テラーノベル
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甘辛緑
11
#女主人公
田中葵
27
#枢軸国
榊🌿
70
ふと周囲を見渡すと、一段と派手な看板の射的屋台が目に入った。
棚にはカラフルな景品や、大きなぬいぐるみが所狭しと並んでいる。
「尊さん尊さんっ! まだ花火まで時間ありますよね? 今度はあれやりませんか?」
「射的か? ……お前、また惨敗するぞ」
「やってみなきゃ分からないですよ! ほらっ、行きましょ!」
俺たちは吸い寄せられるように射的屋台へと歩みを進めた。
「結構、品揃ってるな」
尊さんの言葉に頷きながらも、内心では(今度こそいいところを見せなきゃ)と気合が入る。
金魚すくいでの不甲斐なさを挽回したい。
「せっかくだし、勝負しません? 先にあの、一番上にいるクマのぬいぐるみ落とした方が勝ち、とか!」
我ながら無謀な、しかし大胆な提案。
尊さんは少し意外そうに目を細めて笑った。
「ふっ……面白い。いいぞ、受けて立つ」
「やった! 今度こそ、絶対負けませんからね!」
互いに代金を払い、コルク銃を手に取る。
弾は3発。
俺は的の中でも一番存在感のある、大きなクマのぬいぐるみを狙った。
――パンッ!
1つ目は、かすりもせず外れ。
――パンッ!
2つ目は惜しくも掠めるが、ビクともしない。
そして最後の3発目。
全神経を指先に込め、引き金を引く。
銃声と共に、コルクがクマの頭部に命中した。
……しかし、クマは少し横にズレただけで、どっしりと台に居座っている。
(うそ……あれ、接着剤でついてたりする!?)
ぬいぐるみというより、まるで鉄の壁だ。
絶望する俺の横で、尊さんが静かに銃を構えた。
狙いを定め、一呼吸置く。そして……
パンッ、パンッ、パンッ!!
流れるような三連射。
すべての弾が同じポイントを正確に叩き、三発目が着弾した瞬間、あんなに微動だにしなかったクマが、ふわりと宙を舞って台から転げ落ちた。
「……え」
信じられない光景だった。
あまりの鮮やかさに、周囲からも「おおっ」と歓声が上がる。
射的屋のおじさんが「兄ちゃん、プロか?」なんて笑いながら、落ちたクマを拾って尊さんに手渡した。
尊さんは少し得意げな表情で銃を返却すると、景品を抱え
俺の方に向いてこれ以上ないほどの「ドヤ顔」を決めた。
「俺の完勝だな」
「うぐっ…悔しい……っ」
負けたのは悔しいけれど、何をやらせても完璧にこなしてしまう尊さんの立ち姿が、やっぱりどうしようもなく格好良くて。
「てか、このクマ……改めて見ると、色が独特だよな」
「たしかに、ちょっと不思議な紫ですね。ふふっ、でも、部屋に置いて一緒に寝たら、案外愛着も湧いてきそうですよ?」
「……一緒に寝るってな……まあいい。そろそろ花火の時間だし行くか」
「行くってことは、もう場所決まってるんですか?」
「ああ。少し歩くが、ちょうどいい穴場スポットがあってな」
穴場という響きに、俺のテンションは最高潮に達した。
が、歩き出そうとした瞬間、ふと右手の違和感に気づいた。
(あれ……?)
右手を握りしめる感触がない。
そして、左手に持っていたはずの、金魚の袋の重みも消えていた。
「たっ、尊さん……っ!」
「どうした、忘れ物か?」
「えっと……金魚が、ないんです……! もしかしたら、さっきの射的屋の台に、置いたまま忘れちゃったのかも……!」
「……落ち着け。まだ花火まで時間は少しある。一旦戻って確認してみるか」
「は、はい……! すみません……!」
◆◇◆◇
必死の思いで、人混みを掻き分けさっきの射的屋に戻ってきた。
俺と尊さんは手分けして、屋台の周囲の地面や、景品の台の影を隅々まで確認する。
けれど、どこにもあの透明な袋は見当たらない。
「あの、すみません。さっきここで射的やってた者なんですけど……金魚の袋を台に置いてませんでしたか?」
俺が店主のおじさんに食い下がると、おじさんは「ああ!」と思い出したように声を上げた。
「金魚すくいのか! それなら、さっきお前さんらが去った後に気づいてな。回収しようとしたんだが……ちょうど通りかかった金髪の男が『俺の連れのだから』って言って持って行っちまったぞ」
「え、そうなんですか? その人、どっちの方へ行ったか分かりますか……?」
「いやぁ、人混みに消えてったから、そこまではわかんねぇなぁ」
そう言っておじさんは、気の毒そうに首を傾げた。
(うう……俺が……。俺が浮かれて、ちゃんと持ってなかったから、盗まれちゃったのかな…連れとか普通に嘘だし…それとも俺の金魚じゃなくて他の子の金魚を持って帰っただけか…)
