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「俺の一言が、日常組を落としていくの。」
鳥のさえずり、草木の揺れる音、靡く風。自然の音が聞こえる中、酷く静かな病室で、俺はぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。そんな俺の話を、ぺいんとは相槌を打ちながらも静かに聞いてくれた。
「ツッコんでも、自慢しても、感謝しても、謝罪しても…全部言うところが違って。」
コメントでよく言われることを、俺は正直に話した。
───本音を話すことは昔から嫌いだった。本音を話すと言うことは、嘘をつかないということ。じゃあもし、本音で話した言葉に批判の言葉がついたら?………それってさ、”嘘”っていう言葉の鎧が無いわけ。つまり、ダメージが防げない。小さなダメージが蓄積され続けて、鎧が無いからゼロダメージにすることができない。
だから、怖かったんだ。本音に批判がつくことが酷く痛いことだと分かっていたし、想像もしていたから。だから、旅行なんかでも”体調が悪い”なんて言い出せなかった。ほんと、たった一言が怖かったんだ。”体調が悪い”なんていう一言でみんなを心配させて、せっかくの旅行を俺の看病で台無しにして、旅行の直前に言えば、運転係の俺がいなくなれば旅行自体も無くなる。
…ひとつの言葉で、みんなの心配そうな顔を見るのがたまらなく嫌だったんだ。
「…立ち回りが下手くそだから、空気を読むのが苦手だから……もっとわかんなくて。」
そんな俺がいくら頑張ろうと、本音さえも言えないのだから”どの場面でどの言葉を言えば良いのか”なんて分かるはずもなかった。
───今だって、怖いよ。ぺいんとにどう思われてるか怖くて。呆れてるのか、怒ってるのか、疲れてるのか…。顔さえも素直に見れない俺は、酷く情けない。
「……だから、本音を言わなければ、嘘を言えば…立ち回りが下手でも誤魔化せるし、俺に対するダメージも、みんなに対するダメージも受けないから…だから!」
「じゃあやめろ、それ。」
え、と口に出して顔を上げれば、そこには心底怒った顔───なんかではなくて、酷く泣きそうな顔をしたぺいんとがいた。意味がわからず、おろおろとする俺に、ぺいんとは溢れてきそうな涙を拭いながらまた言葉にした。
「いいの。アンチの言葉を受け止めなくて。確かにアンチコメントは的確だよ。的確だからこそ、くそほど胸が痛ぇ。…でも、そんなのわかんないじゃん。」
顔を赤くしながらも笑った顔でそう言うぺいんとに、俺は胸がどきりと跳ねた。何だか、信じてみたくなった…のかもしれない。でも、わからない、って何だろうという疑問は頭の中でぐるぐると巡っていて。
「お前が立ち回り下手とかどうでもいいんだよ。アンチの言葉を気にするんじゃなくて、俺らの言葉を気にしろ。」
「つまりな」と言葉を続けて話すぺいんとに、俺は目が惹かれた。
酷く明るいな。そう思った。強い日差しに当てられ、朝特有の少しオレンジ付いた色は暖色系で、胸が暖かい。眩しいのに、目を惹きつけられる。
そんな彼は一呼吸おいて、大声で叫んだ。
「───俺たちの言葉を信じて!」
耳が痛くなるほど、すごくうるさい。うるさいのに、賑やかだ。…え?に、賑やかって……
「信じてー信じてー、信じて〜…」
ぺいんとの言葉を呼応し、まるでお風呂場にいるような声の反響を真似する女の人に似た声。微かに笑いが含まれるそれとは他に、もうひとつの低い笑い声が聞こえる。その二つの声に気づいたぺいんとは瞬時に扉の方向へ振り向き、顔を赤くして声を上げた。
「おぉい!!そこふざけるところじゃねぇから!?!?」
その磨かれたツッコミに大笑いして扉の向こうから出てきたのは、しにがみさんとクロノアさんだった。涙を浮かべ、2人ともなぜか顔を赤くしてそこに立っていた。服もなんだかシンプルで、オシャレをしてきたわけでもないらしい。
「な、なんでいるんすか…?」
驚きながらもそう声を出すと、みんなからの視線が自分に注がれる。みんなは顔を見合わせてから、クロノアさんから順番に話し始める。
「…ぺいんととトラゾーが心配だからね。」
くしゃっとした笑みを浮かべてそう言うクロノアさんには、どこか和むような雰囲気を持ち合わせていた。
「…でも、ごめん。気づいてあげられなくて。」
突然の謝罪に、俺はあたふたしながらも 「い、いやいやそんな!」と言葉を発した。
「…それに、俺が嘘をずっとついてたから…。」
少し自虐的な意味でふざけると、相手の空気が凍る。やばいことを言ってしまったのだろう。またこの空気を味わうことになるなんて思いもしなくて。心臓が酷く動悸するが、相手は泣きそうな顔になってその空気を破った。
「───いいんだよ、嘘ついてて。」
「……いい、んだ。」
ふと、クロノアさんの言葉を反芻させた。疑惑だとか、不安だとか…そういう気持ちじゃない。───安堵だ。酷く安心した。嘘をついても、大丈夫なんだって。
「でも、嘘ついたら、本当のこと教えてね。」
小指を差し出すクロノアさんに、俺は小指を絡めた。そうして後ろから歌が聞こえる。
「ゆーびきりげんまん。うそついたら針千本のーます。」
───ぺいんとだ。歌が上手い彼はわざとらしく下手に歌っている。とても酷い歌声だ。まるで小さな子供が歌っていて、意味も言葉遣いもわからないような子が歌っているみたいだ。それでも、胸があったかいのはどうしてだろう。……いや、作家である俺にそんな質問、ただの愚問だな。