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人狼

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人狼

4 - 第4話

♥

70

2024年12月17日

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【登場人物】

ロドリグ=ベッソン(集落の長)

レナルド=ベッソン(長男)

アドルフ=ベッソン(次男)

エリーゼ=ベッソン(レナルドの妻)

アリアーヌ=ベッソン(レナルドとエリーゼの子)


アダム=アルファン

【処刑】パトリシア=アルファン(アダムの妻)

ベルトラン=アルファン(アダムとパトリシアの子・長男)

リュカ=アルファン(アダムとパトリシアの子・次男)


《殺害》ウィリアム=ジスカール

【処刑】アネット=ジスカール(ウィリアムの妻)

<不明>ヘレナ=ジスカール(ウィリアムとアネットの子・長女)

<不明>マリアンナ=ジスカール(ウィリアムとアネットの子・次女)


ジル=グローデル

ジュリー=グローデル(ジルの妻)

フルール=グローデル(ジルとジュリーの子・長女)

《殺害》ジャン=グローデル(ジルとジュリーの子・長男)


アルベール=ロワイエ

ジョルジュ=ロワイエ(アルベールの子・双子の兄)

ジョスティーヌ=ロワイエ(アルベールの子・双子の妹)


ボッブ=ラグランジュ(独身)






【三日目】


「……アド……ドルフ………アドルフ!」


己の名前を呼ぶ声。顔に落ちる水滴を感じ取って、アドルフはゆっくりとその目を開ける。紺碧の瞳に映り込んだのは、フルールの泣き顔。嫌な予感がした。


「フルール、どうしたのさ?可愛い顔が台無しじゃないか」


そう囁いて手を伸ばし、彼女の涙を拭う。


「アドルフ……お父さんが…お父さんが………」


それ以上言葉を続けることは出来ず、彼女は子供のように泣いた。否、彼女はまだ十二歳足らずの子供だ。弟がいて、お姉さんらしく振る舞わなければ、と大人びた振る舞いをしているがまだまだ幼い子供なのだ。アドルフは起き上がると、そっと彼女抱き締めた。そして、床に広がる本を見つめる。


(持っていた本を再度読み返して見たけれど、これといった収穫はなかったな……。何か対抗する策はないものだろか)


そう考えていて昨日はいつの間にか眠ってしまったのだった。だが、いくら考えても良い策は思い付かない。人狼はとても上手く化けるうえに、食べた相手の記憶も継承出来る特殊な能力を持っている。ゆえに、人狼が混ざってもすぐには気がつかない。見た目でも、記憶でも人狼であるか否かは見極められない。また、吸血鬼のように苦手なものが少ない。獣と同じようにミントや柑橘類の匂いが苦手だが、食べられないわけではない。肉を好んで食べるが、野菜も穀物も難なく食べることが出来るとなるといよいよ見極める術が無いように思えてくる。


だからこそ、人狼による住人たちの殺戮は止められない。


川辺に倒れているジル=グローデルの亡骸を見て皆その瞳に絶望の色を滲ませた。ジルもまたウィリアムと同じように喉笛を切られ、腹を裂かれ、内臓が無くなっていた。細い川に、彼の血が細く下流へと流れている。アドルフとレナルド、ボッブの三人がかりでグローデル家に運び込んだ。ジュリーは、もう涙が渇れ果てたように憔悴しきった顔でジルの頬を優しく撫で、フルールはアドルフに抱きついて長い間泣いていた。


