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早速昨夜仕入れていたものを広場に並べてみた。
マジックバックだけでは運びきれない荷物量だった為、エルフにも手伝ってもらった。
「こ、これは?」
里長が目を見開き驚愕しているな。
よしよし。昨日アニータに無理を言って別の小屋で寝てもらい転移しまくった甲斐があったもんだ。
「これは調理道具と服だな。それとお湯を出す魔導具。
ああ。これはこの森で出る魔物の魔石が使えるから、燃料の心配はいらないぞ」
「そういうことではなくて……」
どう言うことなんだってばよ?
まぁいい。
「ここは素晴らしい景色に良い村だけど、一つ問題があった」
「それは?」
「風呂がないってことだ!」
そう。もはや毎日露天風呂に入っていた身としては風呂がない……いや、正直に言おう。
風呂で夜空を見上げて晩酌が出来ないのはつらいのだ!
あと服。
エルフ達は自然大好きなのか、麻の服を着ているんだが……
チラホラと色々な部分がチラ見えするんだよ……
女のが見えた時はラッキーくらいに思っていたんだが、男のは……
後、俺だけまともな服を着ているのが大きいな。
何かサバイバル番組でズルをしているみたいで……
調味料も同じような理由だ。
後、俺がいなくなっても暫くは色んな味を楽しめるように量をな。
「風呂ですか…聞いたことはありますが…」
ここのエルフは人と交流がない。
まぁバーランド王国と交流が有れば俺が知らない筈はないし、聖奈さんが飛びつかない筈もないしな。
もちろんこの先にあると思われる国とも。
里長は伝承で風呂の存在は知っていたようだが、入るどころか見たこともないらしい。
まぁ伝承って言っても、長生きだから親から聞いたとかレベルだと思うけど。
「これから風呂を作るから空いてる場所を教えてほしい。
その間に服をみんなに配ってくれ。
余るくらいにはあるから」
俺が出した服を物珍しそうに見つめていたエルフ達は、エメラルド色の瞳を輝かせていた。
「池だ」
アニータは出来上がった風呂を見て感想を述べた。
うん。知らなかったらそんなもんだよな。
露天風呂だから天井はないが、男女別で入れるように二つ穴を掘り、速乾性のコンクリートのようなものを塗り水が逃げないようにした。
排水はリゴルドーの家に余っていた塩ビパイプを使った。
お湯が出る魔導具も一つしかないので、お湯が出るところに桶をお湯受けにして、その桶に二つの穴を開けてパイプを通すことにより、別々の風呂にお湯を同時に供給することにした。
エルフは男女を余り意識しないが、俺の精神衛生上の為に衝立でしっかりと風呂に仕切りをさせてもらった。
「池じゃないな。これが風呂だ。正確には露天風呂ってやつだな」
「ろてんぶろ?なにそれ?」
「いつも水浴びをしているだろ?それの豪快版。
これからみんなに説明するから呼んできてくれ」
「りょ」
りょって…
まぁ俺が使ってたのを真似しているんだが……
子供に良くない言葉を教えたみたいで罪悪感が……
「素晴らしい…天の恵みだ……」
どのエルフがいったのかわからんが、みんな似たようなことを言っている。
「まぁこれが一連の作法だ。後は掃除当番だけど…」
「それは私達が」
俺は入っていない。
風呂に入っているのは里長をはじめ、男性エルフのみ。
俺?
