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スタートヽ(*^ω^*)ノ
カーテンの奥の気配は小さくて、ひどく遠くて、でも確かに近くにいる。
思い返せばレトルトのお見舞いに来ている人を一度も見た事がなかった。
いつもカーテンは重く閉じられ、時折聞こえるのは看護師や主治医の一方的な声だけだった。
「楽しそうだね」と小さく発せられた言葉の裏には羨ましさや寂しさが滲んでいた。
キヨは口を開いたが、ぐっと堪えた。
――どうしてお見舞いに誰も来ないの?って。
そんなの、ストレートに聞いたら傷付けてしまうに決まってる。
代わりに笑ってみせた。
「なぁ、俺まだ名前しか言ってなかったよな!俺、今高校3年。サッカー部でキャプテンやってんの。引退試合で気合い入りすぎちゃってさ、見ての通り足をポッキリやっちゃったわけよ』
カーテンの向こうから、小さく息を飲む音がした。
『そっちは?名前、教えてよ。年とかさ、どこから来たとか。俺だけ喋ってんの、不公平だろ』
軽く冗談めかして言ってみる。
少しの沈黙。
やがて、布越しに押し殺した声が返って
「….レトルト」
「年は一個上」
その言い方はそっけなくて、掴みどころがなくて、でも不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
『じゃあ、レトさんな!』
勝手に呼び方を決めて、キヨはベッド横になった。
キヨの胸は、妙に弾んでいた。
初めて、ちゃんと会話らしい会話ができた――その事実が、やけに嬉しかった。
暗闇の中で、相手の顔は見えない。
だけど、声だけが残る。静かで、どこか寂しげな声。
その夜、初めてほんの少しだけ、二人の距離が近づいた気がした。
翌朝、キヨはまだ少し眠そうな目をこすりながら、カーテンの向こうのレトルトに向かって元気よく声をかけた。
『おはよう!レトさん!』
小さく、かすれた声が返ってきた。
「……おはよう」
キヨはにんまり笑いっていた。
ベッドに運ばれてきた朝ごはんを食べながら
隣のレトルトに話しかける。
『病院食って不味いよなー。あー、牛タンとCoCo壱のカレー食べたいわー。なぁ、レトさん!レトさんも食べたいよな?』
返ってきたのは、うん、と一言だけ。
それだけの短いやり取り。
けれどキヨにとっては、心が温かくなる嬉しい瞬間だった。
素っ気ない声の中に、確かにレトルトの存在を感じられた。
続く