コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……っ?」
珍しいというか、何それ? と一瞬耳を疑ってしまった。でも、いっていることはすぐに理解できたし、何を言われたか、頭をフル回転させればどうにか自分の中に落とし込むこともできた。ただ、ブライトがそんなことを言うなんて――という驚きは未だに隠せないでいる。
(アルベドに恋愛感情を持っていないか?それって、別に、アルベドと一緒にいるところをみられているわけじゃないのに?ってこと?え?)
スッキリさせたはずの頭が、何故がごちゃごちゃと絡まってきて、ブライトに答えを求めようと思った。そもそもブライトが人のことを気にする性格だったのか。いや、殺気の憶測が当たっていれば、彼は前の記憶を……
取り敢えず、取り乱したら負けだと、深呼吸をする。そして、相手に動揺していることがバレてはダメだと、笑顔を取り繕う。これも、上手く出来るようになったと、嘘をつくことが平気となってきた自分が少し怖かった。
「なんで、ブライトはそう思ったの?というか、愛のない婚約とか、よくあるじゃん。多分……貴族の間では、それは求められていないんじゃないかなって」
「それは……仰るとおりなのですが、自分の中でしっくりこないことがあって」
「まず、私とアルベドが一緒にいる所ってそこまでみたことないんじゃない?なのに、決めつけるのはよくないかなあって」
「……そう、ですね」
と、それだけでもブライトは言葉が詰まっていた。
やはり確信が持てないようで、いってみたはいいものの、彼はそこで迷っているようだった。これを言い切るべきかと。
(しっくりこないね……)
まあ、ブライトの中で、私が言ったことは間違っていなくて、でもそれを抜きにして、しっくりこないという直感というか、彼の中の考えで発言したところは大きいと思う。そう思ってくれているというだけでも断然。
「で、どこがしっくりこないの?」
「どこが……そうですね。恋愛感情がないというのは、確かにいいすぎたかも知れません。僕が言いたいのは――ステラ様の隣は、レイ卿じゃないような気がするんです」
「私の隣?」
「はい……言葉にするのが難しいので、申し訳ないのですが。ステラ様が、記憶の無い彼女に重なるといいますか。彼女の隣は、レイ卿ではない……一緒にいることはあっても、恋愛的な意味では……恋愛的な、というのも……」
と、ブライトはそこまで言うと、完全に分からなくなってしまったように頭を抱えた。額に手を当てて、唸るように首を横に振る。何があっていて、間違っているのか。彼自身も分からなくなってしまっていたみたいだ。
彼が可哀相に見えた。きっと、本来の記憶と、偽物の記憶の間で戦っているんだと思った。靄がかかっている感じで、はっきりと思い出せないのだろう。そこから救い出すことはできない。彼が思い出さなければ意味がないのだから。
(耐えて……その先に――)
不確定だ。彼の好感度はチカチカと輝いてはいるもののそこから動きはないわけで。彼の南京錠を外すことはできなかった。思い出す鍵に離れるけれど、その鍵を受け取るかどうかはまた別問題だと、そう思い知らされた。
「自分自身も困惑していて、言葉にできずにすみません。自分でいいだしておいて何だという話ですが」
「大丈夫。ブライトも色々考えてくれたんだよね。まあ、アルベドの婚約は……そう」
「ステラ様」
「何?」
まだ何かあると、ブライトは口を開いたが、先ほどと同じようになってしまい、いえ、と訂正した。惑わされ、苦しんでいる彼に対し、私が出来ることは何だろうと考えるが、すぐにその答えが出てくることはなかった。ここにアルベドがいたら、何か助言をしてくれたのだろうか。それとも、離れろと怒ったのだろうか。
(というか、アルベドが帰ってこないんだけど……)
アルベドとあえば何か変わるかも、と思ったのだが、肝心の彼はいなくて話も詰まってしまった。このままブライトを拘束するわけにもいかず、どうしたものかと私は悩む。
私もどうにかして、リースに近付きたいし、ここはリースの話を聞くべきか、エトワール・ヴィアラッテアの話を聞くべきか。方法や考えは色々あるけれど、それを実践して良いものか分からない。
「ステラ様は、何か」
「何かって?ああ、ブライトに聞きたいことがあるって事?え、顔に出てた。恥ずかしいな」
「僕ばかり離して、それも、こんな内容もないような話でしたし。話題を変えましょう」
「えっとそれはつまり、私ともう少し話していたいってこと?」
「え?」
「えって」
ブライトは無意識だったようで、また彼は困惑の表情を浮べる。このやりとりを繰り返さなければならないのは正直きついなと思った。こうも、要領を得ない話をずっと続けていたら、さすがの私も疲れるというか。
(でも、好感度……上がったし、この調子でいけばいいのかな……?)
上がりにくいと思っていた好感度も、思った以上に上がって、12%を刻んでいるし、一緒にいればいるほど上がるというのなら、それにこしたことはないかな、とも思う。
「話題か……私面白い話題ないかも」
「す、すみません、いきなり迷惑でしたよね」
「迷惑じゃないけど……あ、その、ブライトって最近聖女様とどんな感じなの?」
「聖女様と……ですか。相変わらずです。僕はあの方の魔法の師として呼ばれましたが、全く役に立ててなくて。凄いですよね。何も教えなくても、全て把握しているようで。まるで人生二周目みたいな……そんな感覚がして。不思議ですよね」
「聖女様のこと好きじゃないの?」
「恋愛的な意味ででしょうか?それは、考えたこと……僕なんかが、聖女様と釣り合うわけないですよ。それに、皇太子殿下との仲が噂されているのに、僕なんかが」
「そう……」
やっぱりそうなんだ。と、内心思いつつも、それでも、ブライトから諦められないな、見たいなものを感じてしまい、彼はエトワール・ヴィアラッテアに心を囚われているんだなと思った。彼のアメジストの瞳が陰っており、前の世界では見せなかった執着の片鱗が垣間見えた。彼の中にそんな感情があるのか否かは知らないが、それでも、それがブライトの本心ではない気がして、植え付けられた感情である、と私はそう捉えた。
エトワール・ヴィアラッテアの精神攻撃は、どれだけ根強いのか。それが分からなければ、うかつに浄化することはできないだろう。というよりも、聖女の身体に再び転生しながら、その力を全く仕えていない私自身にも問題があるのではないかと思った。もっと、自分の力を自覚して、それを自覚的に使えるようにならないと。今のままじゃダメなのは、何も変わっていない。
「ブライトは、聖女様のことが好きなだね」
「……、そう、なるんですかね」
「自信無いの?」
「はい。なんだか、違う気がして。でも、その気持ちを疑うこと自体許されない行為なのではないかと思ってしまっていて。何だか、情けないところ、弱いところばかりみせてしまいますね。ステラ様には」
「ううん。そういう弱音を吐ける人がいる方がいいんじゃないかな。私でよければ話きくからいつでも――むっ」
「貴方は!」
良い感じに締めくくれそうだったとき、後ろから誰かに抱き付かれるような形で、口を抓まれた。むっと、両端から頬を捕まれたせいか、絶対に変なふうになっている。不細工だ。そう思いながら、誰がこんなことするんだ、まさか、アルベドじゃないか、と思い、その魔力を辿れば、もの凄く感じたくないものを感じてしまった。
「お話中すまねえっすけど。先客がいるんで」
「……べ、ベル!?」
振返ればそこには、悪魔の笑みをしたベルが立っていた。