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💙「てっ………」
阿部ちゃんからの連絡を受け、家を出ようとしたら、テーブルの脚に、強く足の小指をぶつけた。むちゃくちゃ痛くて、数十秒間にわたり悶絶したけど、待たせるのも悪いと思い、涙目でスニーカーを履く。
いかん。やっぱり緊張している。
エレベーターで下まで降り、エントランスを抜けると、阿部ちゃんは仕事に行くのと変わらないような爽やかな笑顔で待っていた。
💚「おはよう」
💙「うん」
うん、じゃねぇのよ。
なんでおはようって普通に言えないかな。自分で自分に突っ込むけど、いかんせん照れ臭い。自分を好きだと言った人間の、眩しい笑顔を俺はやはり直視できないでいた。
💚「翔太、手」
💙「ふぇ?」
手を繋ごうと言われたのかと思い、思わず阿部ちゃんの顔を見返すと、阿部ちゃんは悪戯っぽく笑って、期待させて悪いけど、と言った。
💚「コーヒー、アイスでよかった?」
手渡されたコーヒーは、冷たくて、自分の火照った頬にあてたいくらいだ。
俺は思わず視線を逸らした。
阿部ちゃんはそんな俺を揶揄うこともなく、颯爽と先導するように歩いて行く。デートだと言ったってベタベタしないんだなと安心するとともに、物足りないような自分を自覚して焦った。
流されてはいけない。自分のペースを守らないと…。
阿部ちゃんの車に到着すると、助手席のドアを開けてくれた。こういうところは、特別に扱われているみたいで嬉しい。
いや、嬉しいってなんだよ。とにかく俺の中の情緒が騒がしい。
💙「どこ行くの」
💚「俺の好きな場所。きっと翔太も好きだと思う」
阿部ちゃんはクールにそう言って、スムーズに車を発進させた。