれど、拓弥くんは全然動じる風もなく口端を上げた。

「そうだよ。素直になれないお子サマだ」

「はぁ!?」

「はいはいそこまで!」

目をむいた榊くんの間に、祥子さんが割り込んだ。

「話はあと!今はホールもキッチンも人がいないんだから早く戻るよ!拓弥くんと暁くんは今の時間分の代わりとして一時間タダ働きね」

『えええ!!』と絶叫するふたりと、それを鼻笑う榊くん。

祥子さんはそんな榊くんにも、容赦ない通告を浴びせた。

「晴友もたしかに日菜ちゃんに厳しすぎ。これ以上日菜ちゃんを泣かせるようなことがあったら、時給半分にするからねっ」

「はぁあ!?」

「嫌だったら日菜ちゃんに謝って、次からもう少しやさしく教えてあげなさい。ごめんね日菜ちゃん。うちのバカ弟、ちゃんと謝らなかったら教えてね。美南ちゃんにシめるように言っておくから」

「え…あ、はぁ…」

しどろもどろに返すしかできないわたしに、祥子さんが器用にウィンクを投げてくれた。

そうして、猫をつかむみたいに暁さんの後ろ襟をつかむとキッチンに戻っていく。

同じように美南ちゃんも拓弥くんの首根っこをつかんで、

「じゃあ日菜ちゃん、わたしと拓弥もホールに戻ってるから、ゆっくり休んでね」

と、親指を立ててグーサインを出して拓弥くんを引っ張っていった。

「晴友っ、ちゃんと謝れよ!」

引っ張られながらも残していった拓弥くんの言葉を無視して、榊くんはムスリとしている。

わたしはといえば

気まずすぎる…。

だって、狭い休憩室の中で榊くんと二人っきりなんだもの…!

せめて…誰か一人は残ってほしかったよ…。

お店忙しいなら仕方ないけど…うう。

わたしは息するのも申し訳ないような気になりながら縮こまっていた。

榊くんを、ちらっと見る。

ぱち

目が合った…!

すかさず目をそらしてうつむく。すると、ぶっきらぼうな声が聞こえた。

「俺はあやまんねぇからな」

「……」

「俺は悪くない。グズなお前が悪い」

「はい…」

それは十分わかっています…。

榊くんはきちんと指導してくれて、フォローもしてくれるもの。

悪いのは…

「でも、これはやるよ」

不意に、うつむいた先の視界に、小さな抹茶ロールが入ってきた。

これは…

さっき暁さんに聞かれていた榊くんが持ってきたケーキ…?

イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で

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