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第三章 氷晶と炎音
第十一話 白銀の剣閃と紅い音色
森の奥から咆哮が轟いた。
次の瞬間、黒い影が飛び出す。
「魔物だ!!」
見張りの護衛が叫ぶ。
野営地が一瞬で騒然となった。
馬が嘶く。
子どもたちが悲鳴を上げる。
商人たちが慌てて荷車の陰へ逃げ込む。
「母ちゃん!!」
「こっち来い!!」
「早く結界石を!!」
焚き火が蹴散らされる。
旅芸人の子どもたちは恐怖で泣き出していた。
その時
「騎士団前へ!」
鋭い声が響く。
カイルだった。
即座に剣を抜く。
「商団を囲め!」
「非戦闘員は荷馬車の内側へ!」
「弓兵は後方支援だ!」
騎士たちが一斉に動き出す。
普段の気安い青年とは別人だった。
指揮官としての声が夜に響く。
だが、森から現れた魔物は想像以上だった。
狼型。
熊型。
異形の獣たち。
黒い瘴気を纏いながら次々と飛び出してくる。
「数が多い……!」
騎士の声が震える。
その時、白い影が前へ出た。
クロードだった。
白銀の髪が月光を受ける。
静かに魔剣を抜く。
蒼白い刀身が夜に輝いた。
「下がれ」
短い一言。
それだけで騎士たちが道を開ける。
次の瞬間、クロードが駆けた。
速い。
狼型の魔物が飛びかかる。
そこへ、銀の閃光が走った。
一閃。
魔物の身体が宙で両断される。
その断面から氷が広がる。
黒い身体が凍り付き、砕け散った。
続けて二体。
三体。
白銀の軌跡だけが夜を駆ける。
まるで氷の化身だった。
「すげぇ……」
ラスタが思わず呟く。
だが次の瞬間、別の場所から悲鳴が上がった。
旅芸人の子どもたちだった。
「いやぁっ!!」
「こわい!!」
恐怖が連鎖する。
馬も暴れ始める。
魔物の瘴気のせいか。
空気そのものが不安を煽っていた。
フレアが子どもたちを落ち着かせようとしている。
だが治まらない。
ラスタは咄嗟に背中のリュートを掴んだ。
何かしなければ。
理由は分からない。
ただそう思った。
抱えたリュートには赤い魔石が埋め込まれている。
母から譲られた大切な楽器だ。
ラスタは弦にそっと触れた。
ぽろん。
柔らかな音が鳴る。
次の瞬間だった。
赤い魔石が微かに光る。
「……え?」
もう一度弾く。
静かな旋律。
すると、泣いていた子どもが顔を上げる。
暴れていた馬が少し落ち着く。
震えていた商人たちの呼吸も戻っていく。
まるで、音が人々を包み込んでいるみたいだった。
「何や今の……」
ラスタ自身が一番驚いていた。
その時、森が揺れる。
低い咆哮。
巨大な熊型の魔物が姿を現した。
騎士たちの顔色が変わる。
これまでの魔物とは格が違う。
全身から溢れる瘴気。
赤い瞳。
異様な威圧感。
「全員下がれ!」
カイルが叫ぶ。
熊型の魔物が突進した。
地面が震える。
だが、その瞬間。
ラスタの指が無意識に弦を弾いた。
赤い光が零れる。
音色が夜へ広がる。
すると巨大な魔物の動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。
まるで何かに戸惑ったように。
「……!」
その僅かな隙をクロードは見逃さなかった。
白馬を蹴る。
一気に距離を詰める。
魔剣へ魔力が集中する。
蒼白い光。
そして、地面へ突き立てた。
轟音。
剣を中心に氷が走る。
大地が。
雪原が。
魔物ごと凍り付いていく。
巨大な氷柱が噴き上がる。
熊型の魔物が咆哮を上げる。
だが足元が凍り動けない。
苦労もは跳んだ。
月を背に。
白銀の外套が翻る。
空中で魔剣を振り上げる。
そして振り下ろした。
氷を纏った一撃。
巨大な魔物が真っ二つに裂ける。
轟音とともに崩れ落ちる。
やがてそれは、黒い瘴気となり、夜空へ溶けていった。
静寂。
吹きつける風に、氷の欠片が舞っていた。
誰も声を出せない。
ただ氷晶の王子だけが静かに立っている。
その姿はまるで、月光が生み出した幻のようだった。
そしてクロードはゆっくり振り返る。
視線の先。
リュートを抱えたラスタがいた。
赤い魔石はまだ微かに輝いている。
「……今のは何だ」
クロードが問う。
ラスタは困ったように笑った。
「いや、俺が聞きたいわ」
そう言いながらも。
二人とも気付いていた。
あの一瞬、確かに何かが起きたことを。
コメント
1件
**みぅ🤍🥀** 第28話、戦闘シーンもだけど、やっぱりラスタのリュートの音色が効いてるのが好き。クロードが氷の化身みたいに戦う横で、音でみんなを包み込むラスタっていう対比が美しかったな。二人の間に流れる空気も、まだ言葉にならない“何か”が感じられて、胸がぎゅっとなる🌙 続きも楽しみにしてます。