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おいおい嘘だろう?
白い包み紙に雑にくるまれ、息をするのも苦しくなるようなキツキツの梱包をされて、俺は、俺だけは、この店に別れを告げることになった。
とにかくこの使えない店番がいけない。
店のオーナーにセットで売られているものは価値が下がるから必ずセット販売するようにときつく言われているはずなのに、片方でも売れた方が儲かるからと、こいつのせいで何組のカップルが強制的に別れさせられたのかわからない。俺たち以外にも何組も人形たちが別れさせられてしまった。
さらに言えば俺たち人形の類に止まらず、あの男は夫婦茶碗だろうが、ペアのマグカップだろうが、4枚で1組のトレーディングカードだろうが深く考えずに、さっさとバラ売りしてしまう。店が暇すぎてバイト代が出ないとでも思っているのじゃないだろうか。そんなこと、俺たちは知ったことではないのに。
店を閉めた後の俺たちの悲しみや怨嗟をアイツは知らない。本当にいい加減な男だ。
工場で大量生産された後で、縁あって出逢った俺の花嫁は今頃店で一人、途方に暮れて泣いているに違いない。俺はセルロイドの身体の中に密かに通う、心を強く痛めていた。
俺を1000円ぽっちで買った新しい主人は、家に着くと早速包みを開けて、俺をダイニングテーブルの上に置いた。
こっそり見渡すと、広くはないが、よく整頓された小綺麗な部屋だということがわかる。
贅沢ではないが、堅実な暮らしをしているのだろう。男はキッチンの方へ向かうとお湯を沸かしている。
棚から何かを取り出した。
🖤(ラーメン…)
なるほど。これから夕飯を食べるのだな、と思った。随分と質素な男だ。インスタントということは、もしかしたら料理が苦手なのかもしれない。
しばらく見ていると、熱い、とか一人言を言いながら、袋麺を調理し、丼によそってこちらへと持って来た。テーブルにわざわざ緑のチェックのランチョンマットを敷き、具には軽く炒めた野菜やハムが付け足されていた。感心なことに栄養の偏りには気をつけているようだ。はふはふしつつ口から覗いているリスのような前歯が愛らしい男は、何やら勉強のテキストを捲りながら、真剣な面持ちで食事を始めた。
それからは特に面白いこともなく、男は適当に勉強を切り上げると、風呂に入り、寝床へと向かった。その時に、ダイニングテーブルに置きっぱなしだった俺を掴み、しばらく迷った後で枕元にスペースを作り、そこを俺の居場所と定めたようだ。
電気を消し、真っ暗になると、そう時間も経たないうちに、規則的な寝息が聞こえて来た。
コメント
2件
まきぴよさんが💙をちょっと悪く書くの珍しい😂😂