【私のお人形さん】 作 夢宮 楓
『ねぇあなたも私が好きなんでしょう?』
『うっうん』
『ならこの時間にここに来て』
と言って彼女は、僕にメモを渡してきた。
そのメモには……
【明日、午後の放課後、私の家に来て】
『……家って』
『私の家、このあたりじゃ、とてもわかりやすいと思うし、わかるわよね』
『うっうん』
『着替えてきてね』
『わかった』
『じゃあ、待ってるからね』
そう言って彼女は手を振りながら、笑顔で僕の前から、去っていった。
彼女の家は、このあたりじゃ誰も知らない人はいないとても大きな豪邸だ。彼女は……そう、大金持ち。……一応、言っておくけど、僕はそんなお金が好きで彼女が好きなわけではない。
僕を誘ってくれたんだ……、まだ、まだ希望はあるかもしれない……と心に誓った。
次の日 (教室)
とうとうこの日が……!って昨日誘われただけだけど……、まだ放課後までは時間がある。
……チラっと僕は彼女をみた。彼女はいつも通りみんなに笑顔を振りまいていた。こっちに気がつくと、手を振ってくれた。僕は彼女に手を振りかえした……みんなに気づかれないように。
『よう、お前どうしたんだ?手が動いてねぇぞ』
親友の山本 栄伸(やまもと よしのぶ)、通称、(一組の運動マン)が僕に話しかけてきた。
『……』
『……あれか?】
『うん』
どうせ栄伸も知ってるって思ってたし、あれといえばこれしかない……って思って確実なことは栄伸には言わなかった。
放課後になった。教室には彼女はもういない。きっと家に先に帰ったんだろう。僕も急いで着替えて彼女の家に行こう!!そう思い走って家に帰った。
『どうしたの?』
『遊んでくる』
『早めに帰ってくるのよ』
『うん』
そんな会話を母親としながら僕は着替えた……。僕は簡単な短パンにTシャツ(1番見た目がしっかりしてる)それにパーカーと最後に腕には時計をした。
『……うーん、やっぱり、タキシードじゃないとダメなのかな?(小声)』
心配だった。僕はタキシードなんて持っていないし、タキシード着るってなったら、親にバレる……。
『まぁ大丈夫だよね』
僕は不安ながらも彼女の家に向かった。
優雅な音楽が聞こえはじめた。彼女の家の玄関についたのだ。
『あの……』
彼女の執事?が僕に聞いてきた。
『え?……やっぱりこの服じゃダメかな?』
『うーん、タキシードが原則なのですが』
『あっごめんなさい、僕、タキシード持ってなくて……』
『……やはりそうでしたか、こちらへどうぞ』
そう言って、執事はある部屋へ、僕を案内した。
『ここは?』
『お客さま専用の衣装室です』
『……専用』
すげぇ……そんなこと思っていたら、執事が聞いてきた。
『お客さま、身長を教えてください』
『……162cm』
『ありがとうございます……ではこれですね』
執事が僕に白い高価そうなタキシードを渡してきた。
『あっあの……僕……』
『……あっわかりました』
執事は僕が言いたいことがわかったらしく、僕の着替えの手伝いをしてくれた。
『……』
『ふふ、赤くなってますね』
『……っ』
『お似合いですよ』
『あっありがとうございます』
なんか……やっぱり、他人の前でしかも……年齢的に着替えを手伝ってもらわないと着替えれないということが僕はとても恥ずかしいと感じた。
『さぁ大広間へどうぞ』
執事さんが、ドアを開けてくれた。
そこはとっても広くて、みたこともないほどの豪華な部屋だった。
大広間
『あっ来たのね、待っていたわ』
彼女は笑顔で僕をむかって言った。
僕は彼女のそばへ行った。
『似合ってる』
少しこの姿をみられるのが恥ずかしかった。
『あっありがとう』
けど好きな彼女に褒められたことが僕はとても嬉しかった。
『(君も素敵だ……)』
なんて僕はいえなかった。
彼女はピンクのふんわりとしたドレスを着ていた。よく似合ってる……。
