「昨日今日とありがとうございました。…ホントに楽しかったです」
荷物をたくさん抱えながら律儀に礼を言うトラゾーの顔は楽しさから一変して、落ち込んだ表情に変わっていた。
「お借りした服は洗濯して明日返しに行きます」
「いつでもいいよ」
「いえ、そういうわけにはいきません」
真面目だなと感心していた。
「らっだぁさんの使ってる柔軟剤とかの匂いじゃないのは申し訳ないですけど…」
「いや?俺、トラゾーの匂い好きだよ」
「ま、た…そういうことを…」
信頼してる人間に対しての警戒心の薄さと、心の開きようが可愛いと思う。
根本が優しいやつだから、他人に対しても下手に無碍にできないところが玉に瑕だけども。
「はは、まぁ、ゆっくり休めよ。嫌な時は俺らのとこ来てもいいからな」
「…ありがとう、ございます」
「ん、じゃあおやすみ」
「はい、おやすみなさい。らっだぁさん気をつけて帰ってくださいね」
「ありがとなぁ。じゃ、ちゃんと鍵閉めろよ」
「はい。…それでは」
パタリとドアが閉まり、ガチャリと2つの音がしたのを確認してずーっと振動しているスマホを手に取る。
「……連絡してくんなって言っただろ。なんだよ」
案の定、ぺいんとだった。
出掛けていた間もずーっと振動し続けるスマホが嫌で電源を落としていた。
つけた瞬間でこれだから、ある意味恐怖を感じる。
『トラゾーに何もしてねーよな』
「してねーよ。デートしたくらいだっての」
『は?』
スピーカーにしてるのかノアがいの一番に反応した。
「…羨ましい?」
『…クロノアさん煽んのやめろよ』
「煽ってねぇし。ホントのことだもーん」
エレベーターで下まで降りる。
『もーん、じゃねぇよ。キメェな』
「トラゾーに執着してるお前の方がキモいわ」
『あいつは、…トラゾーは…』
踏み出せない。
あいつらを見てて思う。
築かれた関係が壊れるのは一瞬で容易い。
それを構築し直すのはとても簡単とは言い難い。
「…ちなみに俺のとこにらともさんもついてるから、トラゾーのこと泣かしたら……あ、いや、もう泣いてるから俺がそのこと伝えたらお前ら終わるぞ」
『は?ともさん?おま、なんて人…ってか、トラゾーが泣いたって…』
焦る声に若干の優越を感じる。
「おっと、このことは言っちゃダメだったわ。忘れろ?」
人気のある歩道を歩きながら、わざとけしかける。
『トラゾーのこと、どうする気なんですか』
「…ノアこそトラゾーのことどうしてぇの?」
『俺は…』
「傍観者気取ってるしにがみくん、お前もだぞ」
『っ、僕は…』
お前らも怖いんだろ。
それでもいつまでもその場で佇んで足踏みしてても一歩も進めない。
「……明日、トラゾーに詰め寄って聞き出そうとかすんなよ。優しいあいつのことだからお前らに流されて自分の感情押し殺して嫌々話すだろうからな。だから、さっきのは忘れろ。これはお願いとかじゃねぇ。命令だ」
息を呑む3人小さく息を吐く。
「…まぁ、早めに誤解は解いといた方がいいぜ」
『……分かってるけど…』
「忠告はしたからな。…んじゃ、またなー」
通話を切ってスマホをポケットにしまう。
「……大事にできないなら、俺がもらうからな」
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