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『主人公、幼なじみに激似の件。』
Pr視点
放課後のコンビニ前。
ベンチに座ってスマホをいじる俺の横で、ちぐがアイスをかじってる。
「ぷりちゃん、溶けるよ? 早く食べなきゃ〜」
「ちぐは年中それ言うてるな」
そう返しながら、俺は画面から目を離せなかった。
表示されているのは、今ハマってるBL漫画の最新話。
――黒髪、少し垂れ目、笑うと八重歯。
素直で、ちょっと鈍感な主人公。
「……」
「ぷりちゃん? さっきから画面に穴あくよ?」
「……いや」
ちぐの顔を見る。
見比べる。
また漫画を見る。
「……似すぎやろ」
「え、なにが?」
ちぐがきょとん、と首をかしげる。その仕草まで一致してて、俺は思わず頭を抱えた。
「俺が読んでる漫画の主人公な、ちぐにそっくりなんや」
「え〜? ほんとに? 俺そんなかっこよくないよ?」
「そういうとこもや」
照れたみたいにへにゃっと笑うの、反則やろ。
「で、その漫画がどうかしたの?」
ちぐが身を寄せて画面を覗き込んでくる。距離、近い。
柔軟剤の匂いがして、心臓がうるさくなる。
「……主人公な、幼なじみの先輩にずっと片想いしてんねん」
「へぇ〜……切ないね」
ちぐはそう言いながら、なぜか少しだけ声が小さくなった。
「でもさ」
「ん?」
「その先輩も、主人公のこと……ずっと見てた、ってやつでしょ?」
「……なんでわかったん」
「だって、ぷりちゃんそういうの好きじゃん」
くすっと笑うちぐ。
全部見透かされてる気がして、胸がぎゅっとなる。
「ちぐ」
「なに?」
「もしやけど……その主人公が、現実におったら」
一瞬、ちぐが黙る。
アイスを持つ手が、少しだけ止まった。
「……大事にする、と思うよ」
「なんで?」
「だって、ずっとそばにいたんでしょ? それって、もう……」
ちぐは最後まで言わずに、顔を赤くして目をそらした。
「……もう、なにや」
「し、知らない。ぷりちゃんのばか」
可愛すぎて、息が止まりそうになる。
その瞬間、漫画の最終ページが更新された通知が鳴った。
――主人公が、幼なじみの先輩に名前を呼ばれて振り向くシーン。
俺は画面を閉じて、ちぐを見る。
「なぁ、ちぐ」
「……なに?」
「俺な」
ちぐが、不安そうに俺を見上げる。
「その漫画の先輩の気持ち、分かってもうたわ」
「……え?」
「幼なじみが好きなんや。ずっと前から」
沈黙。
夕焼けの中で、ちぐの目が揺れる。
「……それ、漫画の話?」
「現実の話や」
ちぐは一秒、二秒――
それから、ゆっくり笑った。
「……そっか」
「ちぐ?」
「俺さ」
ちぐは少し照れたまま、でも逃げずに言った。
「主人公に似てるなら……その気持ちも、ちょっと分かるかも」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
「なぁ、ぷりちゃん」
「ん」
「その漫画の続き……俺と一緒に、見よ?」
それはもう、答えみたいなもんで。
俺は小さく笑って、ちぐの頭に手を置いた。
「……ああ。エンディングまで、な」
幼なじみは、
いつの間にか――恋の主人公になってた。
コメント
5件
終わり方が素敵すぎる…💓 あ、いっつもコメ読みづらかったらごめんね🙇🏻 思いついたことバーって書いてるから…
初コメ失礼しますっ ...❕💖 いつも陰ながら かちちゃんの作品を にまにましながら 見させていただいております (՞ ܸ. ̫ .ܸ՞)♡ いつも思うんですが 、国語の教科書みたいに 表現の仕方や お話の構成がとっても素敵ですよね 🫶🏻⟡.·* 最後の 『 幼なじみは 、--- 恋の主人公になってた。 』の所とか特に大好きです 😖♡ 今回も素敵な短編をありがとうございました ー ! 😽