僕はドキドキしていた。
話題を変えようと……。
『あ……あの、他のみんなは?』
僕はまわりに男性の姿がないのが気になった。
『あっああ、それはね、あなた以外はみんな男子は呼んでいないの』
……え?僕だけ?……僕だけを彼女は?それだけで僕の心は飛び跳ねていた。
『あっでもね、私のお友達は呼んでいるのよ』
と言って彼女は手のひらでパンパンと合図をした。
『はじめまして、私はヒナノ、よろしくお願いしますわ』
『はじめまして、とても素敵ね、私はマイ、よろしくお願いしますね』
『はじめまして、貴方……可愛いわね、私はセツナ、よろしくお願いしますわ』
3人の彼女達は順に自己紹介をして深くお辞儀した。
『こちらこそよろしく』
僕も慌てて、お辞儀しながら言った。
なぜ僕だけなのか……僕は嬉しさもあるけど、少し不安も感じた。
『あそこ、貴方のために、用意したの、その椅子に座って?』
彼女は指をさしながら僕に言った。
……彼女が指をさしながら僕に言っているのははどうみても、映画とかでみた王様が座る椅子、そう玉座にしかみえなかった。
『あっあれ?』
『えぇ、そうよ』
『わっわかった』
僕はコクンと頷いて、椅子へ、むかった。
『さぁどうぞ』
執事さんが手伝ってくれた。
……これは夢なのか?なぜ僕は玉座に座らせられてるのだろう。
『……あ、あの』
僕は彼女たちに、声をかけた。
『君たちも座らないの?』
目の前には4つの椅子があった……。
『ふふ、えぇ座りましょう』彼女が笑顔で3人に言った。
『っ……いっ……やよ』セツナさんは、泣きながら必死に言った。
『もう覚悟を決めたことでしょ』マイさんは、脚をガクガク震えながら言った。
『……』ヒナノさんは無言。
彼女たちは椅子に座ることを拒んだ。
よく見るとその椅子には、ある変な機械がついていた。
『……あ、嫌なら座らなくてもいいよ』
『ホントっ!!』嬉しそうに3人は泣きながら叫んだ。
『……僕だけ座るのもなんだから僕も立とうか?』
『いいえ、貴方は座っていていいの、だってお客さまなのだから』
けど、彼女は笑顔でそう言った。
今思えば、少し彼女は不気味だった……。3人が泣いているのに、ずっと笑顔で……。その時に気づけばよかったのに、僕は……気づくことはなかった。
『そういえば、あなたはご飯食べたかしら?』
『……いいや、食べてきてないけど』
『なら食事にしましょう?マイ、ヒナノ、セツナはどうする?』
『遠慮しておきますわ』
『えぇ……私も』
『わっ私も……』
みんなの言葉を聞いた途端、彼女は満足そうにこう言った。
『えぇ……わかったわ、ふふ』
『僕だけ?……なら君は?1人だけじゃなんだか……』
『大丈夫よ、私もいただくわ』
彼女は椅子に座った。あの変な機械がついている椅子に……。そしてにっこりと笑って3人へ言った。
『なにも、ないわよ?……本当に食べないの?』
すると3人が小声で話している、僕には聞きとれた。
『っ……ホントかな?』マイさんがセツナさんに聞いた。
『うっ嘘よ……絶対嘘に決まってるわ』セツナさんが必死に2人に言っている。
『でもお腹すいちゃった……』マイさんが、ボソッと口に出した。
『私も……』ヒナノさんも……。
『2人ともなに言ってるの!あれはきっと罠よ……』セツナさんは……親指を噛みながらそう言った。
罠……?なんのことだろう……。僕は、少し心配になった。普通なら聞かない言葉が聞こえたからだ。
『……』
『どうしたの?』
彼女が僕に言った。
『いっいやなんでもないよ、それよりもお腹すいちゃったから……』
なぜか、彼女と話すと冷や汗がでて、悪寒がした……が招待してもらえたのだから、逃げる事は失礼だと思い、唾をのみこみ、悟られないように僕はそう言った。
『えぇ食べましょう』
彼女は笑顔で僕に言った。
