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#三角関係
霞花怜
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#イラスト部屋
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
695
夜、行為の後の気だるい余韻の中、柊吾は瑞樹の腕の中でぼんやりと天井を見上げていた。
規則正しく上下する瑞樹の胸に頬を寄せ、心地よい微睡みに落ちかけていたその時。
「柊吾さん」
「……ん? なに?」
「今度、おひさまでカラオケ大会をやるんです」
「へぇ……。夏祭りみたいな行事、結構多いですね。楽しそう」
特に気にも留めず相槌を打つ。デイサービスやショートステイの利用者向けに、季節ごとのレクリエーションがあるのは知っていた。
「利用者さんたちの余興も兼ねているんですが……。柊吾さんもどうですか?」
「――え?」
眠気が一瞬で吹き飛んだ。柊吾は瑞樹の腕の中から身を起こし、まじまじとその顔を見つめる。
「な、なに言ってるの。僕は無理だよ」
「柊吾さん」
「歌えないの、知ってるでしょ。喉が締まって、ちゃんと声が出ないって……」
早口で捲し立てながら、柊吾は自分の声が微かに震えているのに気づいていた。
「うん、知ってます」
瑞樹は柊吾の頬に触れ、優しく髪を撫でる。
「でも最近、ボイトレに通ってますよね? 本当は、歌いたいんじゃないですか?」
「……っ、な、なんで……」
なぜ、瑞樹が最近通い始めたことを知っているのだろうか?
歌の話は極力しないようにしていたし、瑞樹から聞かれた記憶もない。
驚愕で目を見開く柊吾に対し、瑞樹はふっと柔らかく、それでいてどこか見透かしたような笑みを浮かべた。
「この間、偶然柊吾さんがスタジオに入っていくのを見たんです」
「それ、絶対に偶然じゃないですよね?」
自分がスタジオに出入りし始めたのはつい最近。しかも瑞樹が仕事中の事だ。施設の中で仕事しているはずの瑞樹がスタジオ入りするのを目撃するはずがないし、そもそも家からも、おひさまからも随分離れている。
「まさか。ただの偶然ですよ。本当にたまたまです」
しれっと言い放つ瑞樹の様子に、柊吾は「絶対嘘だ……」と小さくため息を吐いた。行動が筒抜けなのは今に始まったことではないけれど、プライベートな習い事までこうして把握されていると、驚きを通り越してもはや執念すら感じる。
「……それに」
瑞樹の手が、柊吾の頬を名残惜しそうになぞり、そのままそっと手を取って自分の胸元に引き寄せた。シャツ越しに伝わる心臓の鼓動は、驚くほどまっすぐで、そして熱い。
「柊吾さん最近、お風呂場やキッチンでよく歌ってるじゃないですか」
「あ、あれは、ただの鼻歌で……っ」
「鼻歌も立派な歌ですよ。……俺は、嬉しかったですけど」
瑞樹は真面目なトーンに切り替え、優しく、しかし逃げられない真剣な瞳で柊吾を見据えた。
「俺は別に……無理にあの世界に戻って欲しいなんて思っていません。……ただ。貴方が本当は歌が好きで、あのステージで喉を詰まらせてからずっと、心のどこかで傷ついたままになっているのを知っているから。それでもまた、歌と向き合う余裕が出来て、前に進もうとしてる。それが凄く嬉しい……」
「……」
「そりゃ、『おひさま』のステージは小さくて、大きなホールみたいな歓声もないかもしれない。でも、そこには真理子さんもいるし、俺もいる。大丈夫。そんなに気負わないで下さい。 ただのカラオケ大会だし、結構他のご家族も一緒に歌ったりするんですよ?」
瑞樹の言葉は、柊吾の胸の奥底にずっと蓋をしていた小さな傷口に、優しく触れるようだった。
かつてトラウマになったあの場所とは違う。安心できる温かな空間で、大切な人たちに囲まれて歌うこと。
(……僕が、また、歌っても……いいのかな)
恐怖と期待が入り交じり、柊吾は唇を噛みしめる。
そんな柊吾の迷いをすべて受け止めるように、瑞樹は優しく頭を引き寄せ、その額にそっと唇を重ねた。
「無理強いはしません。でも……俺は、聴きたいです。柊吾さんの歌声が、大好きだから」
「……っずるいなぁ、いつもそうやって……」
観念したように小さく息を吐き、柊吾は瑞樹の胸に再び額を預けた。
「……すこしだけ、考えさせてください」
その声は照れくさそうだったけれど、不思議と、恐怖よりもほんの少しだけ明るい光を帯びていた。
コメント
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かんなさん、107話読みました…。 夜の後の、あの空気感がすごくリアルで、瑞樹さんの優しい圧と見透かした笑顔にドキドキしました。柊吾さんが「考えさせてください」って、ほんの少しだけ明るい光を帯びた声で言えたのが、すごく嬉しかったです。歌と向き合う勇気、わたしも応援しています。