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「まだ森かよ…」
あれから三日経つが、俺は未だに森を彷徨い歩いていた。
転移で帰還できるからっていう心のゆとりがあっても、限度はあるぞ?
もしエルフの里に…アニータに出会っていなければ、すでに俺の心は打ち砕かれていたことだろう……
「それでも明日くらいに抜けられないなら一度戻るか…」
俺にもそんなことを考えていた時期があったのよ。
でも、それは急に訪れた。
「森が…木がないっ!!」
遠く視線の先は木が見当たらないお陰で明るくよく見えた。
俺は一二もなく走り出した。
「草原?」
森を抜けると腰の高さほどの草が生い茂り、黄金の絨毯のようになっていた。
「にしても長くない?草原ってもっと…膝よりも草が短いイメージ何だが…」
草は青くなく、まるで稲穂のように金色だ。
米がついてない稲穂など、ただの雑草だけど……
「この中に入るのか…何だか勇気がいるな…」
田舎に住んでいる人ならわかると思うが、稲が十分に育っていると田んぼの中に鼠などの小動物を狙った蛇がたくさんいてもわからないことがままある。
「田舎育ちで田んぼに慣れていても、嫌なモノは慣れないな…」
森が切れた周りは一面黄金の絨毯で、俺の行くところは結局この先だ。
覚悟を決めて草原の中に入っていった。
「なるほどな…ここも人がこれない理由か…」
俺は剣を握ると草原に向かって斬り掛かった。
ザシュッ
『ギャインッ!?』
草原の中から視界に全く入らずに飛び掛かってきた狼のような魔物を斬りつけた。
「悪いな。今楽にしてやる」
狼は腹の中身をぶち撒けて苦しそうにしていた。
いや、魔力波で来るのはわかってたよ?
でも見えないのに首をスパンッなんて上手く斬れないじゃん?
狼の魔物にトドメを刺した後、先を急いだ。
こんなとこにいつまでもいられないからな。
「くそっ…今度は無限草原かよ……」
終わりの見えない金色の絨毯に悪態をついた。
「もう日が暮れるな…流石に真っ暗闇の中歩くのはな。
おっ!あそこに高い木がある!」
草原にポツンと生えた木が見えた。
高さもそこそこあり、枝も豊富にある。
「今日の寝床はあそこだな…」
転移魔法で帰ってもいいけど、流石に用もないのに帰ったら怪しいよな……
俺は渋々木を登り今日の寝床に着いた。
「ふぁあよく寝た…まだ薄暗いな」
木の上からの景色は壮観だ。
切り揃えられたかのような金色の草原が朝日が昇る前の薄暗い中、風に靡いている。
「腹ごしらえしたら出発するか」
木の上で夜を明かすなんて何だか本当に旅をしているみたいだな。
いや、しているんだけども……
転移でマンションや異世界の家に帰れよって話なんだけど、これはこれで俺が望んだことだからな。
「まぁ。聖奈さんの手料理を温めるだけなんだけど」
ここは風情より実利を取ろう。
だってせっかく作ってくれてたんだもん。
BBQばかりだと身体に悪いし?
準備も整い金色の絨毯を突き進んだ。
「やってやったぜ…」
俺は遂に、森に続いて草原を抜けた……
目の前には適度な木々と適度な草、そして明らかに街道……は言い過ぎだが、人の手が入った道と呼べるモノを視界に捉えていた。
「まずはこの道をどっちに進むかだな」
うーん。特にどっちということもないんだよなぁ。
強いて言えばこれから暖かくなるから北の方がいいのか?
リゴルドーから見ればここは南だ。
まだ春なんだけど25度くらいは気温がありそうだ。
沖縄くらいの気候か?
流石に緯度が同じだとしても世界が違うからなんとも言えないけど。
ここが北半球なら北に向かえば涼しくなるはずだし、やっぱり北だな!
