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田川と私が一緒に店に入って行くと、征也は驚いた声を上げた。
「えっ、どうしたの、二人して」
「飲んだ帰りで、ちょっと寄ってみました。ね、遠野さん?」
「は、はい」
征也は瞬きを繰り返し、私と田川の顔を交互に見る。
「二人で飲んできたの?」
征也の表情を見るに、どうも誤解しているようだ。それが嫉妬なら嬉しいのにと切ない思いを隠しながら、私は相当頑張って笑顔を作り、田川の言葉を補足する。
「合コンに行ったら、そこで偶然会ったの」
「美祈ちゃんが合コン?珍しいんじゃない?」
「珍しいというか、初めて参加したの。友達に誘われて、それで。田川さんがいたから、あまり緊張しないですんだわ」
「ふぅん、そっか。まぁ、田川君もいたんなら大丈夫だね」
「何が大丈夫なの?」
「ん?特に心配するような合コンじゃなかったみたいだね、ってこと」
「心配?」
「だから、変なのはいなかったみたいで良かった、っていう意味。兄代わりとしては色々心配するわけ」
「兄代わり」の言葉に胸の奥がちくりと痛んだ。表情が歪みそうになるのをごまかすために、私はわざと大仰なため息をつく。
「でももう合コンは行かないかな。ちょっと苦手」
「あぁ、分かる気がします。実は俺もあんまり好きじゃないんですよ、あぁいうの。特に出会いを求めているわけじゃないんなら、行かなくたっていいと思いますよ。ま、俺の考えですけどね」
征也は苦笑しながら私と田川の話に耳を傾けていたが、会話が切れたところで私に話しかける。
「それにしても、美祈ちゃんがここに来てくれたの、久しぶりだよね。元気にしてたの?」
「うん、元気だったよ。顔を見せないどころか、連絡も全然しないでいてごめんなさい。田川さんにはもう言ったけど、最近仕事が忙しかったの。それで、色々と余裕がなくて……」
「そうだったのか」
征也の頬がほっとしたように緩む。
「何かあったんだろうかって気にはなってたんだけど、俺の方も色々と立て込んでしまって、なかなか連絡するタイミングがなくってさ。すまない」
「うぅん、いいの。気にかけてくれてありがとう」
笑顔を見せる私に彼は訊ねる。
「それで、何飲む?」
「大丈夫、いらないわ。顔だけ出して帰るつもりだったから」
私は即座に断った。後片づけもすべて終わっているようなのに、彼の仕事を増やしたくない。
「遠慮しないでいいんだよ」
征也は慣れた手つきで道具を準備し始めている。隣からは田川も勧めてくる。
「せっかくだから頂きましょうよ。片づけなら俺がやりますし。それに、ここに寄ったそもそもの目的の一つは、佐伯さんのコーヒーを飲むことだったんで」
田川の言葉に征也はくすりと笑う。
「片づけなんてたいした手間じゃないから、田川君がやることは何もないよ。テイクアウト用のカップを使うから洗い物はほとんどないし、全然大丈夫さ。ということで、田川君はブレンド、美祈ちゃんはカフェオレでいい?それとも他のにする?ノンカフェインも出せるけど」
征也の表情をうかがうと、迷惑がってはいないらしい。それを確認した私はおずおずと希望を伝える。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……。砂糖抜きのカフェオレをお願いします」
「俺はブレンドで」
「分かった。座って待ってて」
征也はにっこりと笑い、早速コーヒーを淹れ始めた。
出来上がった分をそれぞれのカップに注ぎ入れて、カウンターのスツールに座っていた私たちの前にことりと置く。
「ありがとう。いただきます」
私は礼を言って、両手でカップを包み込んだ。私が飲みやすいように、熱さが加減されているようだ。征也の気遣いにじんとして、やっぱり好きだと口走ってしまいそうになる。しかし隣に田川がいてくれたおかげで、その衝動が表に出ることはなかった。
田川はカップに口をつけ、コーヒーを味わいながら、しみじみとした口調で感想を口にする。
「やっぱり佐伯さんが淹れるコーヒーはうまいですねぇ」
それに倣うように私も一口飲んで、ふうっと息をついた。
「芳ばしいっていうんですかね。ほんと、美味しい」
征也はのんびりしている私たちを嬉しそうに見ながら、使った道具類をてきぱきと洗って片づけた。すべて終えると、エプロンを外してカウンターから出てくる。
「二人とも、飲んだら帰ろうか」
「それならもう出るわ。田川さん、行きましょう」
ところが征也は私を止める。
「待って。二人とも家まで乗せてくよ」
「えっ、いいよ、そんなの」
狼狽える私の横から、田川が言う。
「本当は俺がタクシーに乗せて帰すつもりだったんですけど、佐伯さんがそう言ってくれるんなら、遠野さんだけお願いしようかな。俺はここで失礼しますんで」
「えっ、それなら私も一緒に」
「いいからいいから、遠野さんは佐伯さんに送ってもらってください」
田川はするりとスツールから降りた。
「あ、ちょっと待ってください!」
私は田川を引き留めた。征也への想いが落ち着き始めていたのは確かだが、今が大丈夫だったのは田川が緩衝材になっていたからなのだ。何かの拍子に、さっきのように気持ちが溢れそうになってしまうかもしれず、二人きりになるのはまだ早い。
私の葛藤を知らない田川は、私と征也を交互に見てにこりと笑う。
「俺の今夜の目的は、確かに佐伯さんのコーヒーでしたけど、実はもう一つ、遠野さんをここに連れて来るっていう裏の目的もあったんです。というわけで、俺はお先します。佐伯さん、お疲れ様でした。また明日。遠野さん、おやすみなさい。また店で」
田川は軽く手を振り、おろおろしている私を置いて店を出て行ってしまった。
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