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旦那様に連れて行かれ執務室へ移動する。
傍にはキアンさんも……何故かマリカさんも同行していた。
こんな大所帯で何を話すのだか。
ギランさんとマリカさんはそれぞれの仕える主人の後ろに立ち、俺とアイリス様、机を挟んで旦那様が座る。
不安が溜まる一方で望んだ話し合い。
俺は決死の覚悟を決め挑む。
「で、話というのはなにかなクラウス?」
早速心が折れそうです。
何故旦那様に笑顔で威圧されると萎縮してしまうのだろう。
「……そのですね。実は時を遡り2ヶ月くらい前からになります。旦那様からいただいた手紙がーー」
「あとどれくらい続くのかな?」
「あ、はい」
いやぁ、噛み砕いて丁寧に説明しようとしたが、笑顔一つで一刀両断。
本当にどう説明すれば良いのだろう。
「……では、1ヶ月前の出来事からーー」
「私を揶揄っているのかな?」
「い、いえ、そんなわけでは」
……どうしよう。
重要の内容を話せない。
しどろもどろになってしまった時だった。
「ああもう!お父様、私クラウスと結婚したいの。許してくれる?」
「ちょ!アイリス様!今俺から話そうと」
「ビクビクしながら男らしくない。さっさと言いなさいよもう!」
ど直球すぎませんか?
俺がこんなにも懇切丁寧に話そうとしていたのに。
旦那様は腕を組み鋭い視線を俺に向ける。
……唇が震える。
……それでも、伝えなきゃいけない。
夫婦になるということは、人生の終わりまで一緒に過ごすということ。
もう、俺はアイリス様しかいないと思った。だからーー。
「旦那様、俺はアイリス様と一緒になりたいです」
分不相応とか、前置きはいらない。
端的に内容を伝えた。
旦那様は俺の真剣さが通じたらしく一度瞼を閉じて数秒思考。
その問いかけにアイリス様は眉唾を飲み込む。発言に細心の注意を払っているのだろう。
「アイリス、知っていると思うが、カンタール侯爵家にアイリス以外跡取りがいないのは周知だろう?」
「ええ、だから私が王家に嫁いだ後、分家から養子を取ると……」
「そう、だが話が白紙になった今、その必要も無くなった」
アイリス様がカンタール侯爵家を継ぐことになる。
だから誰か婿入りするという流れのはずだった。
「お前が侯爵家を継ぐこと、領主の引き継ぎを終わらせたらクラウスとの結婚を許す、それが条件だ」
目を見開く。
あっさり許可を出したことについてをだ。
覚悟はできていた。
アイリス様と結婚するということを。
「お父様……ありがとう」
「旦那様、必ずカンタール侯爵家の名に恥じぬよう精進します」
歓喜のあまり俺もアイリス様も涙が溢れる。
これで俺もアイリス様も旦那様公認ということだ。
旦那様は俺たちの表情を見てため息をする。
「礼を言うには早いからね。これから忙しくなることを忘れなきよう。それと節度は守るように、清い付き合いを心がけるように」
「……」
ま、そりゃそうだ。
……あれ、なんでアイリス様の顔がだんだん真っ赤になってるんだ?
恥ずかしがる様子はないと思うけど。
「お父様……その」
「なんだい?」
「キスは……清いお付き合いになるのかしら?」
「……ほう?」
いや、何聞いてるんですかアイリス様。
これ、本人に言っちゃいけないことだと思うけど。
旦那様にも笑顔でまた威圧されるし。
ほんと、怖すぎだよ。
どうするんだよこの状況。
「……人目は気にするようにね」
アイリス様は黙って頷く。その後終始真っ赤であった。
俺は安堵し深呼吸したのだった。
「いいかいクラウス、節度は守るようにね」
「わかっております」
再度旦那様に注意された。
お願いだから旦那様、笑顔で威圧するのはやめてください。
それから1年が経過した。
アイリス様は元々優秀であったため、旦那様の仕事の引き継ぎは1年も経たずに終えた。
旦那様からは太鼓判を押され、今日、ようやく結婚が許された。
今はひと段落ついたところで中庭でティータイムを過ごしている。
「アイリス様、お疲れ様でした」
「長かった。クラウスのおかげよ。私のサポートしてくれたから」
「執事として当然です……と言いたいんですが、実は俺去年ギランさんに仕事に教わってたから基礎は出来ていたんです」
「ああ、ギランを落とし穴に嵌めた時のことね。懐かしいわ」
「……ですねぇ」
思わず苦笑いする。
でも、あの時の経験があったから円滑にアイリス様と引き継ぎ進んだ。
作業途中、書類の意味や確認で聞かれることなく多かったが、ギランさんがゆっくり教えてくれたおかげで全て円滑な進んだ。
「ねぇクラウス、あなたはこれから何がしたい。どこへ行きたい?」
「なんですか唐突に」
脈絡のない話題に聞き返す。
するとアイリス様は微笑む。
「これからの話をしたくて。私、クラウスとやりたいこと数えきれないほどあるの。行きたいところもやりたいことも。たくさんの楽しいを……思い出を共有したい」
「……俺もですよ」
「なら早速一つ目叶えてもらっていい?」
「ええ、何なりと」
アイリス様の口元が緩んでいる。……何か無茶振りをされるんじゃないだろうな?
少し身構えてしまう。
「いつまで敬称と敬語使う気?」
「いや、それは癖みたいなもので」
「これから夫婦になるんだから違和感あるからやめてくれない?」
「……わかりましたよ」
「早速敬語使ってるわよ」
まぁ、確かに違和感あるよな。
とりあえず訂正するか。
「わかった。これでいい?」
「……よろしい」
本当に嬉しそうだな。
でも少し違和感が拭えないので早く慣れたいものだ。
アイリス様は席から立ち上がり俺真横に移動。両手を横にひろげる。
「……抱き締めて」
「え……なんで急に」
「私、頑張ったのよ。ご褒美が欲しいの」
「き、急にどうしたんです……どうしたんだよ」
「は!…や!…く!」
「……わかりま……わかったよ」
「……ん。……いい匂い」
「そりゃよかった」
まだ敬語が抜けきれないがとりあえず俺は優しく抱擁する。
アイリス様何故こんなに甘えてくるんだ。でも、悪い気はしないので付き合おうかな。
それからアイリスは10秒ほどそのまま抱き合うと離れた。
アイリスは瞳を閉じ顎を少し上げる。両手もまだ開いている。
「ん?……」
「……あの、まさか抱きついてキスしろとか言わないですよね?」
……やれというんだ。
流石にまだ早くないか?……アイリスはどうやら枷が外れたように甘えてくる。
これ、誰かに見られたらどうするんだよ。
「……ん!」
「わかった。わかりましたよ」
最速がすごいので俺はアイリスの望む通り優しく抱擁し唇を重ねた。
「なかなかのお手前で」
「なんの感想ですか……まったく」
「また敬語」
「す……すまん」
「まぁ、いいわ。徐々に慣れてちょうだい」
「わかったよ」
頬を膨らませて少し不機嫌になった。早くタメ口慣れないとな。
少し努力が必要である。
ふと、再びアイリスとの視線が交差する。
アイリスはそれに気がつくと咲き誇る笑みを浮かべてーー。
「これからもよろしくね。私の旦那様!」
「……よろしく」
その笑顔に魅了され心臓がドクンと跳ねる。
俺の奥さん可愛すぎだろ。
長いようで短い人生、後悔のないように生きていきたい。
これからもアイリスと共に歩み続けていく。