テラーノベル
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瑠華には、探し人を見つけたい気持ちが強くある。一日でも、一刻でも早く見つけ出さなければと、もう一人の自分が、ずっと急き立てている。
でも瑠華が雄斗の傍にいたかったのは、一人になるのが嫌だったから。
一度背を向けたら、二度と会えないことを知ってしまった瑠華は、じっと待つことに耐えられなかった。
とはいえ無理矢理ついてきてしまったものの、見たこともない建物で過ごす時間は不安になるだろうと思っていた。
それなのに、初めて口にする飲み物に抵抗感を持つこともないし、居心地悪さなんてちっとも感じることなく、窓の外の秋晴れの空のように、穏やかな気持ちでここにいる。
不思議な気持ちを持て余して、歩き回りたい気持ちはあるけれど、おとなしくしていろという雄斗の言葉を忠実に守り、瑠華は応接椅子にちょこんと腰掛けている。
やることもない瑠華を憐れに思ったのか、佐野は「暇つぶしにどうぞ」と、表紙の美しい異国の絵本を渡してくれた。
でも興味をそそられ頁をめくったのは、僅かな時間でしかなかった。瑠華は、絵本よりも雄斗の行動を見ていたかった。
見すぎて怒られるかな?と若干ビクビクしているが、その視線は彼に釘付けだ。
雄斗は一見、整った容姿に冷たい双眸。人を近づかせない雰囲気があり、言葉遣いも決して丁寧とは言えない。
それでも、言葉から滲み出る優しさは、瑠華の元に伝わってくる。
雄斗に依頼できた人たちは、皆、幸せ者だ。その中に自分も含まれていることが嬉しくて、瑠華は口元が緩んでしまうのを隠せない。
再び、こんな気持ちで誰かを見つめることなんて、ないと思っていた。
高緒を見つめる気持ちとは、ほんの少し違う、くすぐったくて、見ていることに気付いて欲しいけど欲しくない、そんな曖昧な気持ち。
今までの経緯を雄斗に話し終えたとき、正直、瑠華は不安だった。自分を傷つけるかもしれない怖い存在だとも。けれども、それは全て杞憂に終わった。
雄斗は安全に休める場所と、暖かい食事を与えてくれた。その表情は、穏やかとは言い難かったけれど。怒っているわけではないそうだ。
瑠華は小首を傾げて再び雄斗を見つめる。
整った横顔は、何を考えているのかはわからないが、それでも依頼者の為に心を砕いている姿はとても美しく、まるで異国の絵本に出てくる挿絵のよう。
(どことなく、あの人に似てる……)
もう二度と手の届かないところに消えてしまった、瑠華の<全て>だった人に。
目を閉じれば、色鮮やかに思い出す。銀色の長い髪、片方の口元だけ持ち上げる独特の笑顔。腕を組み、こちらを見つめる姿。
けれど瑠華は、もう二度と本物の姿を見ることはない。
唯一無二の存在だった彼が消えてしまった今、瑠華はどこにも戻る場所なんてない。ただ、残された使命を全うするだけだ。
それは、もう十分にわかっている。けれど、ふとした瞬間に襲われる孤独には勝てない。
だから瑠華は、自分に言い聞かせる。
大丈夫。私は絶対に絶望なんかしないと。
『お気張りなんし、瑠華。あんたは、強い子だ。大丈夫』
不安になった時、瑠華はいつも高緒に言われた言葉を思い出す。
そう──大丈夫。
曖昧な理由だけれど、今度こそ間違っていない。ちゃんと前に進んでいる。そして絶対に、この世界でたった一人の人を見つけ出してみせる。
#怪異
41
#ハッピーエンド
当麻月菜
912
ヂ二ヂ二
15
思いの強さで、必ず。
「佐野さんが貸してくれた本はつまらなかったか?」
雄斗さんの声で瑠華は、はっと現実に引き戻された。
机に積まれた絵本と自分を交互に見る雄斗から気遣いが伝わって、瑠華は胸の奥がジンと熱くなる。
「あ、いいえ。それよりも……」
あなたを見ていたかった、と言いかけて、瑠華は慌てて口を噤む。何だかそれを言うのは、恥ずかしい。
「ん?…あっそうか、腹が減ったのか?」
ポンと手を打ち鳴らした雄斗は、上着から懐中時計を取り出して時間を確認する。時間は正午を少し過ぎた頃。
昨日の一件から、彼はやたらと食事に気をつかう。朝食の時も、もっと食べろと、千代にお代わりまで頼んでくれた。
「もうこんな時間かぁ……すまねえな。すぐ佐野さんに用意させるから、もう少し待っとけ」
雄斗はそう言い捨てると、階下にいる佐野の元へと、足早に出て行った。
一人残された瑠華は、呆気に取られ瞬きを何度も繰り返す。それから、思いっきり破顔した。
やっぱり高緒の言う通り、横浜に来て良かった。
コメント
1件
みぅです🥀 読了しました…瑠華の心情がすごく繊細に描かれていて、胸が苦しくなりました。雄斗を見つめる視線の甘さと、高緒を思い出す切なさが交互にきて、感情が忙しかったです。特に「あなたを見ていたかった」と言いかけて慌てて口を噤むシーン、可愛くてじんわりきました。雄斗はぶっきらぼうだけど優しいし、佐野さんの気遣いもあたたかい。高緒の「お気張りなんし」という言葉が瑠華を支えているのが、とても響きました。次が気になります🌙