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数日が経ち、和樹が大学に行っている間、百合が部屋で映画を見ていると、部屋のドアにノックがあった
「誰?」
和樹が帰って来たのかと思ったら、入って来たのは隆二だった
「出て行って!」
百合は立ちあがり、 隆二を見るなり全身を震わせて叫んだ、隆二はその声を無視して後ろ手にドアを閉め、 険しい目で百合を見すえた
「そうか・・・あの辺では「百合」を「リーファン」と呼ぶものな・・・」
「聞こえなかったの?ここは和樹の部屋よ、出ていってよ!」
「その前に俺の家だ」
百合の唇がこわばってそれしか言えなかった
「君に話がある」
「聞きたくないわ!」
彼女がくるりと背を向けた
「私がここにいる間、近づかないで!さもないと命の保証はできないわよ!」
「聞いてくれ!リーファン!」
「私は百合よ!」
「結婚はしてたけどしてないも同然だったんだ、 俺は息子や娘にあれ以上、辛い思いをせたくなかった・・・何年も寝たきりの嫁を捨てられなかった・・・だから離婚できなかったんだ、でも君に会って・・・」
「私のことなんか言わないで!」
百合はこぶしを握りしめて憤然と向きなおった
「昔の事よ!その話はしたくないわ!!」
「きみに恋をしてしまったんだっっ!ずっと忘れられなかった!」
隆二のまなざしは、百合を突きさすほど真剣だった
「吐き気がするわっ」
百合はおぼつかない足どりで、部屋の隅にある洗面台に歩みより、自分を抱きしめて外を向いた
「出ていってください!」
茶色の瞳は氷のような冷たい光を放っている
「話しあうことなんかなにもありません・・・あなたは私の婚約者のお父様です」
「俺にはある!」
隆二はしわがれた声で言った
「リーファン!俺と結婚してくれ」
「正気なの?それにリーファンなんて呼ばないで!私は百合よ!」
隆二の頬に百合の平手打ちが飛んだ、そうとう強烈だったので、彼の肉の落ちた頬に白く手の跡が浮かび、 やがて赤く変わった
「出てって!」
百合はくいしばった歯のあいだから、低くつぶやいたが隆二にはまったくこたえていなかった
「考えてみてくれ!状況が違っていたら、あの時に俺は君と結婚していたはずだ、俺がそれを望んでたのはわかってただろう? 気が狂いそうなほど、君が好きだった、でも、子供を犠牲にすることはできなかった、だからあの日、出ていったんだ」
百合は下唇をきつく噛んだ
「私はもう、あの時の馬鹿な小娘じゃないわ、あなたは嘘つきの詐欺師よっ!最初から休暇を楽しもうって魂胆だったのよ、私は遊ぶには絶好のカモだったという訳ね」
「それは違うっっ!君のお父さんにもう関わらないでくれと言われたんだ、俺は・・・言う事を聞くしかなかった、なぜならあの時の俺は君に結婚指輪をあげられなかった、でも今は違う!!」
隆二は背後から彼女を抱きしめた
「百合!ずっと会いたかった!」
「はっ・・・離して!私にはもう、どうでもいいことだわ、私は和樹と結婚するわ」
百合が隆二の腕から逃れようと必死で身をよじる
「アイツとはいつからなんだ!」
彼の顔が怒りの色に染まり・・・茶色の瞳に苦痛が浮かぶのを、百合は冷ややかに眺めた
「三カ月前から深い仲よ」
「よくそんなにすぐ夢中になれるな!」
百合の声が大きくなる
「すぐだなんて!私があなたを忘れるのにどれほど苦労したか!!」
「俺は今でも忘れていない!」
隆二から離れようと、もがけばもがくほど百合は彼に羽交い絞めにされる
「俺達はあんなに相性が良かったじゃないか!ずっと忘れられなかった!」
「私!あなたの子供をおろしたの!」
隆二が真っ青になって固まった
「あなたはご自分の子供を守るために、私を捨てたと言ったけど、私はあなたの子供を殺したわ!」
「え?・・・」
あまりのショックに隆二の力が一瞬抜けた、ドンッと百合が隆二の胸を突き飛ばした
「出て行って、隆二・・・!あなたとはもう終わったのよ」
百合は静かに涙を流して隆二を睨んだ