『ねぇ、あなたたちは座りたくないのなら、立って食事してもいいわよ?……別に……ね?』
言っていることは許しているように聞こえるが……どこかしら圧力を感じた。
『……っ!!』
『いっいいえ、座りますわ』
『ちょ……ちょっと!!』
『ね?ヒナノ、セツナ?』
『本当〜?よかった』
ふふと微笑みながら彼女は3人に言った。
『小声(しらじらしい……』
『?……ふふ、何か言ったかしら?セ・ツ・ナ?』
『っ!!べっ別に……』
目がキョロキョロして、彼女に目をあわせようとはしなかった。
『さぁどうぞ?座って?』
彼女が自ら椅子をひいて、彼女たちを招待していた。
『……』
目を瞑り、3人とも無言で椅子に座った。
……が、なにも起こらない。
『……っ?』
『なにも……ない?』
『……なにも……ない』
3人は少しホッとしていた気がした。
彼女は笑顔で彼女達に言った。
『ほら?別に何もないって言ったでしょ?』
3人達はなにに怯えているのか……僕はわからなかった。
ご飯は、僕の家でも、本当に記念日とかにしかでない、トマトのスープ、ローストビーフ、さらに高級そうなお肉のステーキ、なにかの記念日なのか?と思うぐらい、すごい食事のメニューだった。
『こっこれ、食べていいの?』
『えぇ、あなたのためにようしたものなの、遠慮せずに食べてちょうだい』
彼女がパンパンと手をうつ、そうすると、執事さん達が動き僕たちに料理をだしてくれる、そんな体験は生まれて初めてだった。
『ふぅ……ご馳走様でした、料理、とても味わったことのないぐらい美味しかったよ』
『よかった』
彼女は今日の1番の笑顔を見せてくれた。
……が、3人の声が聞こえない……心配で、椅子をみると……そこには……人形があった。
『……え?』
僕はうまく状況が理解できずにただ、その言葉を言っていた。
『どうしたの?』
彼女は僕の近くにきて、顔の前で首を傾げた。
『あっ……ほら、あの、さ……3人の……』
僕は震えながら彼女に聞いた。
『?……あぁ、もう戻ったのね、ふふ』
『ん……え?』
『あの子達は、椅子に座った時から徐々に機械が作動していて……』
僕は彼女がなにを言っているのかわからなかった。
『まぁあの子達は人形にもどったの、また、少ししたら、また綺麗に動く人間になるから大丈夫よ』
『彼女たちが人形?』
『……うーん、人形にしたっていうのが正解かしらね』
『人形にし……た……?』
『えぇ、彼女達は私の友人よ、マイのフルネームは浅野舞ちゃん、とても可愛らしいから友達になってもらったの』
『……あさ……の……まい……』
『セツナは、北野雪奈ちゃん、少し泣き虫だけれど、そこもとても可愛らしいから、私の友達になってもらったのよ』
『……きた……の……せつ……な』
『ヒナノは、松野雛乃ちゃん、あまり喋らないけれど素直だから、素敵だと思って友達になってもらったの』
『まつ……の……ひな……の』
僕は3人の名前を言っていた。
『なんだろう……』
僕はこの3人のフルネームを知っている気がした。
『3人共、大好きなお友達、そしてあなたも……私の好きな……』
『言わないでくれっ!!』
僕は泣きながら嫌な予感を否定しようと必死に叫んだ。
『どうして?』
『……っ!!』
思い出した……、浅野舞、北野雪奈、松野雛乃……新聞やニュースにもなっていた、行方不明になっていた女子大生達だ。彼女達は僕よりも、5歳ほど年齢が上で、3人の名前は野薔薇の野がついているから印象に残っていたんだ。
……そして僕の好きだった……彼女も、平野奈々(ひらのなな)……彼女のお父さんは確か……人形師で、命をふきこむということを目標に、生物学やら、遺伝子やら機械人形を作る、研究していた人……平野啓介(ひらのけいすけ)。世界中の人たちに恐れられていた人だ、少しズレている人だったらしい。
『……ななちゃん』
『……?なーに?』
