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早いもので、私が婚約破棄から18年が経っていました――


アシュレイン王国の惨状は筆舌に尽くし難いありさまです。


年々、魔王による被害が大きくなっているのですが、この国には周辺諸国からの援助は当てにできないのです。

スターデンメイアの件もありますが、それ以上に王太子妃であったエリーが色々とやらかして、各国から顰蹙を買っていたのが理由です。


さらに国策は失敗続き、民心は離れ、友好国からの援助は期待できず、望みの召喚した勇者は行方不明。


王家の信用は地に落ちてしまいました。

もう、この国の未来に光は見えません。


その中で唯一リアフローデンは私とユーヤのお陰で平穏を保っています。


さすが勇者の力です。


そう、ユーヤは勇者なのです。

当初からそうではないかと感じてはいました。

10年も傍でユーヤの力を見てきて確信しました。


ですが、私達の世界の災厄を解決する為に、異世界から召喚されたユーヤに勇者の役割を強要するのは間違っていると思うのです。


だから私はずっと勇の事には触れずにいました。


そして、ユーヤと過ごした10年間……


彼と行動を共にするのが楽しくて、彼が私に笑顔をむけるのが嬉しくて、彼が私の傍に居てくれるという事実で胸の奥が温かいもので一杯になるのです。


私は彼に『役』を押し付けたくないと思っているだけ……そのはずなのです。


でも……


もしかしたら本当はその事実から目を背けていただけなのかもしれない。ただ、それを告げて彼が私の前からいなくなる事が怖かっただけだったのかもしれません。


そして、その時はやってきてしまいました――


「ユーヤ!」


私とユーヤが町中を歩いていると、背後から女性の声で呼び掛けられました。私達が振り向くとそこには赤い髪の美しい女性と巌の様な青髪の男性がこちらを険しい顔で見ていました。


「フレチェリカ……ゴーガンもか……」


私の隣でユーヤが呟きました。

それが彼らの名前なのでしょう。


「やっと見つけたぞ!」

「いつまで経っても戻ってこないから探したのよ!」


私の知らないユーヤの知り合い……


「俺はもう戦わない」

「どうして!?」

「魔王を倒して国に帰るって言っていたじゃないか」


彼らは必死で訴えましたが、ユーヤは静かに首を振りました。


「帰れないんだ……」


そして、何か怒りを必死に抑え込もうとギリッと歯を食いしばりました。


「全て奴らの嘘だ……帰る術など最初から無かったんだ」

「そんな!?」

「それじゃあ……」

「もう俺に構うな」


ユーヤは彼らに背を向けてスタスタと歩き去ってしまいました。


「あっ、ユーヤ!」

「よせフレチェリカ」

「だけど……」


青髪の男性に止められた赤髪の女性は納得がいかないといった表情です。


「もし、あなた方はユーヤのお知り合いなのですか?」


私が声を掛けると赤髪の女性はじろりと私を睨み、青髪の男性はそんな様子に苦笑いをしていました。


「あんまり怒るなよ。ユーヤがこんな美人と一緒に居たからって」

「別に私は!」


少し揶揄いの色が見える言葉にフレチェリカと呼ばれた女性はそっぽを向いてしまいました。


「俺はゴードン。こいつはフレチェリカってんだ。まあ、ユーヤとは同じ釜の飯を食った仲間ってやつだ」

「私はシスター・ミレと申します。見ての通りの尼僧です」


この方達はスターデンメイア奪回戦でユーヤと轡を並べた戦友でした。10年前にユーヤがアシュレイン王国に凱旋してから幾ら待っても戻ってこなかったので心配になって探していたそうです。


「スターデンメイアを取り戻してから戦況は膠着状態だ」

「魔王を倒すにはユーヤの力が必要なのよ」


2人はユーヤを取り戻したくて必死のようです。ですが、そんな2人に私は得も言われぬどす黒い感情が胸の内を駆け巡る感覚にさいなまれました。


それは怒り、嫉妬、焦り、憤り、妬み、謗り……


色々な感情や言葉が私の中でぐるぐると、ぐちゃぐちゃとい交ぜになって私を狂わしたのです。


だから10年も溜めてきたそれ・・が、思わず私の口から漏れ出てしまいました。


「それはユーヤが勇者だからですか?」

「あなたそれを知っていて!?」


フレチェリカさんが激しく憤った表情で私に食って掛かってきました。


「フレチェリカさんもユーヤに勇者という役割を強いるのですね」

「なんですって!」

「落ち着けフレチェリカ」

「だけどこの女は!」


ゴーガンさんに諫められながらも激高するフレチェリカさんを私は冷ややかな目で見詰めました。


本心は別の所にあるのに……

ただ、ユーヤを取られたくないだけなのに……

自分でも信じられないくらい嫌な女ですね私は。


「ミレさん訂正してくれ。俺も今の言葉には納得がいかない」


ゴーガンさんが鋭い視線を向けてきましたが、私は引きませんでした。


「ユーヤは勇者として強制的に異世界から召喚されたのです。この世界の問題には無関係の筈では?」

「それは……そうだけど」

「それなのに戦う意思のない彼を魔王討伐に行かせようとするのは、あなた達が彼に勇者という役を押し付けているからではありませんか?」

「わ、私にそんなつもりは……」


私は淡々と怒りの言葉を口にすると、フレチェリカさんは次第に覇気を失っていきました。


「無いと言えるのですか?」

「だ、だがユーヤはもとの世界に帰れない。このまま魔王に世界を蹂躙されれば、あいつも無事では済まないんだぞ」


今度はゴーガンさんが言い繕おうとしましたが、その彼に対し私は静かに言い放ちました。


「それを決めるのは私達ではありません……ユーヤです」

転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。

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