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わ~こんかいながくなるかな~
「ははっ、それ違うって」
リビングに、
笑い声が響いていた。
ソファの前。
楽しそうに笑っているのは、
こさめ。
そして、
その隣には、
らんがいた。
「いや絶対こっちだろ」
らんが、
こさめの肩を軽く叩く。
距離が、
近い。
近すぎる。
少し離れた場所から、
それを見ていた
いるまは、
無意識に、
眉を寄せていた。
「……」
胸の奥が、
ざわつく。
理由は、
わかっている。
わかっているのに、
認めたくない。
らんの隣で笑ってる、
こさめ。
楽しそうで、
無防備で、
――自分には見せるのに時間がかかった顔。
「……」
面白くない。
全然、
面白くない。
「いるま?」
不意に、
後ろから声。
振り向くと、
なつがいた。
「さっきから黙ってるけど」
「……別に」
短く答える。
なつは、
少しだけ笑った。
「……そっか」
それ以上は、
なにも言わない。
ただ、
視線だけ、
らんとこさめの方へ向けた。
「ねえ、いるま!」
その時。
こさめが、
気づいて、
手を振った。
「こっち来なよ!」
無邪気な笑顔。
それを見た瞬間、
胸が、
余計に苦しくなる。
「……」
足が、
動かない。
「いるま?」
こさめが、
少し不思議そうな顔をする。
らんも、
ちらっと見る。
その視線が、
嫌だった。
まるで、
自分が入る隙間なんて、
最初からないみたいで。
「……いい」
思わず、
口から出た。
「……え」
「……そっち、行かない」
空気が、
少しだけ変わる。
こさめが、
立ち上がった。
そして、
いるまの方へ来る。
「どうしたの?」
心配そうな顔。
その顔が、
余計に、
苦しくさせる。
「……別に」
「別にじゃないでしょ」
こさめが、
覗き込む。
目が合う。
優しい目。
それなのに、
胸が痛い。
「……なんで」
気づいたら、
言っていた。
「……なんで、あいつの隣にいんの」
「……え」
こさめの目が、
大きくなる。
「……そんなに、楽しいのかよ」
止まらない。
止められない。
「……俺じゃなくて」
その言葉に、
こさめが、
息を止めた。
沈黙。
数秒。
でも、
すごく長く感じた。
そして、
こさめが、
小さく言った。
「……いるま」
「……なに」
「それ」
少しだけ、
笑った。
優しく。
でも、
確かめるみたいに。
「……嫉妬?」
「――っ」
心臓が、
跳ねた。
「……ちが」
否定しようとする。
でも、
言葉が出ない。
出せない。
だって、
もう、
わかってしまったから。
こさめが、
一歩近づく。
「ねえ」
「……」
「俺はさ」
静かに言う。
「いるまの隣が、一番落ち着くよ」
「……」
「さっきも」
小さく笑う。
「ずっと、いるまのこと見てた」
「……え」
驚いて、
顔を上げる。
目が合う。
まっすぐな目。
「来てくれないかなって」
「……」
胸が、
ぎゅっと締め付けられる。
「だから」
こさめが、
そっと、
いるまの服の袖を掴んだ。
あの日と同じように。
「来て?」
小さな声。
お願いする声。
「……隣」
その瞬間。
いるまの中で、
なにかが、
ほどけた。
「……ああ」
小さく、
頷く。
そして、
自分から、
こさめの手を掴んだ。
「……行く」
その様子を、
少し離れた場所で見ていた、
なつとらんは、
顔を見合わせて、
小さく笑った。
もう、
答えは出ている。
壊れていた心は、
もう、
一人じゃない。
そして、
いるまは、
初めて、
ちゃんと自覚した。
この感情の名前を。
――好きだと。
夜。
シェアハウスの中は、
静まり返っていた。
時計の音だけが、
やけに大きく聞こえる。
ベッドの上で、
いるまは、
仰向けのまま、
天井を見ていた。
「……」
眠れない。
目を閉じても、
思い出すのは、
昼間のことばかり。
――嫉妬?
