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母校の大学のそばにあるイタリアンのお店が待ち合わせ場所だった。学生の頃はランチメニューを楽しむ程度だった四人も、大人になってからはコースメニューを予約して、ゆったりとした時間を過ごすようになっていた。
昴の服装選びに手間取り、待ち合わせの時間ちょうどに到着すると、すでに到着していた三人はお喋りに花を咲かせていた。
「あっ、七香ー! いつも一番乗りの七香が遅いなんて珍しいじゃない。何かあったの?」
早足で店に向かっていたため、呼吸が乱れ、額からは汗が吹き出していたが、なんとか息を整えながら笑顔を向ける。
「ごめーん! なかなかシャツの色が決まらなくてさー」
「シャツの色?」
思わず口が滑り、慌てて口を閉ざす。昴の話は誰にもしていないため、この動揺をどう誤魔化そうか考えたが、さらに墓穴を掘るような気がして、とりあえず苦笑いをしてはぐらかした。それから空いていた一番手前の席に座ると、横にあったカゴの中に荷物を置いた。
「もう飲み物って頼んだ?」
「いや、七香が来てからにしようって話してた」
「やっぱり一杯目はスパークリングワインにする?」
「あっ、私はこの後新幹線移動だから、ジンジャーエールでお願い」
羅南が真剣な顔でそう言うと、三人は納得したように口を開けた。
「えっ、もしかしてRainManの地方公演?」
「そう。明日のコンサートに参戦するため、前乗り。グッズ買わなきゃいけないしね」
以前意気揚々と新幹線に乗り込んだにも関わらず、車内で飲んだビールのせいで寝過ごしてしまい、大変な目にあったらしい。それがトラウマになり、今は前乗りを心がけているという。
「羅南の推し活は、一向に終わりが見えないよね」
「当たり前でしょ。こっちは人生かけて推してるからね」
「すごい覚悟だ」
「でもそれだけ全力を注げる何かがあるって、ちょっと羨ましいけどねぇ」
その時スタッフが注文を聞きにきたため、羅南以外はスパークリングワインを頼んだ。
「そう言う楓だって、涼太といまだに仲良しじゃない。ケンカとかするの?」
「あんまりないかなぁ。むしろ穏やかすぎるくらい」
楓が少し物足りなさそうに笑うと、翔子がニヤニヤしながら顔を覗き込む。
「あら、楓さんったら刺激をお求め?」
「そういうわけじゃないけど、変化は欲しいかなぁ」
「それって……」
「別れるとかではないよ。どちらかと言えば、結婚したいっていうか。でも涼太はまだそういう気持ちにはなれないみたいだし」
「仕事が忙しいと尚更ねぇ。男女の気持ちの差はなかなか埋められないっていうありがちな問題だわ。もう付き合って長いし、そろそろ同棲とかしちゃえば?」
「うーん、それも考えてるけど、どうせ一緒に住むなら……」
「あぁ、なるほど。二人くらいの交際期間になれば、同棲も今更感があるよね」
「だよね。だからまぁ涼太がその気になるまで気長に待つよ」
そんな三人の会話に七香が静かに耳を澄ませていると、隣に座っていた翔子が目を細めながら顔を覗き込んでいることに気付いた。
「それで?」
「ん? 何が?」
「とうとう彼氏が出来た?」
「えっ⁈ な、なんで……」
思わず声が裏返ってしまい、慌てて両手で口元を押さえた。すると正面に座っていた羅南が、七香のくすみブルーのサマーニットを指差す。
「今日の七香はサマーニット。シャツではないよね」
「……あっ、言い間違えちゃったかな?」
「しかも揉めるって、相手がいないと出来ないことだし」
「……ほ、ほら、電話で……」
「シャツの色だって、目の前にないとわからないものだし」
ぐうの音も出ないほどの言葉に襲われ、七香は口をギュッと結んでから、大きなため息をついた。
「なんか刑事ドラマの尋問を受けてるみたいだよー」
「だって私たち、細かいことが気になっちゃうタイプだしねぇ」
「で? やっぱり彼氏が出来たの?」
「……彼氏は出来てないよ。そんな簡単にトラウマは消えないし、気持ちだって変わらないもん」
「じゃあ何があったわけ?」
七香は三人からの視線を感じながら、視線を泳がせる。正直に言った方がいいのか、いや、言わなくてもいいに決まってる。でも言うまでしつこく聞いてきそうだしーー本音を言えば言いたくない。
大学生の時の昴の印象が最悪なのはわかっていたから。でも重要なのは今の気持ちであって、きちんと体の関係を断って友だちでいる選択をしたのだから、何もやましいことはないーー七香は意を決したように頷くと、下を向きながら口を開いた。
「実は、知り合いが隣の部屋に引っ越してきたの」
そう言うと、三人はキョトンとした顔で顔を見合わせる。しばらくアイコンタクトをしていたかと思うと、冷静な目つきで七香を見た。
「男だ」
「ち、ちがうよ⁈」
否定するものの、七香のことはお見通しだと言うように、三人での会話が進んでいく。
「この反応は男だね」
「大学関係? それ以外?」 私たちが知ってる人?」
「うーん……まぁ知ってる人」
「そうなの⁈ 知ってる人って言ったら結構限られるよね。えーっ、誰だろう」
「まさか……松倉とか?」
「ないない。そしたら七香、こんなに渋らないで愚痴るはずだもん」
「あぁ、そうか。愚痴らない男? いたっけ、そんな人」
気まずそうに窓の外を眺めていた七香は、つい癖で胸元のネックレスを指でいじる。それを見ていた三人の目が大きく見開かれた。
#片思い