せっかく尊さんが俺にくれたものだったのに。
自責の念で胸が締め付けられる。
射的屋から少し離れ、尊さんに事情を説明すると、彼は俺の沈んだ表情を見て取ったのか
「そう落ち込むな」
と、励ますように力強く肩を叩いてくれた。
「……はい。まあ、確かに……これだけの激しい人混みですし、どこかに落として踏まれて、金魚が死んじゃったっていう最悪の結果じゃなかっただけ、マシかもしれません。誰かが保護してくれたんだって、思うようにします……」
「ああ、そうだな。おっさんもああ言ってたことだしな、不幸中の幸いってやつだ。……ほら、顔を上げろ」
尊さんの言葉に救われ、少しだけ前を向こうとした、その時だった。
「ねえねえ~、キミが必死に探してんのって……これのことだよね~??」
背後から、ねっとりとした、耳障りな声が響いた。
振り返ると、そこにはラフな格好をした派手な金髪の男が立っていた。
その男の長く伸ばした人差し指には、間違いなく俺が探していた、3匹の金魚が入ったあの袋がぶら下がっている。
「え……? あ! それ、俺のです!」
安堵のあまり、俺は思わず声を上げた。
男はニヤリと、唇の端を吊り上げて笑う。
そして、指にかけた金魚袋を、挑発するようにクルクルと目の前で回しながら言った。
「よかったよかった~。持ち主困ってるかな~って思って、こうして探してあげてたんだよね~」
(よかった……親切な人が拾ってくれてたんだ)
俺は胸を撫で下ろし、すぐさま頭を下げてお礼を言った。
「ちょうど探してたんです。わざわざ探してくださって、本当にありがとうございます!」
そうして、差し出された金魚袋を受け取ろうとした、その瞬間。
「……ま、返すとは一言も言ってないけどね?」
男の目が、蛇のように冷たく光った。
次の瞬間、男は持っていた金魚袋の紐を、迷うことなくパッと緩めたかと思うと───。
シュワッ……!
袋を無造作に逆さまにした。
中の水が、3匹の金魚と共に地面へ叩きつけられる。
「え……?」
目の前で起きた出来事が、すぐには理解できなかった。
バチャリと湿った音がして、アスファルトの上に水が広がる。
そこには、さっきまで優雅に泳いでいた金魚たちが、泥にまみれてピチピチと必死に跳ねていた。
小さな命が、土の上で苦しげに踠いている。
頭の中が真っ白になる。
視界が歪み、指先が痺れるように震えた。
周囲の喧騒が遠のき、時間が止まったような錯覚に陥る。
「な……っ……何、してるんですか……っ!?」
「うわ~っ、ごめんごめん! 手が滑っちゃってさ~?」
男はヘラヘラと笑いながら、微塵も申し訳なさそうにない声で謝罪する。
「第一さぁ? 金魚すくいの金魚なんて、どうせすぐ死ぬんだよ。わかる? ゴミを掃除してあげただけだって」
言葉にならない激しい怒りが、胃の底から熱く沸き上がる。
土の上で泥を吸い、弱っていく小さな命が目に入る。
反射的に、助けなきゃ、と金魚たちに手を伸ばした。
「痛っ……!!」
しかし、男はそのタイミングを計っていたかのように、俺の手の甲を、履いていたサンダルで思い切り踏み潰した。
「ははっ! こんな稚魚の世話なんかして、一体何が楽しいの? ……あっ! もしかして、調理して食う気だった?! それならごめんねぇ!!」
男は完全にこの状況を、俺の絶望を楽しんでいた。
下卑た笑い声が耳に刺さる。
そして、男は俺の隣に立つ人物を見据えて、さらに口角を上げた。
「ねえ……尊くん。…今、どんな気持ち? ……あはっ」
(……尊くん? この人……尊さんの、知り合い、なの?)
混乱と痛みが混ざり合う中、ふと横の尊さんを見上げると、彼は石像のように動かず、ただ一点を見つめていた。
すぐに俺が手を引っ込めると、尊さんは俺の肩を強く抱き寄せ
俺の体を引き寄せるようにして耳元で低く、重い声で囁いた。
「恋……悪いが、ここから会場の外まで走れるか」
その一言には、男への怒りではなく、何か得体の知れない「焦り」が色濃く感じられた。
「大、丈夫ですけど……尊さん……声、震えてませんか……?」
「……問題ない。だが、ここにいたら……余計な騒ぎを起こすことになる」
「は、はい。わかりました……っ」
俺は痛む手を抱え、尊さんの尋常ではない様子に、ただならぬ恐怖を感じながら頷いた。
夏の夜の空気は、一瞬にして凍りつくような緊張感に支配されていた。
コメント
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あの人、恋くんに何しとるん(#゚Д゚)