こさめに言われた言葉。
――俺はさ、いるまの隣が一番落ち着くよ
あの声。
あの顔。
「……っ」
腕で、
目を隠す。
恥ずかしい。
あんなこと、
言うつもりじゃなかった。
「……なんで」
呟く。
なんで、
あんなに、
苦しくなったのか。
なんで、
あんなに、
取られるのが嫌だったのか。
答えなんて、
もう出てるのに。
コンコン
不意に、
ドアが鳴った。
「……!」
体が、
びくっと跳ねる。
「……いるま」
ドア越しの声。
それだけで、
誰かわかる。
こさめ。
「……起きてる?」
少し遠慮がちな声。
「……」
一瞬、
迷う。
でも。
「……起きてる」
そう答えた。
ドアが、
ゆっくり開く。
「……入っていい?」
「……もう入ってるだろ」
少しだけ、
ぶっきらぼうに返す。
こさめは、
小さく笑った。
そして、
ベッドのそばまで来る。
「……隣、いい?」
「……好きにしろ」
こさめが、
ベッドに座る。
距離が、
近い。
心臓が、
うるさい。
「……ねえ」
こさめが、
静かに言った。
「……今日のこと」
「……」
「……ごめんね」
「……なんで」
思わず、
聞き返す。
「……嫌な気持ちにさせたでしょ」
「……」
違う。
そうじゃない。
嫌だったのは、
こさめじゃない。
「……違う」
小さく、
言う。
「……俺が」
言葉が、
詰まる。
「……勝手に」
「……」
「……嫌になっただけ」
弱い声。
情けない声。
その時。
こさめの手が、
そっと、
いるまの手に触れた。
「……!」
「……嬉しかったよ」
「……え」
予想外の言葉。
「……嫉妬してくれて」
優しく、
笑う。
「……俺のこと、ちゃんと見てくれてるんだなって」
「……」
胸が、
強く鳴る。
「……嬉しかった」
もう一度、
言った。
いるまの喉が、
震える。
「……こさめ」
名前を呼ぶ。
それだけで、
胸がいっぱいになる。
「……なに」
「……俺」
言葉を、
探す。
怖い。
でも、
止められない。
「……お前が」
手を、
強く握る。
「……他のやつの隣にいるの」
「……やだ」
はっきり、
言った。
こさめの目が、
大きく揺れる。
「……いるま」
名前を呼ばれる。
その瞬間。
もう、
止まれなかった。
いるまは、
体を起こして――
こさめを、
抱きしめた。
「……!」
こさめの呼吸が、
止まる。
「……っ」
震えているのは、
いるまの方だった。
「……取られたくない」
小さな声。
でも、
はっきりと。
「……こさめを」
腕に、
力が入る。
「……俺の隣にいてほしい」
それは、
願いだった。
本音だった。
数秒の、
沈黙。
そして。
こさめの手が、
ゆっくり、
いるまの背中に回る。
抱き返す。
「……うん」
優しい声。
「……いるまの隣にいるよ」
「……」
「……ずっと」
その言葉で、
なにかが、
溢れそうになる。
二人は、
しばらく、
そのままだった。
離れないまま。
心臓の音を、
重ねたまま。
壊れていた心は、
もう、
一人じゃなかった。
隣に、
名前を呼んでくれる人がいる。
抱きしめ返してくれる人がいる。
それだけで、
世界は、
こんなにも、
変わる。
夜。
シェアハウスのリビングの電気は消えていて、窓から月の光だけが差し込んでいた。
静かすぎて、少しだけ怖い。
「……寝れねぇ」
小さく呟いたのは、いるまだった。
ソファに座って、膝を抱えている。
昼間は、みんながいたから平気だった。
笑って、普通に話して。
でも。
一人になると、どうしても思い出す。
――「お前なんか、いなければよかった」
昔、言われた言葉。
頭から離れない。
「……っ」
胸が痛くなる。
息が浅くなる。
そのとき。
「いるまくん」
小さな声。
顔を上げると、そこにいたのは――こさめだった。
「……こさめ」
「……やっぱり、ここにいた」
こさめはゆっくり近づいてきて、いるまの隣に座った。
「寝れないの?」
優しい声。
いるまは少しだけ迷ってから、小さく頷いた。
「……こさめは」
「ぼくも」
即答だった。
「……同じ」
そう言って、こさめは少し笑った。
でも、その笑顔は少しだけ寂しそうだった。
「……ねえ、いるまくん」
「……なに」
「ぼくね」
こさめは、自分の手を見た。
「まだ、怖いんだ」
小さな声。
「また、嫌われるんじゃないかって」
いるまの胸が、ぎゅっと締め付けられた。
「……でも」
こさめは続ける。
「ここにいたい」
「いるまくんの隣に」
その言葉。
いるまの心臓が、大きく跳ねた。
「……なんで」
思わず聞いていた。
こさめは少し驚いた顔をして。
それから、照れたように笑った。
「……安心するから」
「いるまくんの隣、あったかい」
その瞬間。
胸の奥の、冷たかった場所が。
少しだけ、溶けた気がした。
「……俺」
声が震える。
「俺、強くねぇよ」
「知ってる」
即答。
「すぐ怖くなるし」
「うん」
「逃げたくなるし」
「うん」
「……壊れてる」
沈黙。
でも。
こさめは言った。
「それでもいい」
いるまが、顔を上げる。
こさめは、まっすぐ見ていた。
「壊れてても」
「ぼくは、いるまくんがいい」
息が止まる。
「……なんで」
こさめは、少しだけ考えて。
そして、言った。
「好きだから」
時間が、止まった気がした。
「……っ」
心臓が、うるさい。
こんな自分を、
好きって言ってくれる人がいるなんて。
信じられない。
「……こさめ」
名前を呼ぶ。
こさめは、逃げなかった。
その代わり。
そっと。
いるまの肩に、頭を預けた。
「……ここにいるよ」
小さな声。
「どこにも行かない」
その温もりが。
本物だと、教えてくる。
いるまは、ゆっくりと。
震える手で。
こさめの手を、握った。
こさめが、少しだけ驚いて。
でも。
嬉しそうに、握り返した。
その夜。
壊れていた二人は。
少しだけ。
壊れたままでも、生きていいと思えた。
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