「そろそろ、村の警察に話をしたらどうだ?」


アルベールが提案する。


「話をしてどうなる。警察官が人狼を見抜けるはずがないだろ」


ロドリグが言うと「そうだけど…」とアルベールは口ごもる。


「それに、疑わしい奴の目星はついている」


そのロドリグの言葉に、その場にいた全員が反応を示す。


「さぁ、ベッソン家に集まろう。フルール、子供達の面倒…お願いできるかな?」


そう言われてフルールは力無く頷くことしか出来なかった。





ベッソン家に集まる人数は日に日に減ってゆく。部屋に漂う空気は重い。


「それで、疑わしい奴って?」


席に着くなり、アルベールが尋ねる。


「ボッブ、お前だ」


「へ?は?なんで!?」


ボッブは動揺し椅子から勢い良く立ち上がる。


「アネットのときも、パトリシアのときもお前が先行して彼女たちが怪しいと言った。それは全て、自分から皆の視線を外すためだろ?」


「いやいや、ロドリグさん何を…オレは純粋にあいつらを怪しいと思ったから」


「よくよく考えれば、一番最初に怪しいと思うべきはお前だった」


「何を…」


「まさかお前は、自分が山の中で何をしているのか誰も知らないと思っているのか?」


「んなっ!?」


ボッブは言われて周囲にいる人物を見るが、全員が厳しい表情をしていた。


「そ、そりゃ…た、確かにオレは…山ん中で鹿や猪を狩っちゃいるが…」


「狩る?食べるわけでもなく、ただ単にバラバラにするだけだろ?しかも、随分と楽しそうにバラしてたよな?」


「う、ぐっ……」


アダムの言葉にボッブは何も言い返せなかった。


「獣をバラすのも飽きてきたのか」


「ち、違う!!そ、そりゃあ、鹿や猪はバラバラにしてきたが、人間には手を出してない!!信じてくれ!!」


しかし、彼を見る皆の目は厳しく冷ややかだった。


「お、おい、嘘だろ。そんな……俺が人狼だって言いたいのかよ?」


ボッブは震えた声で言う。


「二十年前この村を出ていったラグランジュ家の息子として五年前に戻ってきたお前が、実は人狼でした…っていうオチも考えられなくもないだろ?」


レナルドが言うと、ボッブはひどく狼狽える。


「な、何言ってんだよ…確かにちょっと筋肉がついて、ちょっと昔のひょろかった俺とは似ても似つかないだろうけど…ジャンやウィリアムたちを殺す理由が無いだろ?」


「腹が空いてたんだろ?」


「ア、アダムさん…」


「腹が空いてりゃ誰でもいいだろ。狼なんてそんなもんだ」


アダムは吐き捨てるようにして言った。ボッブが救いを求めるようにアルベールを見たが、彼は苦い顔をするだけで何も言わなかった。


「な、なぁ待ってくれ。もう少ししっかり話し合おうぜ」


「そうやってまた他人を陥れるのか」


「お、陥れるんじゃない!怪しいのはオレだけじゃないはずだ」


「お前の他に誰がいるんだ?」


「出戻りならアルベールだってそうじゃないか!」


「あ、おい!お前、オレを巻き込むなよ!!」


アルベールは怒りを露わにして立ち上がる。


「アルベールだって三年前に突然戻ってきた出戻りだろ?こいつだって充分人狼の可能性があるじゃないか!」


「ふざけんなよ、お前!自分が殺されたくないからって適当なこと言いやがって!!」


アルベールがボッブの胸ぐらを掴むが、彼はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


「あんたとは似ても似つかないあの双子は、本当にお前の子供なのか?」


「黙れ!!」


「落ち着け、二人とも」


そこでようやっとレナルドが二人の間に入り、アルベールの手をボッブから離す。


「では、投票をしよう」


ロドリグの冷ややかな言葉を聞いてボッブは「嫌だ!!!」と叫んだ。

そう、投票をすれば確実に自分に票が集まり処刑される。ボッブがベッソン家の玄関を開けるのと、ロドリグが猟銃を掴み駆け出すのは同時だった。五十を超えた男性の動きとは思えぬ速さで、構え、迷い無く引き金を引いた。放たれた銃弾が足に当たり、体勢を崩したボッブにロドリグは素早く近づき後頭部に銃口を押し当てた。


「俺じゃない」

「死ね人狼」


二人の言葉は重なり合い、そして銃声が辺りに響き渡った。


ボッブ=ラグランジュの死体はバラバラに解体され、埋められた。解体したのはロドリグとアダムの二人だった。




「良い匂い…あら、アドルフ」


そう言って力無い声をだしてジュリーが奥の部屋から出てきた。アドルフはグローデル家の台所に立ち、何やら作っている様子だった。その背中を娘のフルールはじっと見つめていた。


「お邪魔してます。フルールがお腹が空いたというので、すいません勝手に…」


「いいのよ。ごめんなさいね、ご飯も作らず、母親失格ね」


椅子に座ると渇いた笑みをこぼした。


「いろんな事があったんです。疲れていて当然です。ジュリーさんも食べますか?」


アドルフがスープをお椀に入れようとしたが、ジュリーは首を横に振った。


「……今は、いいわ。あ、そうそう。棚の中にベーコンがあるわ。それも入れてあげて」


「えっいいんですか?」


聞きながら、アドルフの紺碧の瞳が嬉しそうな光を湛える。


「だから、アドルフも食べていいわよ」


「ありがとうございます」


そう言って棚を開けると、ブロック状のベーコンが布に包まれ鎮座していた。アドルフはそれを恭しく持ち上げると、少しばかり切り出した。ベーコンやハムの類いが珍しいわけではない。だが、越冬するときのために食べることが多い保存食なので今の時期に食べるのは異例のことのようにアドルフは思った。そして、少しであったとしてもベーコンを入れればスープの味は格段に良くなる。食卓に野菜と穀物、ベーコンを入れた少し贅沢なスープをフルールとアドルフは共に啜り、その様子を疲れた笑みを浮かべたジュリーが見つめる。


「アドルフは、ベーコンが本当に好きなのね」


そう、ジュリーに言われてアドルフは照れたような笑みを浮かべた。


「あまり肉が好きではなかったんですけど……ベーコンとハムだけは別格です」


「そうなの。ああ、アドルフの作るハムは美味しいわよね。ジルもジャンも楽しみにしてたわ。今年も作っているんでしょ?」


「ええ、まぁ…」


そう言って言葉を濁す。


「上手くいかなかったの?」


「いえ、そういうわけではなくて。その、思っている以上にたくさん出来てしまって。ちょっと、張り切り過ぎたんです」


そう言って笑い頭を掻いた。


「じゃあ、売ればいいわ。きっと、アドルフのハムなら高値で売れるわよ」


「私も!私も楽しみにしてるのよ!」


「ありがとう。じゃあ、今年は一番に持ってくるね」


「やったー!」


フルールの頭を優しく撫でてアドルフが言うと、フルールは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ねぇ、アドルフ。今日は泊まっていって」


帰ろうとするアドルフを、ジュリーは引き留めた。


「いや、しかし…」


「今、この家には男の人がいないの。人狼は殺されたはずだけど、この収穫期は盗人が来る可能性が高いし……その、私一人ではフルールを守れる自信が無いからお願い」


そう潤んだ瞳で頼まれれば、アドルフだって断ることは出来ない。フルールとジュリーが同じ部屋で寝て、ジルのベッドで寝て良いと言われたがそれをアドルフは丁重に断り、居間にあるソファーで寝ることにした。





夢を見ていたような気がする。

猟銃で足を撃たれるという嫌な夢を。

流れ出た血が細い川に流れ込み、見る見る赤く染まっていく。

川底に殺された人たちの顔が見えたような気がしたが、そこで夢の記憶は途切れた。



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