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RanJam
#病み
とある日。
空は朝から暗くて、昼過ぎには激しい雨が降り始めていた。
スタジオに集まっていたメンバーも、窓の外を見て少し驚く。
「うわ、めっちゃ降ってるじゃん」
綾華が言う。
高野も窓の外を見て頷いた。
「台風みたいだな」
元貴は机の上を見ながら言う。
「そういえばさ、今日のライブ用のギター弦買ってくるの忘れてた」
若井が顔を上げる。
「は?」
「いや昨日買おうと思ってたんだけどさ」
元貴は少し困った顔をする。
「近くの楽器屋ならまだ開いてると思うけど…」
若井は少し舌打ちした。
「この雨で行くの?」
外は、バケツをひっくり返したみたいな雨だった。
元貴も少し迷う。
「どうする?」
そのとき。
「俺行こうか?」
静かに言ったのは、涼ちゃんだった。
みんながそっちを見る。
「いいの?」
綾華が言う。
涼ちゃんは軽く笑う。
「近いんでしょ?」
元貴が言う。
「うん、10分くらい」
「じゃあ大丈夫」
そう言って、涼ちゃんは立ち上がった。
「すぐ行ってくる」
傘を持って、スタジオを出ていく。
元貴も高野も綾華も顔を見合せ止めようとしたが行動が早い涼ちゃんはすぐ出てしまった。
でも。
外の雨は、思っていたよりずっと強かった。
駅前の楽器屋に着く頃には、
ズボンも靴もびしょびしょになっていた。
「すみません」
涼ちゃんが店員に聞く。
「この弦あります?」
店員が棚を見る。
「あー…それ今切らしてますね」
「え?」
「違うメーカーならありますけど」
涼ちゃんは少し考える。
(若井、これじゃ嫌がるよな)
そう思って言った。
「じゃあ…どこか他に置いてる店ありますか?」
店員が地図を出す。
「この先の楽器屋ならあるかもしれません」
そこは、さらに少し離れていた。
外はまだ土砂降り。
でも。
「ありがとうございます」
涼ちゃんはまた外へ出た。
二軒目の店。
やっと目的の弦が見つかった。
袋を受け取って、急いでスタジオへ戻る。
スタジオのドアを開けたとき、
涼ちゃんは完全に濡れていた。
髪も、服も、靴も。
元貴が驚く。
「うわ、涼ちゃん!」
綾華も言う。
「めっちゃ濡れてるじゃん!」
涼ちゃんは少し笑う。
「ごめん、ちょっと時間かかっちゃった」
袋を取り出す。
「若井の弦」
若井はそれを見た。
「……あったの?」
「うん」
涼ちゃんは軽く言う。
「一軒目なくて、もう一個の店行った」
元貴が驚く。
「え、この雨で?」
涼ちゃんは肩をすくめた。
「まぁ近いし」
そう言って、濡れた前髪を軽く払う。
楽屋の空気が少し静かになる。
若井は弦の袋を見て、それから涼ちゃんを見る。
髪から水がぽたぽた落ちている。
それでも涼ちゃんは、いつも通り少し笑っていた。
「間に合ってよかった」
そう言って、タオルを探しに行こうとする。
若井は何も言わなかった。
でも。
その背中を、少しだけ長く見ていた。