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#ワンナイトラブ
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静まり返ったフロア
サーバーの微かな駆動音だけが規則正しく響く、午前二時。
私は、京介と共に会議室の大型モニターに向かっていた。
昼間のあの地獄のような空気はどこへやら
今の私たちは「完璧なビジネスパートナー」として、かつてないほど濃密な時間を共有している。
「……ここをこう修正すれば、先方の損失は最小限に抑えられるはずです。いえ、むしろ今回の騒動を逆手に取り、プラスに転じさせることも可能かと」
「いい筋だ。広報としてのリカバリーに加え、営業側の過去の成功データも俺が紐付けておいた。これで明朝、ぐうの音も出ない論理で役員会を黙らせる」
並んでデスクに向かい、一つの画面を覗き込む。
この数時間、私たちは「社長と秘書」として、完璧な連携を見せていた。
彼の鋭い指摘に私が反射的に応え、私の提案を彼がさらに鋭利に研磨する。
仕事をしている時の彼は、冷徹極まりないが
世界中の誰よりも信頼できる、私の絶対的な主だった。
「……よし。これで、すべての修正と対策案が揃いましたね」
送信ボタンを最後の一押しで完了させ、私は深く背もたれに体を預けた。
安堵感と共に、張り詰めていた糸がプツリと切れたように強い疲労が襲ってくる。
私はシルバーフレームの眼鏡を外し、熱を持った目元を指で軽く押さえた。
そのとき───
「……志乃。眼鏡がないと、無防備すぎると言っただろう。何度言えばわかる」
いつの間にか、京介が至近距離にまで迫っていた。
彼は私の手から眼鏡を奪い取ると、無造作にデスクの上に置く。
視界がぼやけ、代わりに彼の体温と、高級な香水に混じった微かな熱気が濃密に立ち上った。
「……っ、京介。…ここは会社です。もし、誰かが見回りにでも来たら……」
「警備員も、掃除の人間も、明け方までこのフロアには通さないよう手配してある。…今は、この広い城に俺とお前、二人だけだ」
彼の手が私の椅子を強引に回転させ、無理やり彼の方を向かせた。
そのまま、資料が散乱した机の端に私の体を押し上げるようにして
彼がその長い脚の間に私を割り込ませる。
「っ、ひゃ……っ」
「昼間、全社員の前でお前を冷たく突き放すのがどれほど苦痛だったか、分かっているのか」
「え…」
「……その分、今はたっぷり返してもらう。秘書としての義務ではなく、俺の妻としての『義務』をな」
荒々しく、けれど心の奥底に触れるような深い慈しみを湛えた唇が、私の唇を力強く奪った。
オフィスの冷たく硬いデスクと、私の肌を焼くような彼の熱い掌。
キーボードを叩く音の代わりに、重なる吐息と、衣擦れの音が静寂の中に溶けていく。
「仕事、頑張りましたから…今日は、本当に、辛かったんです……だから、少しだけ……優しくしてください…」
「……言われなくともそうする」
誰にも見られることのない、真夜中の聖域。
私たちは、仕事という名の絆を、より深く
より逃れられない愛へと変えていくように、東の空が白み始めるまで互いを求め合った。