今日からここで生活していくんだ。
私は初めての一人暮らしに胸を高鳴らせていた。新しい部屋に新しい家具。全て私だけの空間だ。
(頑張ってお母さんとお父さんを説得してよかった)
一人暮らしをするにあたって1番大変だったのは両親の説得だった。私は人見知りだし、内気な性格のため両親は私がうまくやっていけるかとても心配していた。しかし、最後には大学生になり1人で色々なことに挑戦してみたいという私のことを、強く応援してくれた。
(明日は大学の入学式だし早く寝なきゃ)
私は明日から始まる大学生活に期待と不安を感じながら眠りについた。
次の日、何事もなく入学式を終え、その次の日には猛烈なサークルの勧誘が行われていた。人見知りな私にとって、たくさんの人に声をかけられるサークル勧誘は苦でしかなかった。もう帰ろうと思っていたとき、声をかけられた。
「テニスサークルに興味ない?初心者大歓迎だよ!」
「すみません。興味ありません」
「そんなこと言わないでさ、新歓コンパだけでもいいからおいでよ。楽しいよ」
そう言ってその先輩は私にテニスサークルのチラシを渡してきた。正直全く興味はなかった。サークルに入る気はなかったし、運動も得意ではない。でも、
(ここに行けば、自分の内気な性格を変えられるかもしれない)
そんなことを思い、私はその日行われたテニスサークルの新歓コンパに足を運んだ。
しかし、行っただけで自分の性格が変わることは決してなく、人見知り発動で結局誰ともうまく話せなかった。
(そんなに簡単にうまくはいかないか)
そう思い、もう帰ろうかと帰り支度を進めていた時、隣の先輩が話しかけてきた。
「えーと、名前なんだっけ?」
「佐藤楓です」
「楓ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「はい。用事ができたので今日はこれでお暇しようかと」
用事などないがもうここにいるのも限界に近い。
「そんなこと言わないでさ、それなら俺と2人で抜けちゃおっか?」
(気持ち悪い)
しかし、急にこんなことを言われ、すぐに答えられる訳もなく私は黙ってしまった。
「何も言わないってことはOKってことでいいのかな?」
そんなことを言い出し、体まで触ってきたので私は泣きそうだった。そんな時、女の子が先輩に声をかけた。
「先輩、セクハラですよ」
(美人だな、先輩なのかな)
続けてその人は言った。
「そろそろやめないと困るのは先輩だと思いますけど」
気づけば、周りの人たちの視線が私たちに集まっていた。私の隣にいた先輩は青くなり、逃げるように他の席に移動していった。
「ありがとうございます。とても助かりました」
「いいえ。ていうか、タメ口で大丈夫だよ。あなた1年生でしょ?私もだから」
同級生だということに驚いた。
「災難だったね。あなた、名前は?」
「佐藤楓です」
「だから敬語じゃなくていいよ。私は中川栞。よろしくね、楓」
いきなりの呼び捨て。驚いたが、嫌な気はしなかった。
「よろしく、栞ちゃん」
少し恥ずかしかったが下の名前で呼び、タメ口で彼女に答えた。
(こんなに早く打ち解けられる人、初めてかもしれない)
テニスサークルには入らなかったが、その出来事をきっかけに私の栞ちゃんは仲良くなり、大学でも同じ時間を過ごすことが多くなった。
お互いのことも気軽に話せて、私の中で初めて彼女は親友という存在になった。
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