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「……え?」
「結婚しようと思ってるんだ」
お互い作業をしながら他愛のない会話をしていた。
ふと、言っておかないといけないことを思い出してそれを伝えた時に返ってきたのは間の抜けた返事だった。
「結婚、ですか…?」
困惑するトラゾーにいきなりすぎただろうかと思いつつ言葉を続ける。
「うん。俺も、もういい歳だしね。親にもそろそろ…って言われちゃってさ」
せっつかれたことを思い出して苦笑いした。
トラゾーはというと複雑そうな、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「そう考えてる人がいるということ、ですか?」
少しズレた返答に内心疑問符が浮かんだ。
「…まぁ、ね」
でも、先のことを考えてトラゾーと、と思うと嬉しいものがあって小さく笑った。
「…クロノアさんと一緒なら、幸せになれそうですね」
「トラゾーぺいんととおんなじこと言ってるよ。でも、嬉しいな」
プロポーズしようと思ってると伝えた時のぺいんとの顔。
トラゾーと思考のよく似たぺいんとの驚いたような表情が思い浮かぶ。
それはそれで複雑だけど。
だけど、2人なら幸せになれそうだと喜んでくれた表情も思い出していた。
「だって、優しいしきちんと怒ることは怒ってくれるし、相手のことちゃんと受け入れて尊重してくれそうですし。なによりカッコいいですしね」
俺は当たり前のことをしてるだけだ。
ただ、トラゾーの前ではやっぱりいい人ぶりたいのは当然のことで。
「かっこいいかは別として、そんなの誰だってそうだよ。好きな人にはね」
「うーん、言葉に表すの難しいな…、とにかく、クロノアさんと一緒になれる人は幸せ者だなってことです」
「…そっか、トラゾーもそう思ってくれるんだね」
「⁇、喜ぶべきことじゃないんですか?」
実感の湧かないトラゾーに曖昧に笑ってそれを言いたかっただけ、と話をきった。
きちんとしたところで言ったほうが良さそうだ。
「(それにしても、トラゾーの表情。…煮え切らないというか……まさか、別に好きな人ができた?)」
相手は誰なんだろう。
知ってる人か、知らない人か。
いや、トラゾーに限ってそれはあり得ない。
そういう不誠実なことをトラゾーができるわけないのだから。
「(もし仮に、俺じゃない人を好きになってたら……いや、ダメだ。俺はトラゾーを傷付けたいわけじゃない)」
彼の全てが好きだと思った。
さりげない優しさや、誰にでも平等に接するとことか。
周りの人たちを見放さないところとかが好きだと思った。
最初は弟みたいだなと思っていた。
けど、裏ではいろんなことを我慢していることに隣で止めてあげられる立場になりたいと思った。
それはいつしか好きだから我慢をさせたくない、隠してること全部知りたい、と思うようになった。
「……」
それぞれの作業に戻ってしまい、不確定の事象に、相手とか、どこでどう知り合った人なのか、そもそも別に好きな人がいるのかとか聞きそびれてしまった。
ただ、そんな私情なこと聞かれても答えづらいだけかもしれないとやっぱり聞くのはやめた。
「(…俺がいるのに、他の奴に気持ちがいくほどそいつは優しいの)」
誰にも渡したくない。
彼に手を差し伸べたのは俺だ。
俺が願うのは、トラゾーを幸せにしてあげたいこと、一緒に幸せになること。
「クロノアさん」
「うん?」
暗い考えに至る前にトラゾーが声をかけてきた。
顔を上げてそっちを見る。
「ちゃんと、呼んでくださいね?」
ぺいんとたちのことだろうか。
それは呼ぶに決まってるのだけど。
「?、当たり前だよ」
眉を下げて笑う顔に、やはり困らせてしまったのだろうかと不安になる。
今まで、こうやって一緒に過ごしたり遊んだりもした。
それらしい接触はやんわりと避けられてきたけど。
配信者として優先することもあるだろうけど、結婚すれば最優先事項はトラゾーになる。
俺は何よりも彼が笑顔であってほしいから。
トラゾーは人を見た目や肩書きとかで判断するような人間ではない。
内面を見て、その人というものを見てくれている。
同性婚がようやく認められた今。
偏見の眼差しはまだ厳しいものの、確かに祝福をされている人たちもいて。
そんな眼差しを俺はいいとしても、トラゾーに向けさせるわけにはいかない。
というより、そういうので判断する人間には関わってほしくない。
そんなことでトラゾーの表情を曇らせたくないし、そんな有象無象に感情を割かれたくない。
彼から向けられるものは誰にも渡したくない。
「幸せになってください」
「⁇、何言ってるの?幸せになるよ、絶対」
トラゾーの言葉に首を傾げて再び作業に戻った。
不安そうな顔。
不安を取り除けるようにちゃんと伝えないと。
仮に別に想う人がいるなら、それを諦めさせないと。
見せたくない感情が出そうになって、それを振り払う為に作業に戻るしかなかった。
「(誰にも渡さない)」
きっとここで俺が、君しかいないんだ…、と困った風に言えば優しいトラゾーは全てを押し殺して俺といてくれる。
それを利用しようとする狡い俺がいた。
けど、そんなことはしなくない。
だから、俺は俺自身の為彼のことを探ることにした。
コメント
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、、やばい、ニッヤニヤしながら見ている自分がいる… なんかちょっと意味深風に考えてしまう自分はおかしいのだろうか…いいや、私の考えは間違っていない!(多分) さぁkrさんは今後どう出るか…楽しみなものですね!✨️