テラーノベル
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……アキ……
……アキ……
遠退いていく意識の中。
霧の奥から届くような呼び声が、切れ切れに流れ込んでくる。
誰?
私を呼ぶのは……。
……痛い。
体中が痛い。
手も足も痺れて……動けない……。
背中には生温かなぬめりが広がり、全身を刺すような痛みが走る。
……どうして?
私の体、どうなってしまったの?
「亜紀っ! 目を開けてくれっ。頼む、目を開けてくれっ!」
私の体を深海から引き上げるかのように、悲痛に満ちた声が聴覚に届いた。
真っ暗な無の世界を彷徨っていた私は、ゆっくりと瞼を開く。
霞む視界に映り込んだ人影を見つめ、掠れた声を漏らした。
「……今泉さん……良かった……無事で……」
血を流しながら横たわる私は、愛しい人を見つめて安堵の笑みを浮かべた。
「どうしてこんな事に……。すまない……俺のせいだ……全ては俺が……」
彼は深紅に染まった私の体を抱き起こし、瞳に涙を溜めて大きく顔を歪ませた。
すまない?
どうしてあなたが謝るの?
どうして私はここで……。
途絶えることのない痛みに連動し、走馬灯のように蘇る数分前の記憶。
「ああ……そうか……だから私……」
「すまない、亜紀……。俺はずっと、君に嘘を……」
彼の頬に一粒の涙が零れ落ちた。
今泉さん……。
私は腕にのしかかる脱力感を振り払い、震える指先で涙の伝う彼の頬に触れた。
「いいの……これで。やっと、本当に自由になれたんだもの……。これで私は、あなたのものよ……」
「亜紀……」
「言って……今泉さん……。愛してるって。これが最初で最後になったとしても……聞きたいの……」
――あなたと出会って、恋に落ちて。
あなたと出会うまでの私は、捕らわれた籠の鳥で。
どこまで行っても出口のない、冷たい暗闇の中にいた。
人を愛する歓びを。
見返りなど求めず、ただ人を想い続ける心の強さを。
諦めずに自分を変える勇気を。
そして、
女として生きる悦びを――。
すべて、あなたが教えてくれた。
「……泣かないで、今泉さん。私はあなたの傍にいるから……」
「俺は、亜紀を……」
……聞こえる。
あなたの声が。
優しいあなた。
あなたの温もりに包まれていられるのなら、どんな暗闇も怖くない。
見える……。
そよぐ風の歌に乗って、囁くように揺れる木々の葉。
音一つない静かな夜の水面に浮かび、ふわふわと舞う淡い光。
風に掬い上げられた蛍たちは、光の水飛沫のようにキラキラと降り注ぐ。
これが、あなたが私に見せたいと言ってくれた世界なのね。
綺麗……。
とても。
お父さんも、この美しい光と共に天へ召されていったのね。
私も触れたい。
この温かな光に。
今泉さん……。
あなたが教えてくれた、この光り輝く世界に――。
コメント
1件
うわっ……第1話から重くて美しいシーンだね……。亜紀の「やっと自由になれた」って台詞がすごく刺さった。籠の鳥だった過去と、今泉さんに出会って変わっていった想い出が走馬灯のように流れる構成、切なくて綺麗だった。蛍の光に包まれて逝くラストシーン、映像が浮かぶようだったよ。続きが気になる……!