いや、女性が見てる前で裸になれるなら彼女いない歴イコ……
やめよう。
「よし。鍋や薬缶、フライパンを配れたな。
エルフには鍛冶師がいないようだから鉄製品も直せなさそうだが…」
そんなに簡単には壊れないけど、それはあくまで人視点だからな。
長寿のエルフからしたら、俺の持ち込んだものは束の間の便利さにしかならんな。
「また考えてる」
結局風呂作りは日が暮れるまでかかり、今はアニータの小屋だ。
まだまだ考えることは山積みだ。聖奈さんみたいにはいかないな。
「ん?ああ。どうしたらここの生活が便利で豊かになるかなってな」
「私達は気にしない。エルフは自然と共に生きて、自然に還っていく」
っ!!…そうか。俺は余計なことをしているんだな。
まぁ済んだことは仕方ない。
この後俺が齎したモノをどうするのかはエルフ次第だ。
俺がそう思っているとアニータが・・・
「でも、セイが与えてくれたモノはみんな喜んでる。もちろん私も。
便利で豊かで悪いことは何もない。
セイはしたいようにしたらいい。でも、それで悩んじゃダメ。
エルフは何も気にしてない」
「…そうか。何だかエルフって変わってるな。自分の事が後回しすぎるっていうか…無頓着?」
「そう。私達は自然に生きることだけ」
確かに。
欲がないわけじゃない。人から見ると酷く薄いんだ。
生きてるようでそうじゃないような。
だが……
「里長は感情豊かだよな?」
「エルフは歳をとると感受性が高まる。逆に赤子の時は大人がいないと飢え死にする。
忙しい時期の赤子はよく死んだと聞いたことがある」
「飢え死にって…泣いても母乳を与えないのか?」
「泣く?赤子は泣かない。泣くのは年寄りだけ」
なんだと……
それだとエルフの赤ん坊は、お腹が空いても漏らしても泣かないってことじゃん……
感受性の強弱どころじゃないな。
感情が無いんだ。
時間感覚が人と違うエルフは子育て中に忙しいと、二三日世話を忘れると。
そういやお袋が『あんたはよく寝る子だったからワイドショーの二時間は起きなくて助かったわ』って言ってたな。
人でも二時間くらい泣かないとリラックスする(育児ストレスを忘れる)ことが出来るなら、エルフならそのくらいの時間は忘れるよな。
しかもお袋と違いやることがある上に、赤ん坊は泣かないんだ。
「それは大変だな」
「?人の方が大変。セイみたいに賑やかだと寝れない」
「おい!俺は寡黙なセイさんで通ってるんだぞ!」
嘘です。言われたことないです。ただの陰です。
「じゃあ、人と暮らすのはエルフには無理。
セイが里に一人いるくらいが丁度いい刺激」
俺はシゲ◯ックスか何かか?
まぁエルフの存在自体聞かないもんな。
人里では暮らせないなら当然か。
「あれ?じゃあなんで俺を住まわせているんだ?」
「キラキラだから」
うん。蛍光灯かな?
その後三日ほど暮らし、エルフ生活を十分体験した俺は再び旅に出る決意を新たにした。
ホントはもう1日早く出る予定だったが、商会の仕入れがあったから潰れた1日分余分に滞在した。
「そんな種族が…初耳です」
「聖奈には言うなよ?絶対…何としても接触をはかるぞ。
彼らは刺激に弱いからな。ミランが黙ってくれていたらエルフは守られる」
「…わかりました。墓まで持っていきます」
悲壮な覚悟をしたミランは、それはそれは可愛かった。
やっぱり感情がある表情がいいよな。
エルフは確かに美しかったけど、芸術性のない俺には少し怖かったな。
そんなこともあったが、俺は出発の朝を無事に迎えた。
「セイは妖精のセイ」
「いや、違うから」
アホなことを言うアニータにツッコミを入れていたら、里長が近づいてきた。
「我が里はいつでも貴方様を歓迎します。これは里の者の総意です。
貴方の行先に精霊様の加護がありますよう、お祈り申し上げます」
「「「お祈りします」」」
俺が来た当初とは違い、色とりどりの衣装に身を包んだエルフ達は、どこか表情豊かに見えた。
気のせいか、俺の願いがそう見せたのかもしれないが。
エルフに手を振り、里を後にした俺は旅を再開した。
まだ森を抜けられていないが……抜けられるよね?