「魔法と言っても沢山の種類があるのね…」
カレンから魔法講座を受けたミルキィは、その種類の多さに頭がパンクしそうになっていた。
「うん。沢山あってワクワクするよね!でも、全部は時間がないから教えられないわ。ミルキィちゃんに教えるのは『魔法』ね。これを覚えたら応用で『魔石魔法』もすぐに使えるようになるよ」
他にも『魔導具』を使った魔法もあるが、道具と知識が複雑な為、今回は見送ることにした。
「魔石魔法は魔石の魔力と自身の魔力を使うものよね?魔法は自身の魔力のみ。……なんだか自信が無くなってきたわ」
一度に大量の情報を聞いたミルキィは、自信を無くす 。
カレンの悪い所はまさにそれであった。ようは魔法オタクなのである。
誰でも、いきなり新しい情報を自身の処理能力以上にいくつも与えられると、パニックになってしまう。
ミルキィは現在その状況であるが、魔法オタクのカレンが気付くことはない。
「はじめに教えるのは『誰でも魔法は使えるけど、出力が違う』という事と、『使う人の習熟度で自由度が変わってくる』という事ね」
「つまり…?」
「よく物語に出てくる火の玉のような魔法は、大魔導士とか賢者と言われている一部の人達だけが使える魔法という事よ」
レビンの愛読書である冒険録には、巨大な魔物に火の玉を放つ描写が描かれていたが、それは限られた人達だけが使う事を許された魔法のようだ。
「じゃあさっきのは?」
ミルキィが聞いたのは、レイラが先程見せてくれた、岩を抉った魔法の事だ。
「あれこそが誰でも使える魔法よ。あれは私の魔力を使って作った、魔力の塊を私の魔力で撃ち出したものなの。
話は戻るけど、私達でも火の玉を使う方法はあるわ。それが魔導具魔法といわれるものよ。
でも、これは訓練も才能もお金も必要な事だから、ここでは教えられないの。
興味があれば魔導書を読んでみる事ね」
「そうなのね。わかったわ!私にレイラさんがさっき使っていた魔法を教えてください!」
「ええ!もちろんよ!」
ミルキィは火の玉を撃ちたいわけではない。レビンの役に立ちたいのだ。
その為、先程の岩を抉る威力が出せる魔法を自分が使えるのであれば、今はそれで十分役に立てると思えた。
レイラはレイラで自身の持つ知識を披露する場所が出来たので、テンションは高い。
「今日はこれくらいにしましょう」
何やら集中しているミルキィに、レイラが声を掛けた。
「まだやれるわ!」
「ええ。でもそうじゃないの。ほら。向こうを見て」
レイラが指し示した方を見ると……
「レビンッ!!」
「ただいま。ミルキィ、どうだった?やっていけそう?」
そこにいたのはレビン達であった。
レビンもミルキィが振り向いたタイミングですぐに声をかけた。お互いに不安だったようだ。
「勿論よ!すぐには無理かもしれないけど、必ず出来る様になってみせるわ!」
(何だか凄く張り切っているなぁ…ここは応援だけしとこうっと)
「うん!もし頑張った結果出来なくても、ミルキィの糧になればそれで良いんだよ。もちろん出来ることは、これっぽっちも疑ってないけどね!」
そして、そこに割って入る不届き者がいた。
「ミルキィちゃん!?俺が帰ってきたよ!?」
「なんで疑問系なのよ…」
ミルキィに全く見向きもされていないアランだった。サリーはツッコミ役のようだ。
「サリーさんもおかえりなさい。レビンはどうだったかしら?」
「えっ!?この距離で無視!?」
「どうだったもなにも…この馬鹿とトレードして欲しいくらいだよ」
アランはさらに無視され、サリーにも捨てられた。頑張れアラン。負けるなアラン。
そして会話に入ってこないダリーとカレンはいちゃついていた。
「とにかくここから出よう。話は宿に帰ってからね」
「はーい!」
サリーの提案にレビンは元気よく応え、各々は頷いた。
「ミルキィちゃん…?俺の事見えてない可能性がある?」
約一名は上の空であった。
宿に戻った一行は食堂で夕食を一緒にとっていた。
テーブルはカーラが移動してもいいと言ったので、手分けして椅子とテーブルを運んだ。
「カーラちゃんもここで食べたらいいぞ!なぁに。夕飯くらいご馳走させてくれ!」
アランは紳士を発揮していたが、遂にはカーラにも無視されることに。
「………」
「さっ。アホな人は放っておいて、今日の報告をはじめようね」
馬鹿からアホにグレードアップ?したアランを置いて、サリーが話を纏めていった。
「へぇ。ミルキィちゃんも凄いんだぁ…何なのかな…?この二人は…」
「そうなのよ。教え甲斐があるなんてものじゃないわ!私でも一時間もしたらグロッキーになる訓練を、二時間も続けてケロッとしてるのよ。
このまま行くと一月足らずでモノになりそうね…」
教え子が優秀だと師としては嬉しいはずだが、レイラは魔法談義がしたいのであって、先生には向いていないようだ。
「レイラにもレビンの活躍を見せたかったな。弓も索敵も身体能力も凄かったぞ」
そうレイラに告げたのはダリーだった。
「そうなのね。じゃあレビンくんだけでサリーとダリーの二人分ね。良かったわ。これで気兼ねなくミルキィちゃんに時間が割けるわ」
「それについてはカレンの言った通りだよ。軽装だから見てて恐いけど、あの動きならその辺の魔物の攻撃は当たらないもん。
そっちの目処がつくまでに、こっちは魔石と資金集めが出来そうだよ」
ミルキィとレビンというあまり関わりがなかった年下がいたので、これまでサリーは言葉遣いに気を付けていたが、二人の規格外さに見栄を張るのをやめたようだ。
「訓練ってどんな事をしたの?」
レビンが気になってミルキィに聞くが、それに答えたのはカレンだった。
「魔力操作よ。魔力はみんなにあるモノなんだけど、それを操作できるかどうかで魔法が使える人と使えない人に別れるのよ。
そして、その魔力操作は訓練すれば上達するの。剣や弓と同じでその訓練に終わりはないわね。とりあえずは、魔法と言われている昼前に私が使ったモノを使えるようになるまで、つきっきりで教える予定よ」
ミルキィに行った座学はもう少し詳しいものだ。
掻い摘んで説明すると
・魔力の多さは持って生まれたモノとレベルに左右される。訓練で増えることはない。
・魔力操作により魔力の扱いを覚える。
・魔力操作の習熟度に応じ、同じ威力の魔法でも燃費が違い、同じ魔力量であっても威力が違う。
・魔力操作がある一定のレベル(ここでは習熟度)を超えると、周りの魔力を把握する事が出来る。その距離を伸ばして行くと魔力探索のような事も出来る。
などだ。
「そ、そうなんですね…」
食い気味に話し出したレイラに終始押されていたレビンだった。
「カーラちゃんまで無視かよ…」
頑張れアラン。挫けるなアラン。見た目はいいのに…アラン。
そして翌日から本格的に別行動が始まる。
レベル
レビン:7(67)
ミルキィ:60