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――急がないと。
――間に合わない。
遥は何度も刀を振るい、目の前の霊を斬り伏せる。
だが――
「なんで……こんなに多い……」
本来なら、この森に現れるはずのない上等級の霊たちが、次々と姿を現す。
倒しても、倒しても、奥へと進めない。
時間だけが無情に過ぎていく。
(奏太が……!)
その時。
遥の耳に、遠くから――か細く、けれど確かに――
『遥!』
『遥!助けて!』
――奏太の声が届いた。
「……っ!」
遥の胸の奥で、理性が音を立てて崩れた。
「悪いが、時間が無いんだ。」
低く、冷たい声が漏れる。
次の瞬間――
遥の霊力が、満月のような白から、漆黒へと変わった。
ズ、と空気が重く沈む。
夜の森に、黒い月が昇る。
「敵……排除……早く……」
目の前にいるもの、すべてが――「邪魔」にしか見えなくなる。
そこに、救護班――翠珠とルゥが駆けつけた。
「夜道くん!?」
「やばい……霊力がおかしい!」
だが、遥はもう彼らの顔も、声も、認識できない。
「敵……斬る……早く……!」
狂気じみた刃が、救護班に向かって振り下ろされようとした、その時。
「遥くん!!」
桜色の髪が、闇の中でひらりと舞った。
梨亜が、迷わず遥に抱きついた。
その小さな身体で、荒れ狂う霊力ごと、彼を受け止める。
「もう、大丈夫……!」
「私が、いるから!」
その声が、遥の胸の奥、狂気の奥深くまで染みわたる。
「……ぁ……梨亜……?」
黒い霊力が、少しずつ、少しずつ静まっていく。
遥の瞳に、ようやく光が戻った。
「……ごめん、俺……」
「今は謝らなくていい。――行こう、奏太くんが待ってる!」
梨亜は救護班に向き直る。
「ここはお願いします!」
翠珠はまだ驚きの表情を浮かべつつも、力強くうなずいた。
「気をつけて……!」
遥と梨亜は、互いに支え合いながら森の奥へと走り出した。
――闇の向こう、奏太が待っている。
夜風が冷たく吹きつけても、二人の足は止まらなかった。