笑顔で聞いてきた。僕はその笑顔に惹かれていた……無垢な笑顔、純粋で綺麗な彼女……だからこそ……終わらせないと。
『……奈々ちゃん、もうやめよう、彼女達は君にとってお友達ではないよ、もう人形なんだ』
『……?お友達でしょ?』
なにかに呼びかけている。
ギギーーー。機械が作動して、人形になった彼女達が、目を覚ました。
『ねぇ、お友達だよね?私達?』
振り向いて彼女達に笑顔で聞いた。
『えぇ友達よ』
『はい、奈々は私の大切な友達』
『奈々……は私たちの大切な……』
『もうやめろっ!!』
僕は叫んだ。彼女はビクッとした後、振り向いて僕に言った。
『……ふふ、大丈夫、あなたも私のそばに、ずっと……』
『……もうやめよう、奈々ちゃんは、傷ついてるんだ』
『なにを……?』
『奈々ちゃんの心はもう、ボロボロなんだよ』
『っ……嘘よっ、そんなことはないわ!』
『……ならその頬に流れてるのはなに?』
彼女に僕は彼女の手を頬にあてた……。
『これ……は……』
そして気づいたんだ。
『な……みだ……?』
『……そうだよ……』
『嘘よ、きゃぁぁぁあーーーーーっ!いやぁぁぁああーーーっ!!』
彼女は頭を抱えて叫び始めた。
『……奈々ちゃん……』
[なにをしている、奈々……、早く、早く、彼を差し出すのだ……さぁ私に……]
低い男の声……まさか、平野啓介?
『っ!ふふ、お父様、やだ、私泣いていたの?ふふ大丈夫よ、これから彼と一緒に行くわ』
[奈々……、さぁ私の愛しいお人形さん]
『……こいつが、奈々ちゃんをここまで追いやったんだな……』
『あなたは私の愛しい人……さぁ来て、一緒に……ずっと暮らしましょう?』
『……っ!?……』
めまいがする……まさか、あの食事に……なに……か……。
『っふふ、』
パンパンと彼女が手をうつ……執事が近寄ってき……た……のか?
奥の部屋(研究室)
『……ん……うぅ?』
僕の体は、鎖で動けなくなっていた。
『起きたのか?……宮野竜志(みやのたつし)くん』
……ここは?この人は……?
『お父様……まぁ起きたのね』
『うむ……完璧だ』
『ふふ、よかった』
なんのこと……だ?
『……っ!!』
僕は意識がはっきりした、奈々ちゃんのお父さんが僕を……。
『まさかっ……うそ……だ……』
事実を知ろうとすると、眠くなる……そんな設計にされたらしい。
『おやすみなさい、これからはずっと一緒ね……私の愛しいお人形さん』
『…………奈々……ちゃん……』
『……ふふ、ふふふ、これで……これでよかったのよね?』
頬にこぼれたもの……もう、彼女は知っているのかもしれない。本当は……。
数十年がたった。
僕はある変な機械がついている玉座に座らせられていた。あの変な機械、それは機械の人形にされた僕にとって充電器のようなものだった。
彼女のお父さんは技術を彼女に、託して、数年前に亡くなった。……そして彼女は1人になった。
大広場
『ねぇ、竜志さん……、私、きっと幸せなのよね?……ふふ、愛してるわ……』
『……ウン、ナナチャン、ボクモアイシテルヨ』
僕はもう、なにも見えなかった。
なにも……。彼女のカナシゲな声だけが…… 彼女の声だけを聞くことしかもう僕には出来なかった。
救ってあげることさえ、僕にはもう……。
ギギーーー……
『……ッー……ッー』
『どうしたの?』
『……ゴメンネ……ナナ……ちゃん』
終
《登場人物の年齢と性別》
宮野竜志(16才)(男)
平野奈々(16才)(女)
平野啓介(42才)(男)
浅野舞(通称マイ)(21才)(女)
北野雪奈(通称セツナ)(21才)(女)
松野雛乃(通称ヒナノ)(21才)(女)
山本 栄伸(通称一組の運動マン)(16)(男)
執事(男)(24才)
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