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「ただいまー……」
寮のドアを開けた瞬間、遥は違和感に気づいた。
……静かすぎる。あのうるさい奴の声が、どこにもない。
「……あれ?奏太は?」
遥が静かに問いかけると、翠珠が首をかしげる。
「ちょっと前に、出ていった。『ジュース買ってくる!』って……でもそれっきり戻ってきてない。」
ルゥも、腕を組んで小さくうなる。
「おかしいわ。奏太、そんなに静かに出て行くタイプじゃないのに。」
遥がふと立ち止まった。
見慣れた玄関の靴箱、その一角に――
奏太の学生証が、ぽつんと落ちていた。
しかも、そのすぐ隣に、真っ白な羽根が一枚。
「……これは……。」
嫌な予感が胸を締め付けた。
「遥……これ……。」
梨亜もそれに気づき、表情を曇らせる。
「……まさか……。」
遥は息が止まりそうになる。
奏太が――いない。
◆
森へと駆け出した2人は、すぐに霊力の痕跡を追い始めた。
まばらに残る、奏太の霊力。
近づけば近づくほど、それは弱く、途切れ途切れに……。
「……急がないと。」
梨亜が杖を握りしめ、前を睨む。
その時――
遥の視界が、ふっと霞んだ。
体が硬直し、呼吸が詰まる。
「――っ、遥!? 大丈夫!?」
梨亜が駆け寄り、慌てて杖を掲げる。
「ヒール!」
優しい光が遥を包み、息が戻る。
「……すまない、助かった。」
遥は深く息を吐き、気を取り直す。
そのやりとりを見ていた翠珠とルゥが、心配そうに叫ぶ。
本来、使い霊の声は主人にしか聞こえないはずなのに――。
「大丈夫なの!?」
「無理しちゃダメだよ!」
その必死な声に、遥も梨亜も苦笑した。
「……翠珠、ルゥ。頼む、先生に救護班を呼んできてくれ。」
「任せて!」
「すぐ戻るから!」
2匹は勢いよく森を駆け抜け、静寂の中に足音が消えていく。
◆
残された2人は、再び森の奥へと足を踏み入れる。
血痕と白い羽根は、さらに奥へ――
まるで何かに引きずられるように、続いていた。
やがて、静まり返った空間で――
倒れている奏太を見つけた。
「奏太……!」
遥は駆け寄り、彼を抱き起こす。
その体は冷たく、弱々しい。
だが、まだ生きている――その確信だけが2人を支えた。
「ヒール!」
梨亜がもう一度回復魔法をかける。
その光が消えた時――。
すっと、奏太の体が霧のように消えていった。
「……嘘だろ……?」
遥の目が大きく見開かれる。
そこには、さっきまで奏太が倒れていた場所から
さらに森の奥へと続く、大量の白い羽根と、
より濃い――真っ赤な血痕が残されていた。
「まだ……引きずっていくつもり……?」
梨亜の声が震える。
遥は刀を構え、
梨亜は杖を握り直す。
「……行くぞ、梨亜。」
「……うん。」
仲間を取り戻すために――
2人は再び、闇の奥へと走り出した。