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来た時と同様に、グレッグ様と共に馬に乗る。
心なしか先程よりもグレッグ様の距離が近い。
片腕は後ろから抱きしめるように、私の身体をかっちりとホールドしている。
反対の手で手綱を握っている。
恥ずかしいのだけれど、それでももっと強く抱きしめてほしいと心の中で懇願する。
自分一人では、正気を保っていられないほどに、心が蝕まれていた。
けれど、これ以上グレッグ様に甘える訳にはいかない。
もう……終わったんだ。
自由になったんだ。
だから……。グレッグ様と会う口実もなくなる。
もともと、私なんかとは住む世界の違う人。
きっと、これが最後だから……。
せめて最後の思い出として、グレッグ様の温もりを刻みつけよう。
少し上体を起こして、密着している背後のグレッグ様に身を預ける。
そして、ゆっくりと馬に乗せていた両手を離した。
抱きしめるようにホールドしているグレッグ様の腕に、しがみつくように自分の手を添える。
「ソフィア、怖いか?急いですまない。私が支えている。落ちる心配はない。大丈夫だ。」
私は、ふるふると首を振る。
無意識に身体が小刻みに震えていた。
そんな私の身体を落ち着かせるように、グレッグ様は腕の力を強める。
振り落とされるのが、怖いんじゃない。
私が怖いのは、あなたとの関係性が変わってしまうこと。
もう二度と、こんな風に近づくこともできないのだから。
どさくさに紛れて、こうしてあなたに寄りかかる。浅ましい自分が嫌になる。
このまま、永遠に帰りつかなければいいのに。
私の願いもむなしく、馬は順調に駆けて進む。
街へ辿り着くと、馬は歩を緩める。
三日月亭付近に辿り着くと、グレッグ様に抱え下ろしてもらう。
背中の温もりが消えて心許ない。
妙に肌寒く感じる。
「ソフィア、今日は何も考えずにもう休んだ方がいい。さぁ、早く中へ」
「……ありがとう…ございました」
消え入りそうな声で、グレッグ様へお礼を言い頭を下げる。
突如、頭をグレッグ様に撫でられる。
「っ!」
驚いて上体を起こすと、グレッグ様は、まるで愛しむような眼差しを向けている。
グレッグ様……?
思わず戸惑ってしまう。
「また連絡する。」
グレッグ様は、馬に跨り本舎へ戻って行った。
「お気をつけて。」
後ろ姿が見えなくなるまで、目に焼き付けるようにずっと見送っていた。
そろそろ戻ろうと思い、踵を返して、三日月亭の入口に手をかけようとした時だった。
「すみません、お嬢さん、少しだけ手を貸していただけませんか?」
女性に声をかけられて、振り向く。
フード付きの黒っぽいマントを身に纏った女性が、佇んでいる。
頭からすっぽりと目深くフードを被っているので顔はみえない。
どうして、顔を隠しているんだろう。
顔を見られたくないのかしら。
何か困っているのだわ。
とりあえず話だけでも聞いてから考えよう。今は、疲れていて、頭が回らない。
「どうされたのですか?」
「友人が、立ちくらみを起こしてしまって。すぐ、そこなのです。私では、抱えることができなくて……。どうか、お願いします。手伝っていただけませんか?」
「えぇっ?大丈夫ですか?どこですか?」
切羽詰まった様子が窺える。
「あぁ、なんとお優しいかた、ありがとうございます。こちらです、早く!」
急かされるように、女性と共に早足で進んでいく。
なぜかしら、この声、
どこかで聞いたことのあるような……。
ううん、知り合いなら私の名前を呼ぶはず。
ふと気になったものの、今はそれどころではないと頭から振り払う。
倒れた人を助けることが先決。心配だわ。
「さぁ、こちらです。」
陽も傾き、辺りは薄暗くなりつつある。
通りを奥に入ると、裏路地と呼ばれる所がある。
裏路地には、決して近づかないように、と、ルイーザさん達に言われている。
表通りと違い、あまり治安が良くないから。
けれど女性は、裏路地へと進んで行く。
「さぁ、こちらです。もうすぐ、もすぐですので。」
どうしよう……。大丈夫かしら。
このまま裏路地へ入ってもよいものか悩み、 躊躇して足が竦む。
そんな私を急かすように、女性は声をかけてくる。
「本当に、もうすぐそこなのです! 早く、早く、お願いします!」
もしかしたら、倒れた人は、命に関わる病気かもしれない。
悩んでいるこの時間がもったいない。一刻を争うかもしれない。自分がぐずぐずしているせいで、助けられなかったら……。
そんなの耐えられない。
助けなければ! という強い使命感が湧いてくる。
意を決して、女性に続いて裏路地へと足を踏み入れた。
表通りと違い、地面は整備されていなく、建物の損壊、窓が割れているのが目につく。
全くと言っていいほどに、人の気配がしない。
街灯も壊れている。こんな所で倒れたなんて、きっと心細いはずだわ。
一刻も早くここから連れ出さなければ。
「あそこです!」
女性の指し示す方向に目を向けると、蹲る人影が見えた。
暗がりのためよく見えない。
具合が悪いのだわ。二人でなら、支えて歩けるかもしれない。診療所か、三日月亭かどちらが近いかしら。
急いで駆け寄ると、声をかける。
「大丈夫ですか?私の肩に掴まれますか?一緒に━━っ!」
その瞬間、ガツン!と首の後ろに衝撃が走った。
「っ!」
何が起こったのか分からないまま、ぷつりと意識が途絶えた。