栞ちゃんと出会って1年が過ぎようとしていた。一緒にいると忘れてしまう時があるが、栞ちゃんはとても美人だ。この1年間告白されているところを何度も見かけた。今も同じ学部の子に呼び出されている。しかし、栞ちゃんから彼氏の話は1度も聞いたことはなく、見たこともない。
(美人なのに不思議だな)
そんなことを1人で考えていた時、栞ちゃんが戻ってきた。
「ごめん、楓。お昼一緒に食べようって言ってたのに遅れちゃって」
「大丈夫だよ、栞ちゃん。お昼食べに行こう」
私たちは学食へと移動した。
「告白、また断ったの?」
「うん、彼氏ほしいってあんまり思わないんだよね」
「美人なのにもったいないよ」
本当にそう感じた。彼女に憧れ、好意を抱いている人は大学内にも多い。そんな男の子たちがとても可哀想に思えてきた。
「なんで彼氏ほしいと思わないの?」
単純な興味からの質問だった。しかし、栞ちゃんは笑っただけで答えてはくれなかった。
お昼の時間から栞ちゃんは少し元気がないみたいだった。
(私の質問が地雷を踏んでしまったかもしれない)
とても、不安だった。もしかしたら、栞ちゃんに嫌われてしまったかもしれない。と。栞ちゃんとはその後1週間全く話せず、避けられてしまっていた。本当に嫌われたと落ち込んでいた時、栞ちゃんから連絡があった。指定された待ち合わせ場所に来てほしいと。
私は指定された場所に行った。栞ちゃんがいて、栞ちゃんは初めに私に謝罪した。
「1週間、避けてて本当にごめんなさい」
私はやっぱり避けられていたのだと悲しくなった。でもそれは私が変な質問をしたからだ。栞ちゃんは悪くない。
「私こそ変な質問してごめんなさい。困らせたよね?」
「ううん。その質問のことなんだけど、聞いてくれる?私のこと。嫌いになってしまうかもしれないけれど」
(嫌いになんてなるはずがない。だって私は栞ちゃんがどんな子かちゃんと知っているもの)
「ちゃんと聞くよ。嫌いにだってならない」
そう答えた。何を言われても怖くない。栞ちゃんが話し出した。
「私ね、女の人が好きなの。だから、彼氏はいらないし、おかしいって言われると思って黙ってたの。この間の質問の時もちゃんと言わなきゃって思ってたんだけど、怖くて」
驚いたが、確かにそう考えれば今まで男の子たちの告白を断ってきたことにも辻褄が合う。
「おかしいなんて思わないよ。私は栞ちゃんのこと否定したりなんてしないよ。黙ってて悪かったなんて思わないで」
「ありがとう、楓。そう言ってもらえて私も嬉しい」
その日栞はたくさんのことを私に話してくれた。好きな女の人のこと、その人と付き合っていること。まだ、知らなかった栞ちゃんの新しい一面を知れてとても嬉しかった。会ってみたいという話もしたが、いくら私が同性愛者に理解があったとしても、相手が恥ずかしがってしまうから。との理由で断られてしまった。会ってみたかったが、しつこく聞いて栞ちゃんに嫌われても嫌だったからそれ以上何も言えなかった。
その日から栞ちゃんはよく『好きな人』について話してくれるようになった。その人の話をしているときの栞ちゃんは輝いていて、幸せそうだった。
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