テラーノベル
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場所は俺に任せて、ということだったので、全て阿部ちゃんにお任せした。
すると、しばらくは音信不通だった阿部ちゃんから、約束の前日に、メッセージが届いた。
💚『朝、車で迎えに行きます。楽しみにしています』
……行き先は書いていない。
阿部ちゃんとは友だちとして出掛けることも滅多にない。もちろんどんなデートをするのかもわからない。不安ばかりが先に立つ。いきなりキスとかされたらどうしよう。それどころか、カラダを求められたりしたら…。
バカバカしいとは思いつつ、ああいうタイプは意外にむっつりだったりするかもしれないぞと、己の貞操の危機を勝手に案じたり、そういう考え自体が阿部ちゃんに対して失礼だと己を呪ったりしながら、殆ど眠れないまま、当日の朝を迎えた。
鏡を見て、くっきり浮かんでいる目の下のクマをなんとか隠せるだけ隠して、薄く化粧をしてから家を出た。格好は気張りすぎるのもおかしいので、いつもYouTube撮影で着る程度の、ラフ、かつ、動きやすい格好で固めた。 唯一、定番のサンダルだけはやめておいた。何かあった時に、ダッシュで逃げられないから。
なんだかんだで、警戒心マックスで俺は阿部ちゃんからの迎えの連絡を待っていた。
💚side
翔太への恋心をうっかり佐久間なんかに打ち明けてしまったせいで、このまま秘めておくか、タイミングを計ってから言おうと思っていた自分の計画が台無しになった。それでもこうなった以上、これがいいきっかけになったと前向きに切り替えていくしかない。
どちらにせよ、グループとして活動していく未来は続いて行くのだ。ややこしい秘密なんか持たない方がいいに決まっている。
💚「いい加減、俺も我慢の限界だし」
あざといとか、姫だとかよく言われるけど、素直な気持ちを『アイドル』というフィルターを通して表現していたら、今の俺は自然とそうなっているだけだ。
現実の俺はもっとシュールだし、リアリストだし、人並み以上に計算高い。人が喜ぶいい子を演じていたら、どっちが素なのかわからなくなっているだけだ。お行儀よく、常に気遣いをしてきた代償として。
もちろん、優等生の俺も本物の俺だし、そういう自分を否定してるわけじゃないけど、自我の前に『アイドル阿部亮平』が邪魔をして、できる顔とか、できる反応に、人より多めに制約がある気がする。
人間は多面性の生き物だと思う。
誰だって、相手によって見せる表情が異なって当然だ。
それがいわゆる大人になるということだし、世間を知り、場を弁えるということでもある。俺は今、周囲にとって何が必要かを考えたり、冷静に選択する力がある。それを成長という。ずっとそう考えてきた。
翔太に恋をしてから、彼の大人げない対応に、それでも素直に泣いたり、怒ったり、凹んだり、笑ったりできるところに、そんな生き方があったのかと驚かされることが多かった。我儘だし、ガキだし、バカだけど、愛おしい。
今では周囲にそういう人だと思われたらむしろ勝ちだとすら思うのだ。天然の、作られていない魅力が翔太にはある。
俺だって、子供の頃はそうだったはずなのに、いつの間にか考えてから行動する癖がついてしまって、人より若干臆病になってしまった。
翔太を見る目線は、このように、初めは単なる人間観察に過ぎなかった。 自分に足りないものを認め、参考にするための…。でも、それがいつの間にか『もっと見たい』に変わって、『もっと側にいたい』になった。恋なんて理屈じゃない。今、俺は間違いなく翔太に恋している。
コメント
4件
ダッシュできるようにサンダル封印するのかわちぃwww うちでもサンダルだったからめめ追いかけられなかったしょぴいたなぁ🤭