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◻︎やりくり
「それにしても、僕も知らなかったなあ、涼子ちゃんが色々考えて家計をやりくりしてたってこと」
串焼きを焼きながら、しみじみと光太郎が言う。
「え?じゃあ、どうやってるって思ってたの?」
「僕、わりと稼いでいるから問題ないって思ってた。何にどれくらい必要とか、考えたことなかったよ。なんとかなるだろくらいにしか考えてなかった」
「私もあの頃は必死だったからなぁ。でも、あんまりお金のことを光太郎さんに言いたくなかったんだよね、私のやりくりが下手だからって思われたくなくて。主婦のプライド?みたいな。本当に困ったら相談してたかもしれないけど。お小遣いの額も我慢してくれてたしね」
社会的に経済状況が悪くなってしまったのは誰のせいでもないし、夫はきちんと働いてくれてたし。
「これからのことも、その表みたいなやつ、作ってるの?」
「今は特にやってない、あ、でも、年末に欠かさずやってることがあるよ」
「なに?私も知りたいんだけど」
月子も話に入る。
「大したことじゃないんだけど。家にある全ての通帳とかお金に関するものを集めて、その年の決算をするの。わずかでもプラスならオッケーにしてる」
「なるほど、“我が家の収支決算”ってことね」
「そう。会社で経理をやってる時にね、これを家でもやったら便利かもしれないなと。その時の貯金や負債が全額把握できてるとさ、何か始める時にも、突発的なことが起きても対応しやすいでしょ?」
「すごいな、涼子ちゃん」
「ホントだわ、奥さんに欲しいわ」
褒められて、なんだかお尻の辺りがモゾモゾくすぐったい。
「すごくなんかないんだよ、ビビりだからだよ。何か起きても困らないように準備しておきたいってだけ」
「私も真似しようっと」
「なるほどなあ、だから僕が蕎麦打ち始めたいとか、キッチンのリフォームしたいとか言っても、反対しなかったんだ。それくらいはできるって、判断してたんだね」
「まぁね、私だってやりたいことあるし。それにお金は溜め込むだけでも、遣うだけでもきっとよくないからね」
「そうね、あの世にお金は持って行けないものね」
お義母さんも話に入る。
「ともかく、私もお金のことからいくらか解放されてよかった」
月子の表情も明るくなったようだ。
「私は玉の輿狙うからね。お金持ちの人と結婚すればいいんでしょ?」
萌の話に綾もうなづく。
「「若いっていいわねぇ」」
「え?やだ、もうっ」
月子と私、ピッタリと息があった。
お金は大事だけど、それだけじゃないのが人生だ。ないよりあった方がいいのだろうとは思うけど。お金に振り回されて生きるのは、ごめんだ。
「また、こうやって集まろうよ」
「そうだね、次はいつにする?」
ワイワイガヤガヤと、一族でのバーベキューパーティーは予想してたより楽しかった。