「……Sランク任務?」
遥が掲示板の前で眉をひそめた。
そこにはこう書かれていた。
『学園外れの古井戸にて、霊気異常発生。原因調査および鎮圧せよ。
危険度:Sランク。任務対象:夜道遥・赤花梨亜。』
「……俺と、梨亜だけか」
「仕方ないよ。Sランクの任務だから、簡単には頼めないんだって。」
横で梨亜が静かに言った。その表情は、少しだけ緊張していた。
「えー! 俺も行きたい!!!」
奏太が大きな声で割り込んだ。
「だーめ。奏太は翠珠とルゥとお留守番してて。」
梨亜が笑って言い、翠珠(ワォーン!)とルゥ(コケッ!)がそれぞれ力強く鳴く。
「いやいやいや、なんで俺 babysitter なの!?」
「頼んだぞ、翠珠、ルゥ。」
遥が微かに笑う。
「まってーー!!」
叫ぶ奏太を置いて、二人は森へと向かった。
森の奥深く、古井戸の前。
そこは異様な霊気で満ちていた。
「これは……普通の霊じゃないな」
遥が刀に霊力を纏わせる。
満月のような静かで青白い光が刀身を包む。
「来るよ」
梨亜は桜色の霊力を杖に宿し、構えた。
――ガアアアアアア!!
歪んだ霊たちが、次々と井戸から這い出してきた。
「はぁっ!」
遥の一閃が霊を裂き、梨亜の光弾が遠距離から援護する。
連携は次第に息が合っていき、互いの隙を自然に埋めていった。
だが、その中に異質な一体がいた。
「……中の下どころじゃない。これは、上……いや、それ以上かも」
その霊は灼けるような白い霊力をまとい、まるで太陽のような輝きを放っていた。
「……“光”の力……でも俺のとは違う」
「正反対……昼と夜、みたいな……」
2人は力を合わせ、全力でその霊を斬り裂いた。
――そして、残ったのは灼ける白い羽根。
触れれば熱を帯び、昼間のようなまぶしさを残して消えていった。
「太陽……?」
遥がその場に立ち尽くした。
そのころ奏太は――。
「うわあぁあ翠珠やめろ!そのプリン返せ!」
「ワォーン!(むしゃむしゃ)」
「コケッ!(さらに横取り)」
「お前ら……俺の味方じゃないのか……!」
わちゃわちゃと騒ぎながらも、ふと空を見上げる。
「……2人、ちゃんと帰ってこいよ」
任務を終えて歩く遥と梨亜。
森の静けさが、さっきまでの激しい戦いが幻だったかのように、静かに包み込む。
「なぁ、今のやつ……」
「どう考えても、おかしいよね」
遥が口を開く。
「……うん。最近、森の霊……何か、変わってきてる気がする。」
梨亜が少しだけ不安そうに空を見上げた。
「……おかしいよ、何かが」
遥も、静かに夜空を見つめる。
(――アイツ……奏太、大丈夫か?)
胸の奥で、不安が静かにざわめいた――。