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  アイリス様の瞳が潤う。

 俺はそんなアイリス様からこぼれ落ちた一雫を顔から落ちる前に自分の右手で拭い「でも」と続ける。

 アイリス様の右頬に一度触れる。

 そして、雰囲気の違うひと言を投下する。

「アイリス様……愛しています」

「……え?」

 キョトンとした顔をする。

 あ、かわいい。やっぱ普通に伝えることは難しいらしい。

 してやったり、と思った後の方が伝えやすい。

 俺の表情を見たアイリス様は豆でっぽうをくらったあと、持ち直した。

「……ねぇクラウス」

「なんですか?」

「なんで普通に伝えてくれなかったの?」

 目が鋭い。確かに紛らわしかったよな。

「俺アイリス様にやられましたし」

「……何もしてないわよね?」

「いや、ギランさんの件忘れたんですか?」

「あ、あれは自業自得でしょう。貴方も笑ったじゃない!」

 一転、アイリス様は慌て出す。

 そのまま俺の頬を抓り顔を真っ赤にして怒りだす。

「もう、雰囲気最悪よ!ムードってもんわからないの?」

「いらい!いらいです」

 本当に痛いんだよ。アイリス様の頬抓り。爪が食い込むから痛み倍増。

 まぁ……確かに雰囲気は最悪だな。うん。

 本来の理想ならば膝枕から気持ちを伝えるってのがスタンスだろう。

 アイリス様はため息をこぼすと俺の頬を抓るのをやめ、呆れた表情をする。

「……デリカシーがないのね。私にも理想なシチュエーションくらいあるのよ。告白なんて人生に一度きりなのに……で、なんであんな言い回ししたのかしら?」

 アイリス様は弁解の余地を与えてくれるつもりらしい。

 言葉ミスるとまた頬を抓りそう。

 力入れる準備しているし。

 でも、美辞麗句は必要ない。そのままの気持ちを伝える。

「その方が、俺たちらしいでしょ?」

「……え?」

「今も昔も……俺たちは変わらぬ関係でいたい。そう言う意味を込めたかったんです」

 キョトンとし、目を丸くするアイリス様。かわいかった。

「……再会したての頃はぎこちなかった。互いに気持ちが変化し始めてからはすれ違いをしてしまった。……でも、この前二人でバカやって……腹抱えて笑い合って……やっぱりアイリス様と俺の関係はこうじゃないダメだと思った」

「……クラウス」

 俺とアイリス様は腐れ縁だと思う。

 幼少期は共に過ごしたけど、10歳からはほとんど関わらなくなった。

 でも、数年前からは手紙のやり取りも顔を合わせることは一切なくなった。

 でも、また再会を果たしバカをしまくった。

 その関係が俺は好きだ。

 そんなアイリス様だから俺は一緒にいたいと思った。

「アイリス様、俺は貴方がどうしようもないくらい好きです。変わらずこのまま親友兼夫婦の関係になってください」

「……ぶ…ふははは!何よ親友兼夫婦って!意味わからない!」

 我慢できなくなったアイリス様は吹き出す。

 それから三十秒は笑っていただろうか。

 アイリス様は左手で顎を右手で俺の視界を隠し話し始める。

「でも、いいわね。親友兼嫁って……。そういえばクラウス。この前私たちの関係は元に戻ったって言ったわよね?」

「え、言いましたけどそれが何か?」

「……そろそろ進んでもいいわよね?」

「一体何を言ってーー」

 空いていた窓から急に風が入り込みカーテンがパタパタと吹き暴れる。

 視界が塞がっていたせいでなにが起こっているかわからず戸惑ってしまう。

 少なくとも分かることは唇に温もりを感じること。

「……あ…あの」

 ゆっくりと視界が晴れるとアイリス様の顔が目の前に。呼吸が顔にかかるくらい間近なんだ。

 い、今あれだよな。キス……したんだよな。

 ま、まずは事実確認を。

「これからよろしくね。私の旦那様!」

「は…はい」

 アイリス様はしてやったり、とドヤ顔をしている。

 俺の紛らわしい告白の仕返しか。やはりやられたらやり返す、なんともまぁアイリス様らしいこと。

「お、お父様がもうすぐ来る頃だわ。お出迎え行くわよ」

「……はい」

 アイリス様は慌てて膝枕をやめる。

 俺はその場から起き上がるとアイリス様は立ち上がりドアへ向かう。

 俺は後ろをついていき、右後ろに同行している。

 俺は今だに心臓のバクバクが止まらない。

 呼吸も震えている。

 だが、こんなに動揺しているのは俺だけではなかったようだ。

 前を歩くアイリス様も耳元が真っ赤であった。

   その後、微妙にほんわかとしている俺とアイリス様は寒い中帰ってきた旦那様をお出迎えする。

 馬車から降りてきてすぐ凛々しい佇まいの旦那様はアイリス様の姿を一目見ると表情が柔らかくなる。

「クラウス、元気そうで良かったよ。急に娘を任せてすまなかったね。ただでさえお転婆なんだ。大変だっただろう」

「もう、お父様ったら失礼しちゃうわ」

「滅相もありません。カンタール侯爵家の執事として当たり前のことをしたまでです」

 労いの言葉を頂けて嬉しい。あと、アイリス様、距離近いです。

 しかもなんで腕を組んでるんですか?

 すると、旦那様の片眉がピクンと動く。

 あ、なんかやばい?

「アイリス様、離れてください旦那様の前ですよ」

「べ……別にいいじゃない。私たちの仲なんだから」

 雰囲気を察して組まれた腕を解いて一歩距離を空ける。

 シュンとしたアイリス様は少しずつ距離を詰めてくる。いや、時と場所を考えてください。

「随分と仲が良くなったようで何よりだ。君たちは親友同士と言っていたからね」

 額に血管が浮き出ているのは気のせいだろうか?

 気のせいにしたい……気のせいにしよう。

 これ以上刺激するのはよろしくない。

 旦那様はアイリス様を溺愛している。

 バカ王子との婚約の時もかなりイラついていたっけ。

 旦那様は怒りを外に出すことはしない。怒った時は真顔で笑うんだ。

 そう……今のように。

「ええ!そうのお父様!私たちは親友兼夫婦だもの!」

「……ほう?」

 さらに血管が浮き出る旦那様。

 あ、やばい。一先ず退散しよう。

「旦那様、外はお体に触ります。立ち話もなんなので屋敷に入りましょう。私は仕事に戻りまーー」

 だが、ガシッと肩を掴まれる。

 相当な力が入っており、瞬間立ち止まる。

 後ろを見るのが怖い。……どうしよう。

「そうだクラウス。確か話があるんだったね。私の書斎へ行こうか」

「……はい」

 生きて帰れるだろうか?

 ……生きて帰れることを切に願おう。

「お父様とクラウスだけなの?」

 お願いしますアイリス様、これ以上余計なことはーー。

「アイリス、君の将来に関わることだ。来なさい」

「わかったわ!」

 いや、アイリス様も来るんかい。

 でも、確かに当事者であるアイリス様もいなきゃ話が進まないし……これでいいのか?

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