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高体連に向けて、最後の追い込みに励む運動系の部活。
静かな体育館倉庫は、少し埃っぽくてくしゃみが出る。
「何か、初めて会った時みたいだな」
「屈辱過ぎる。思い出したくもない――――で、なんで俺は、女子用の制服きせられてんだよ」
「それは、星埜が賭に負けたから♥」
きゅぴん、なんて似合わない効果音が聞えてきそうな、朔蒔は、俺の服を見て、おおーと感嘆の声を漏らす。
本当に屈辱だ。こんなことになるなら、賭けなんてしなければ良かった。
俺が、女子用の制服を着るにいたるまでの経緯は、いたってシンプルだった。
中間テスト。あまりにも勉強しない朔蒔に勉強しろと声をかけたところ、やる気が起きないなんて通常運転の此奴に腹が立って、そのままじゃ留年、居残り喰らうぞ、と言ったら『星埜が何か賭けてくれるならやる』なんて言いだしたのだ。賭ける、テストに? 何を?
俺は、別に何かを賭けてテストに臨んだことも、誰かと競い合ったこともなかった。テストなんて、個人勝負だと思ったからだ。個人で良い成績を残すために励む、それが俺の中の勉強の形だった。だから、こうして、賭けをしようなんて持ちかけられたとき、一瞬思考がフリーズしたんだ。
けど、そうじゃないと朔蒔はテストばっくれるとか言い出すから、仕方なく朔蒔の話しに乗っかった。まあ、いつも普通に授業も受けてなければ、提出物も出さない此奴に負けるわけないだろうと、俺の中でかなり自信があった。此奴には勝てる。だから、勝った方が、何でも一つ言うことを聞く、なんてよくある賭けをして、俺達はテスト勉強をし、テストに臨んだのだが。
「……クソが」
「え~でも、負けたの星埜だし。俺、星埜より、三点上」
一番悔しかったのは、得意な教科で負けたこと。
合計点数も朔蒔の方が上。いったいどうなっているんだと、言いたくなるくらい、此奴は頭が良かった。普段真面目に聞いていないくせに、なんでできるのかと。よくある、テスト勉強をしたか? という質問に対し、してない、って答えた奴が点数を取る現象と一緒だ。あれ、腹が立つと思わなかったが、今回のことで身をもって知った。
惨敗というわけではない。でも、負けは負け。
常に正しくあれという自分の信念の元、ここで、負けを認めないのも、約束を破ることも、俺には絶対出来なかった。その方が気持ちが悪い。
それで、朔蒔が俺にお願いしてきたのは『星埜が女子の制服着てるところみたい』っていうものだった。テストの点は良くても、考えていることは、やはりねじが外れていた。もう、過去の賭けに乗った俺を恨みたい。
「せーの、俺の膝の上乗って?」
「お願いは……着る、だけだろ」
「えーだって、せっかく星埜のスカート姿見れるのにさァ」
「……」
もったいないなあ、みたいな顔で見られて、俺は羞恥心を噛み殺して、朔蒔の元へと歩く。こんな屈辱を受けても、こんな服着ていても、身体は、期待しているようで、ドキドキと心臓が煩い。本当に最悪だ。
「あっ、パンツは男モンかァ」
「あ、当たり前だろ!? 誰が、女子の下着なんて」
「じゃあ、今度俺が勝ったら、星埜にエッチな下着着て貰おー」
「もう、しない。お前と賭けしないからな」
「え? じゃあ、俺留年?」
なんて、言うものだから、俺は大きな溜息しか出なかった。俺が断れ無いのを知っていて、それを逆手にとって。
そんな朔蒔を酷く憎たらしい目で見下ろしていれば、はやく、はやくと、朔蒔が膝をポンポンと叩く。俺は渋々、朔蒔の膝の上に座ると、朔蒔はニィっと、顔を歪め、いや緩ませ、俺を抱きしめた。
「あ~最高。女子抱きしめてる見てえ」
「女の子の方が好きなのかよ。じゃあ、そうすれば……」
ラブレターを送ってくれた子、いるんだしさ。
なんては、口が裂けても言いたくなかったけれど。だが、朔蒔は俺が思っている以上にすぐに返事をする。
「星埜だから意味あんの。星埜が女子の服着てるって言うのが興奮すんだよ。それ以外こーふん、しない」
「……っ、お前……? って、って! お前、なんつーもん、当ててんだよ」
「あ? バレた?」
なんて、朔蒔は悪気なんて一切無いみたいに笑う。熱い朔蒔の剛直が俺の尻にあてがわれている。勿論、このままでは入らないが、やろうとしていることは、言葉がなくても分かる。
はじめから、そのつもりだったな、なんて気づいた頃には遅くて、その馬鹿力で押し倒された。幸いマットの上。でも、埃っぽくてむせてしまう。
「つーことで、やろうぜ? 星埜♥」
「……」
「ありゃ、抵抗しないの?」
「そのつもりだったんだろう」
「てことは、星埜も期待しちゃってた?」
「なわけっ……!?」
言い訳をしようとすれば、バッとスカートをめくりあげられ、反射的に、俺はスカートを引っ張った。それが、彼奴の中のツボを刺激したのか、嬉しそうに声を上げる。
「ハッ、マジ、女の子みてぇじゃん。俺、パンツめくりしてるみたいで、興奮する」
「何に興奮してんだよ」
「星埜」
なんて、即答して、朔蒔は服越しに、俺の身体に手を這わせた。いつの間にかピンと立ってしまった胸が、主張するように、服を押し上げてしまっている。それを彼奴が見逃すはずもなく、「ノーブラじゃん」なんて、意味の分からないことを言う。
「星埜、もしかして、痴漢希望?」
「はあ!? 何言ってるのか意味分からないんだが?」
「え、だって、そのまま電車乗ったら、絶対痴漢されるって。してっていってるようなもんじゃん、それさァ」
誰も、女装したまま電車なんて乗らないが? と俺が言おうとすれば、朔蒔はギュッと俺の両乳首をつまみ上げた。突然の痛みと快感に、俺は思わず声を上げてしまったのだ。
「ほら、もう感じてんじゃん? やっぱり、星埜って素質あるわ。変態の素質」
「お前といっしょにするな」
「ん~じゃあ、今日は、乳首だけでイク練習でもしてみるか?」
と、朔蒔は、新しい玩具を見つけたような子供の目をして、俺を見下ろした。