小刻みに呼吸をしながら,向けられた銃口の先の男を睨みつける
打たれて分かったが…威力はまるでショットガンだ まだ呼吸ができるが、次撃たれれば確実に即死だろう
「……ゲホッ!ゲホッ…」
「だから言ったでしょう…その口調と態度…何とかしなさいと」
暗殺ターゲットとナイト
どこから来たのか…霞む視界を広げると目の前に,あいつが居た
横の男がすぐさま銃口を男に向けるが、分かりきったように両手を上げる
「俺を殺すのは構いませんが、その前に少々お時間頂きますよ」
告げる口は男を見ようとせずにひたすらに手を挙げ続けた
そんな態度に、銃を下げる事もせず、撃とうともしない
「お前が決められる立場だと思ってるようだな…sumo…」
「えぇ」
まだ答えも決まってない中、両手を下げると血溜まりを踏まずに離れた位置で話しかけられる
「本当は俺がお前にトドメを刺したいくらいです」
「見てんじゃねぇよ……クソ…」
「いい眺めですよ、徹夜の体に染みます」
「…今からでも…お前をッ………ッ!ゲホッゲホッ」
「そろそろ限界ですか…そんなお前に良い提案があります」
男が白衣のポケットから四角い鉄の塊を取り出す
血溜まりの中を靴で入り込み目の前で屈むと手に持った物を目の前に持ってくる
「これをお前の中に入れます。そうすれば痛みは愚か永遠に生きる事が出来ます」
男の言葉に、色の変わった唇が三日月に変わる
「つまり…人間……ッじゃなく…化け物に…でもする気……か?」
「ナイトとして…生きる選択肢を与えているのです」
目の前に持ってきた手を震える手で押し返す
「誰が…お前のナイトに……ッ死ぬなら……道ずれだ…ッ」
ライフルを取り出し、目の前の男に向ける
男がスコープを見ると驚いた顔みせる
「お前…それ…」
「殺してやる…!」
ライフルを身構え……そして
先程自分を打った男に向きを変え、素早く2発撃ち込む
「ッ!!」
が、しかし咄嗟に避けられてしまい、
弾は足を掠っただけだった
「仕留め損ねたか…ッ」
「いえ、当てただけ十分ですよ」
言葉通り、撃たれた男は掠った傷口を抑え込み、震えながらその場に倒れ込む
「…ッグ!?」
なんだ……?
あんな掠っただけで…仕留められたのか?
揺らめく視界で男の持つ物が再び目の前に出される
____
「本気ですか!先生!」
急ぎ足に進む男を、三体のロボットが追い掛ける
「あぁ…本気だ、あいつは生きる事を拒んだ。もはや助ける理由もない」
「ではあのまま見殺しにするつもりですか!!」
「だから…っ」
「あの方は先生を助けてくれたんじゃないんですか!!」
「黙れ!!!」
男の声が、廊下中に響く
しかし、感情の無いロボットは止まらない
立ち止まった男は拳を震わせながら、同じ事を喋るロボットを無視し、目の前の扉に入ると勢いよく扉を閉めた
薄暗い部屋を進むと
男は、壁に立て掛けられた大きな額縁に入った写真の前に立つ
見た事無かった
今にも自分の命が尽きてしまうと言うのに
泣きそうな…歪んだ顔で再び拒んだあの女の顔を
「……俺は…どうしたらいい…!」
絞り出すように出した声の先にあったのは
男と同じ白衣を着た…年配の男とその横に立つ優しそうな女性の顔だった
綺麗な部屋のベットに静かに眠った人間を見つめるロボット
手当ては施されているものの…肝心の血が足りない
眠ることを知らないロボットは目を覚まさない人間を見つめることしか出来ない
「先生、このままでは本当に命が危ないですよ」
その時、慌てて部屋に入ってきた別のロボットが、呼びに来る__
ロボットの集まっている部屋には別で治療を受けていた大砲男の姿があった
寄ってたかるロボットをギリギリと睨みつける
「……ッ…こいつら…sumoの!」
押し退けて部屋へと入ってきたのは白衣の男
「気分はどうですか?」
「最悪。殺す相手の屋敷のベットで治療済みなんて」
「子供が1人入ってくる場所では無いのですよ」
「子供じゃない…イトフだ」
「……やはりお前でしたか…単独で乗り込む子悪魔が居るとsumoの中で噂の」
「その呼び名を辞めろ、子供の見た目をした悪魔で子悪魔だろ…それ誰が言い出したか知らないが殺してやる」
「大砲は俺のロボット達に破壊させました…大切な銃も、取り上げられた状態で…どう闘うつもりですか?」
白衣の男が合図を出すと、ロボットがイトフを囲い一斉に銃を向ける
「……ッ…」
「イトフ…お前の血を寄越しなさい…血液検査は既に済んでいます。さもなくば今度は治療せず放置します」
「…………」
イトフの答えは二つ返事だった
条件に、死なない程度の量を受け渡す…と利息付きで
血液を抜き取り…彼女に点滴する…少しずつこの作業を続けた
ロボットに任せず、全て男一人で行い、気が付けば2ヶ月が過ぎた
____
「今日の分は終わりです、次の血抜きは1週間後…いつもの部屋に戻りなさい」
イトフが立ち上がり、部屋の扉の前に立つ
白衣の男は眠った人間に点滴を付け,更に色々と周りの手当をしている
「人間1人になんでそんな本気になるの?」
イトフの問いに作業を止めずにすぐに返した
「命を助けられたからです…全くめんどくさいナイトです」
「ナイト……?そこら中に居るだろ…ロボットが。」
「戦闘力も無ければ、人間のような心も無いのでね……この女は幾分か面白い」
「……女だったのか?」
「らしいですよ。信じ難いですが…さぁ、部屋に戻りなさい」