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そんな彼の様子が可愛くてつい笑みが溢れてしまう。
そして五木も私の上げたプレゼントを取り出して眺めると
「これ…腕時計か?」
「うん、五木に似合うかと思って」
そう言うと、彼は早速、利き手に腕時計を巻き付けた。
「気に入ってくれた?」
「…おう。あんがと、大事にするわ」
そう言って笑う彼の笑顔はやっぱり眩しくて、胸がきゅっと締め付けられた。
そして五木が不意に空を見上げる。
私もそれに倣って上を見上げると、綺麗な星空が目に入ったけど、それよりも私の目を奪ったのは彼の横顔だった。
ああ……私って本当に、五木が好きなんだなって思う。
腕時計をあげた理由だってクリスマスにプレゼントする物の「腕時計」の意味が
「あなたと一緒にいたい」「これからも同じ時間を過ごしたい」というものだったからだ。
わざわざ検索して調べて選んだんだから、五木に惚れているということを自覚せずにはいられない。
直接言うなんて負けた気がして無理だけど、重いかな?と不安になるぐらいに好きなことは確かなんだろう。
五木は多分、そんな意味なんて考えずに渡してきたんだろうけど
恋人に渡すネックレスの意味は「あなたは私だけのもの」っていう独占的な想いが込められているらしい。
もし、そう考えて、渡してくれたとしたら、すごく嬉しいな…。
そして暫く沈黙が続いた後、ヒューと風が通り抜けていき、手が悴む。
「急に、寒くなってきたね…」
すると、徐に五木が口を開いた。
「なあ」
「なに?」
「手ぇかせや」
言われるがままに手を差し出せば、五木は私の指の間に自分の指を絡ませてきて、ぎゅっと握ってきた。
突然の恋人繋ぎに思わず心臓が跳ねるけれど、それに構わずに彼は続けた。
「こうしてりゃあったけーだろ」
「は、恥ずかし……んだけど」
私がそう言うと五木はこちらに視線を向けた。
その瞳はまるで獲物を狙う獣のような鋭さで、私は思わず息を呑む。
そんな私の様子を見てニヤリと口角を上げて言った。
「知っとる」
心臓に悪すぎる表情と言葉に、頭がパンクしそうになる。
「いっ、意地悪…!」
そう返すと、彼はまた可笑しそうに笑うだけ。
(ああもう!本当にずるいんだから…っ、なんか、負けた感じするし…!)
それから暫くして私達は帰路についた。
駅に着き、電光掲示板を確認する。
次の発車時刻まで十分ほど空いていたため、ホームのベンチに腰掛けた。
私は五木の肩に頭を預けて、そっと目を閉じる。
でも何故か文句も聞こえてこなくて
頭を離してチラッと五木の様子を伺えば、ムスッとした顔をしていた。
けど耳は真っ赤で、それが寒さのせいだけじゃないと思うと、頬が緩む。
「ねえ、五木の乗るのってここじゃなくて四番線の方でしょ?ここにいていいの?」
「あ?知っとるわ。この方がおめぇと長く居られんだろーが」
その言葉にドキッとして
「そっか…そうだね」なんて
小学生みたいな言葉しか出てこなくなった。
すると、離した頭を再び五木の大きな手によって肩に傾けられて、その手は離れることなく私の頭を固定した。
それが心地よくて、ずっとこうしていたいと思ってしまう程に幸せだった。
暫くして私の乗る電車が到着するアナウンスが流れ始めると、私達はゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、気ぃ付けて帰れよ」
「うん、今日はありがとね…!おやすみ!」
「おう」
別れの挨拶をかわし、電車に乗れば、もう8時という事で座席は満員だ。
心を落ち着かせるためにも角っ子の壁に腰をかけて席が空くまで立っていることにした。
もう五木は自分の番線に向かったと思うけど、さっきまでの温もりが消えてふと我に返る。
(今日…最高すぎた、やばい、まだ興奮が抑えられない)
私は自分の胸に手を当てて、深呼吸をした。
それから暫くして席が空いたのでそこに座り込むと、どっと疲れが押し寄せてきたのか瞼が重くなってくる。
そしてそのまま眠りについてしまった。
次に意識が浮上したのは降りる駅に電車が止まった時だ。
慌てて荷物を持ってホームに降り立つと、冷たい風が頬を掠めた。
家に着いて、自室のベッドに体を沈ませれば
ボフン!という音と共に私は顔を枕に沈ませ、幸せな気分のまま眠りについた────。
それから1週間後…
今日は新年も明けた1月2日
絶賛冬休みということで、クリスマスイブからは全く会っていない。
五木はバイト、私は会えない分、寝落ち通話なんてのもしてみたいけど、五木は嫌いだろうなと思って誘ったことは無い。
なにより、忙しいだろうしと私自身彼氏となだた五木に遠慮してしまう節があるからだ。
LINEを見返してみれば、つい昨日の
【あけおめ。今年もよろしくな】
【あけおめー!こちらこそ】
という、やりとりで会話は終了している。
このそっけないやり取りを最後に、五木からのメッセージはない。
十中八九、バイトで忙しいのだろう。
「はぁ……」
ベッドの上でスマホを持ちながら、思わずため息をついてしまう。
付き合う前はあんなにバチバチやり合ってたのに、いざ付き合ったらこんなに静かになるなんて。