目の前の道を左に進むことにした。
「へぇ。兄さんはこの国の人じゃないんだな」
第一村人発見!というより逆に話しかけられた。
良かった。
いくら国王になったからとは言え、コミュ障が治ったわけじゃないからな。
「ああ。俺みたいな人は少ないのか?」
これは外国人が、と聞いているわけではない。
「んにゃ。結構いるぞ?半分は兄さんみたいな特徴のない人ばかりだな」
「そうか。この先に街があるんだよな?とりあえずはそこを目指してみるよ。
これは教えてくれたほんの気持ちだ」
「えっ!?魔石じゃねーかっ!?いいのかよ?まぁ貰えるもんは貰うのがここの信条だから有り難く貰うぜ」
俺は持っていた狼の魔物から剥ぎ取りした魔石を柔らかそうな肉球の上に置いた。
そう。
この小さな村の人達は、みんな身体のどこかに獣の特徴がある人達ばかりだった。
「よし!貰ってばかりがダメなのも信条だ!コイツを持っていってくれ。
そのまま食べられるから、歩きながらでも食えるぞ」
「ん?悪いな。ならここのやり方に合わせて有り難く頂戴する。
じゃあな」
りんごのようなサイズの青い果物のようなものを五つほど貰った。
何だか地球ではあり得ない色をしているが、楽しみにして先へと進もう。
「これは葡萄味のリンゴ…いや梨だな」
何とも不思議な食感と味のする果物を頂きながら少し広くなった道を歩く。
「獣人か…どうやら大陸北西部と違って、こっちの大陸北東部では様々な人種が生活を共にしているようだな。
翻訳の能力のお陰で言葉はわかるが、向こうとの言葉の違いまではわからん。
言葉が違えば文化も違うっていうし…俺の感覚と近かったらいいなぁ……」
コミュ障のぼっちだからその辺が一番心配だ。
元々人の考えていることや思っていることが想像しづらいのに、感覚まで違ったらお手上げだぞ……
少しの恐怖と不安を胸に街へと辿り着いた。
「城壁がない…」
この世界に来て、初めてこの規模の街で壁がない。
最早あるのが当たり前になっているから違和感が半端ない。
「建物が混同しているし」
煉瓦造り、木造建築、石造りとバリエーション豊かだった。
もちろん今までの街でもほぼこのラインナップは揃っていたが、必ずどれかの建築様式が突出していてその街の色を出していた。
「ああ。そうか。色んな種族が住んでいるからか」
俺は一つ答えを出し、街へと近づいていった。
まだ街じゃないのかよって?
当たり前だろ!!まずは遠くから観察だ!!
コミュ障人見知り舐めんなっ!!!
「すまない。ここでは入市税は取らないのか?」
俺は意を決して犬系の獣人に声をかけた。
もちろんかなり選り好みをした結果、この人になった。
選んだ基準はここに来る前の村で声をかけてくれた獣人が犬系だったからだ。
もしかしたら狼系かもしれないが…何が琴線に触れるかわからんから聞けなかったのだ。
「はははっ!この街は初めてか?まぁそうなんだろうな。
あんたは南から来たのか?このレデュールの街は入市税なんて取られねーよ」
レデュールの街っていうのか。
「そうか。壁がないからそうなんじゃないかとは薄々感じていたが。わかった、ありがとう」
コミュ障独特の無意味な言い訳をした俺は、お礼を伝えて街中へと向かった。
「冒険者組合?あぁ。それならあそこを曲がった先にでかい建物があるからそれを左に曲がった後、まっすぐいった突き当たりだな」
一先ずこの国の貨幣が必要なので、ギルドで魔石などの納品に向かうことに。
何とか道を聞いて辿り着いた冒険者組合は俺が知っている形だったので、少し安心してしまった。
「買取ですね。あちらの窓口へお願いします」
「ついでにいい宿を教えてくれると助かるんだが」
良かった。
受付の人は獣人女性だった。
普通の美人さんだと話づらいから助かったぜ!
俺は今のところ好印象しか持っていない獣人族に、人知れず依存していっていた。
魔石も売れてお金が出来た俺は、一先ず旅の疲れを取るために教えてもらった宿に行き部屋をとった。
久しぶりのベッドに緊張していた身体は一気に弛緩していき、朝まで眠りについてしまった。
ちゅんちゅん
「晩飯食べそびれた…」
宿代は例に漏れず晩御飯付きだった。