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「なぁ今叩いた?」


が私の彼氏の口癖である。


「叩いてないよ」


そう返す私もこれが口癖になってきている。


このやり取りをもう30回以上はしている。


家にいる時や、外出している時、どこにいてもそれは突然起こる。


突然体を震わしてびっくりしたような顔をして私の事を見てくる。


そして「なぁ今叩いた?」と聞いてくる。


毎回私は叩いてないし触れてすらない。


それどころか離れている時もある。


それなのに彼氏は誰かからか叩かれたと言ってくる。


このやり取りが起こるようになったのは、かれこれもう数週間前の事だ。


酔っ払った彼氏は、ふざけて心霊スポットに行こうと私を半ば強引に車に乗せて心霊スポットに連れて行った。


私はそういう”モノ”が視える為、なるべくそういう話題やそういう場所に近づきたくないのだが


戻ろうと彼氏に何度も言っている間にお目当ての場所に着いたのか車が止まってしまった。


着いた場所が人気の無い海岸だった。


彼氏に降りるぞ!と何度もしつこく言われたので仕方なく渋々車を降りることに。


今すぐにでも帰りたいのに。


車から降りた瞬間、強い風がゴォォ…!と吹き抜けていった。


思わずよろけそうになるほど強い風だ。


咄嗟に掴まったものを見ると、そこには看板が立っていた。


近くのボロボロに朽ち果てた、木でできている看板に「燾海(てうみ)海岸」と消えかかった文字でそう記されていた。


難しい漢字だな…などと思いながら辺りを見回す。


見晴らしの良い海岸だが左には大きめの崖が見えて、高さは…大雑把に200mぐらいだろうか。


岩がゴツゴツと突き出ているような崖。


あそこから落ちたら浅瀬の海に落下する事になる為助からないだろう。


そう思うとゾワッと鳥肌が立つ。


それにこの場所には…


「この場所な、女が落下して即死したんだとよ」


そう風に負けないように少し大きめの声で話し出す彼氏。


「………女が?」

「そう。友達とこの海を見に来たらしいんだけど、ほら、ここって結構風強いだろ?だから友達が女に話しかけようとしても遠くからじゃ風の音で聞こえねぇじゃん」


確かに、1m離れてるだけで風の轟音に掻き消され何も聞こえないほどだ。


「だから友達がその女の肩を叩いたらしいんだよ。トントンってな。」

「へぇ…」


彼氏が自分の肩を叩いて再現する。


なるほど、大体分かった。


だからか。


「その女、叩かれた瞬間びっくりして足滑らして崖から真っ逆さまよ。怖ぇもんよな。」

「そう…怖いね」


私たちが丁度今いるのが、その事件の場となった崖。


彼氏はテンションが上がって、奥へ奥へと進もうとしている。


「夏生、危ないから戻ってきて」


そう声を張って彼氏に言い放つ。


すると彼氏は呼び止めた数秒後に突然後ろを振り返った。


そしてキョトンとした顔をしながら妙な事を言い出した。


「なぁ、今叩いた?」

「私は叩いてないけど」

「え?嘘。なんか今肩叩かれたんだけど」


でしょうね。


「危ないってことなんじゃない。ほら、早く帰るよ」


慌てる彼氏を置いて先に車へと歩き出す。


標的が私に向かないように。


その日はそのまま家に帰った。


そのまま家に帰ったことを後悔した。


せめてお寺にでも寄れば良かったな。


失敗した、すぐに消えると思ってたから。


ずっとなんのこと言ってるのかって?


あの”女の人”の事だよ。


友達のせいで崖から落ちて死んだあの女の人。


その人、ずっと崖に突っ立ってるの。


落ちた時にひしゃげたであろう腕を振り上げ、彼氏の肩をずっと叩きながら。


ずっとずっとずっと、トントントントン。


何してんだろう?って思ってたら彼氏がこの場所について話し出して、それ聞いて納得したよね。


あぁ、だからこの人はずっと叩いてるんだって。


自分が落とされたことを今もずっと恨んで、別の人の肩を叩いてあわよくばその人も犠牲にしようって。


えぐい考えだよね。


もう場所は海岸でも崖でもないのに、ずっとその女の人彼氏の後ろにいるんだよね。


恨みが強いのか、結構強い力で叩いてる。


「いたっ…なぁ、今叩いた?」

「叩いてないよ」


私は知らないフリをする。


だって標的にはされたくないから。


彼氏には悪いけどね。笑


でもあの場所行ってからおかしいって、彼氏は何も思わないのかな。


あ、酔ってたから覚えてないんだ。


あーね。



トントン


トントントントントン



「なぁ今叩いた?」

「叩いてないよ」






『なぁ今叩いた?』END.

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