「この辺りの道はなだらかなので、ゆっくりと走れますから」
「ああ」と彼が頷いて、エンジンをかけ車を発進させる。
「やはり緊張するな」
他に走る車はない道をそろそろと進めていく。ハンドルを握ると、かつての感覚が蘇ってきたのか、車は次第に滑らかに走り出した。
「ドライビングの勘は取り戻せましたか?」
ただ、彼が運転をしないようになった理由も心に留めていて、もし何かあればすぐにフォローが出来るよう、運転席から目は離さずにいた。
「ああ、うん、以前はよく車を運転していたんで、体は覚えているんだが……」
言いながらカーブを曲がろうとした際、ハンドルを切るタイミングがずれてしまい、ガードレールが目の当たりに迫った──。
幸い速度が出ていなかったこともあり、咄嗟に横からハンドルを取って切り替わすと、車は大事なく止めることができた。
「大丈夫でしたか?」と、傍らの彼を心配して声をかける。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう……」
彼が口にして、ハァーとひと息をつく。
路肩に車を寄せて止め、「申し訳なかったです」と、頭を下げた。
「いや、君が謝ることはないよ」
「ですが……」
「いいんだ。君が気にすることはないから」
「でも……」
同じようにしか言えずに、顔をうつむかせると、
「私が車に乗りたいと思って、君は気づかってくれたんだろう? 嬉しかったよ」
と、あたたかな手の平で頭が優しく撫でられた……。
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