コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ふと見据えたその先で、ぼおっと松明の灯りが浮き上がっている。
あちら側も、男に気がついたのか、即座にダミ声が響いてきた。
「これ、其処の者。このような所で何をしておる」
灯りに写し出された、ダミ声の主の姿に、男は、鬼が現れたのかと苦笑する。
髭に覆われたその姿は、魔除神、鍾馗《しょうき》そのものだった。
(ああ、あれは。あの上背にモジャモジャの顔髭は、こちらの屋敷に仕える──、鍾馗《しょうき》とかいう男。)
親子二代で、大納言家に仕えている男で、確か、父親は、昔、検非違使職についていた。こちらも、髭面の為、髭モジャの通り名がついている。親子揃っての、モジャモジャなのだ。
しかし、このような、闇夜で、あの姿を見かけたなら、皆、卒倒するに違いない。
「はいはい。我が屋敷へ帰りの途中でございます。もし、そういう、あなた様は、髭モジャ様の、ご嫡男、確か、鍾馗殿では、ありませんか?」
男の問いに、鍾馗は、一呼吸置くと、何か思い出したように声をあげた。
「ああ!!そうゆうあなた様は、長良《ながら》兄《あに》ぃの、いや、常春《つねはる》様のご友人、晴康《はるやす》様?!」
いやはや、いくらか面識があって良かったと、男──、晴康は思う。
何故だか、鍾馗は、手に振売《ふりうり》が持つような天秤棒を持っていた。ここで、曲者扱いされ、振り下ろされては、一溜りもない。
叩かれてばかりの、本当に嫌な夜になるところだった。