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海洋高校−物語は波のように−

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海洋高校−物語は波のように−

26 - 第21話「深層試験に行けなかった日」

2025年07月28日

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第21話「深層試験に行けなかった日」
登場属性:潮属性(不登校気味の生徒)

キーワード:深層試験/欠席/繋がれない共鳴




潮属性の生徒、スナハマ=イリスは深層試験に姿を見せなかった。

試験当日、他の生徒たちは水深ゼロホールへ集合し、装備の最終調整をしていたが、

イリスの席だけがぽっかり空いていた。




彼女は長い紺灰色の髪をひとつに束ね、制服の袖口には潮痕(しおあと)模様のワッペンを縫い付けている。

肌はやや白っぽく、感情が揺れると頬に波のような斑が浮かぶのが特徴だ。

普段から声は小さく、教室でもあまり話さない。

深層試験を「受けるのが当然」という空気に、息苦しさを感じていた。




その日、彼女は校舎の一角、誰も来ない水草水槽の前に座り込んでいた。

水槽の中では、淡い緑の水草がふわふわと漂っている。

掃除道具を抱えて通りかかったシオ=コショー先生が立ち止まる。


「……行かないのか?」

声は優しく、でも揺れていた。


イリスは答えない。代わりに、水槽の反射に映る自分を指さす。


「これが“深層”だったら、よかったのに」




深層試験は、感情の海に潜る実践訓練。

ソルソと共鳴し、自分の“核”を探る、潮属性の通過儀礼。


だがイリスは、共鳴が浅い。

感情の波が広がらず、いつも途中で“変質”が止まってしまう。




「ちゃんと潜れないと、“潮”じゃない気がするんだ」

小さく、イリスがつぶやく。




シオ先生は水草の間に手を入れ、小さな巻貝を取り出した。


「ホタテじゃないけどな。こいつも、深いとこからは上がってこれねぇ。

 でも、上がれなくても、ずっとそこにいりゃ、ちゃんと“場”を作るんだ」




水槽の中で、波がゆらぎ、光が揺れる。

イリスの表情が、わずかにほころんだ。


「……今日、行かなかったこと、書いてもいい?」

「波域手帳か?」


「ううん、水槽日誌。ちょっと借りていい?」




彼女は水槽の管理記録帳をめくり、空いていたページに静かに書いた。


> 『今日、深くまでは潜れなかったけど、

 “水の中にいた”ことは、たぶん間違いじゃない。』





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