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1「友を探して」
広く碧い森。その奥、誰も入れないような入り組んだ場所に、館が有る。
この館の持ち主であり、この森の守護者。
青鬼。
名を、らっだぁという。
この物語の主人公である。
ーーーーー
「一人は飽きた」
食べかけのスープを前にして、おれは独り言を零す。
おれはずっと一人だった。ずっとずっと。何千年も。
一人でこの森を守ってきた。
「寂しい」
長く喋っていなかったからか、やや掠れた言葉は、誰かに受け取ってもらえることもなく消えていく。
「…誰か、誰かいないの?」
『朝だ』『朝』『お腹すいた』『狩り』『行こう』『東に虫がいた』
帰ってくるのは鳥の囀りのみ。
一人ぼっちで暇すぎたおれはついに鳥の言葉がわかるようになった。
鳥の鳴き声にはひとつひとつ意味がある。
だが所詮、鳥は鳥。おれの話し相手にはなってくれやしない。
「答えてよ」
『行こう』『一緒に』『太陽の方向へ』『気をつけて』『朝だ』『探して』
ガタン。椅子が倒れる音すらおれの耳に入ることはなかった。
おれは勢いよく立ち上がった。
「そっか、探しに行けばよかったんだ」
なんだ、簡単じゃないか。
旅に出よう。友達を探す旅に。
いそいそと準備を始める。
でも死なないおれには必要なものなんてないし、大事なものもない。
結局、羽のように軽い青の肩掛け鞄をひとつと館の鍵を持って、おれは玄関の扉を押し開けた。
「いってきます」