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「エカテリーナ……私は…「私」が存在しない、何者でもない…と、思っていました……」
「こ、こんなときに、なにを言い出すの…っ?」
「はは……っ、でも…貴方のお陰で、貴方やダイキリと居るときは…私の中に居心地がいいと思う「私」がいた……」
「───なら私は、最初のバーでの約束通り……っ、最期も貴方の盾になりたいの…です」
言葉を途切れさせながらも話した途端──
「アルベルト……っ!やだ、死なないでっ!!」
「すみません…このよう、な…状態では…っ、とても……」
私は彼女にそっと耳打ちするように言った。
「…記憶も戻って……また、貴方とお酒が飲みたいと思った……っ、です、が…っ、どうやら…手遅れのようです……」
痛みを忘れるくらい穏やかな気持ちだった。
エカテリーナが声にならない声を上げて泣いている。
「飲むのよ…っ!マスターにあんたの好きなお酒出してもらえば…っ!なのに、こんなところで……!!」
その涙で濡れた頬を人差し指で拭えば、彼女は私を退かそうとしてくる。
「ダメよ…死んだら許さない…っ、私には…あんたしか、いないのに……っ!!……嫌…っ、これも、ぜんぶ、わたしのせいなの………っ?」
ぼろぼろと零れ落ちる涙と共に、彼女はぽつりぽつりと独白しはじめた。
その一つひとつに私の罪の大きさを痛感するばかりだ。
「そ、だ……わたしがもっとしっかりしてたら、こんなことにはならなかった…っ、ダイキリだって……生きてたかもしれないのに……!…全部わたしが…わたしが……っ」
その様子は見ていてとても辛いものがあった。
私は彼女の手を握り返した。
「違います……エカテリーナ……全ては……私が浅慮だったから起きてしまったこと…私には何もかもが足りていませんでしたから」
「ちがう……ちがう…ちがう……アルベルト…ッ、私…こんな、最低な…仲間も守れない…とか…いや……っ」
震える彼女の声と重なって私は最期の言葉を紡ぐ。
「…貴方は本当は…優しい人です……っ、そばにいたから、わかりますよ…」
私は彼女に微笑んだ。最期くらい綺麗に笑わないと彼女が泣きっぱなしになってしまうから。
「わた……わたしのせいで……!…あ……あぁ……ぁ…っ」
彼女はもう言葉になっていない嗚咽を漏らす。
私は彼女を抱きしめた。
「エカテリーナ……これ以上…自分を責めないで……泣かないでください…っ」
涙で濡れた彼女の頬をそっと撫でる。
そして彼女の唇に自分の唇を重ねた。
今までどんな愛情表現よりも切実で尊い時間だったと思う。