私の名前は乃々香(ののか)。
佐宮高校の1年生になったばかりだ。
私は友達と高校が違うから、一から友達の作り直しをしなければならない。
私は人見知りで陰キャ。だから、これまでは親密な仲の人としか話してこなかった。
でも、これからはそんな訳にはいかない。
それが、私が一番不安な事だった。
――そんな不安しか無い朝、私は恐る恐る高校に歩いて向かった。
私の歩幅は、いつもと比べて ますます小さくなるばかり。
これでは友達なんて出来るわけが無い。
そうは分かっているけど、足取りはどんどん重くなる。
「はぁ…」
希望が闇に零れていったかのような 小さなため息が漏れた、その時だった。
「あのぉ… その制服、佐宮高っすか?」
「! あ……」
私の後ろから聞こえてきた声の主は、私が見知らぬ男子高校生だった。
私に話してきた事からすると、きっと 同じ佐宮高校の1年生だろう。
すぐに友達を作れない性格の私は、いきなりの彼からの言葉に戸惑ってしまった。
「えっと… ん………と、、」
「…あ、何かごめんなさい…」
「いえ、、 えっと、佐宮高校の方… ですか…?」
私が震えた声色で質問すると、私から視線を逸らしながら彼は答えた。
「あ、そう、です。 名前は、昴(すばる)って言います。よろしく!!」
「は、はい…!」
「あなたの名前は?」
「の、乃々香って言います… よろしくお願いします。」
「よろしく!!」
昴くんは、私の手を握って握手をしてきた。
いきなりこんなボディータッチされるのは慣れてないから、手が震えて仕方が無かった。
そんな自分が恥ずかしく、私の顔は火照るばかり…
――顔を赤らめる私を見かねたのか、彼が慌てて言葉を発する。
「乃々香、ちゃん! …って呼んでも良いかな?」
「あ、もちろんです、!!」
「あと乃々香ちゃん、敬語使わなくて良いよ!」
「うん、分かった。 昴くん、って呼ぶね…?」
「OK!じゃ、一緒に高校行こ!」
「う、うん!!」
――私、初めて男の子と喋ったかも…
これまで全く誰とも話してこなかったから、昴くんの明るい雰囲気についていけない。
こんな私が相手で良かったのかな………?
どんどん自信が無くなっていくのが目に見えて分かる私に、昴くんがまたまた話し出した。
「あのさ、乃々香ちゃんって1年生だよね?」
「うん、そうだよ…!」
「そっか、俺と同じだ。俺、陽キャでごめんね…?」
「あ……」
____そう、自分で言っている通り、昴くんはたぶん大分陽キャだと思う。
私には絶対合わないタイプの性格…
そう思う度、ズキズキと胸が痛む。
せっかくの機会なのに、また逃していくだけの高校人生なのかな……。
足を進めながら、私は中学時代の事を思い出す。
――中学時代、私は今と同様の『THE 陰キャ』だった。
昔から仲の良い幼馴染としかほとんど話さず、その幼馴染が他の人と話しているのを見ると、どうしても恨めしく見えてきてしまう。
一番辛かったのは、自分が皆と距離を置いているのでは無く、置かれているという事実を背負って生きていた事。
それを思い出すと、また涙が溢れ出しそうになる。
高校初日なのに、悲しい過去ばかり思い出している自分が更に情けなくなった。
さっきからずっとこんな状態の私に、流石の昴くんも黙り込んでしまっている。
______また友達になれないんだろうな、きっと。
__こうやって、私は何度も友達のきっかけを逃してきた。
もう私、友達なんて出来ないんだよね。
ずっとずっと、人生友達無しで孤立して生きていくんだよね……。
「乃々香ちゃん、大丈夫……?」
「…うん、ごめんね。 私、こんな性格でさ…」
「何言ってるの? 俺、乃々香ちゃんと友達になりたくて話しかけたのに。」
「え…?」
「俺さ、陽キャに見えるでしょ?」
「え… うん。正直、そう見える…」
「だよね。 だって俺、陽キャ演じてるからさ。」
「演じてる……??」
「うん。」
私に対しての態度から見ると、友達が多そうな陽キャにしか見えなかったのに…
もしや、こんな昴くんにも裏の顔があるの…?
「俺、めっっちゃ陰キャだよw」
「え!?うそ…」
「ほ〜んと! 俺、“あえて”人懐こく話しかけてるんだ。」
「あえて……」
「うん。その事については、もっと後に話すことにするね…」
「分、かった…!」
私に本性を明かした昴くんは、何かを真っ直ぐ見つめて眉をひそめていた。
正面には道しか広がっていない。
昴くんは何を想っているのか、私にはまだ分からなかった。
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