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すの短編

1 - 初詣 💚🩷

♥

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2025年02月24日

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唸るような大歓声の中、眩しいライトを受けて、佐久間が今日も全身全霊をかけるみたいに、命を削るみたいに、全力で踊る。

俺はつい不安になって、その方向へと手を伸ばす。



決して届きはしないのに。

決して気づかれやしないのに。







ライブが始まる前の控え室で、また佐久間が泣いていた。

俺は部屋に入るか迷ったけれど、スタッフが行き交う廊下にいつまでも立っているのも目立つので、なるべく気配を消した。



💚おはよう


🩷あ、あべちゃん!おはよー!



すぐに泣き止んだ佐久間は、少し鼻声で、明るく挨拶を返して来た。


無理しなくてもいいのにと思う。

でも弱い所を人にさらけ出すのが得意じゃない性格なのも知ってる。


俺なら絶対泣かさないのにな。


メンバーの照を、佐久間と深澤の間でなんとなく取り合いになっていることは知っていた。

ところが照の態度は煮え切らない。

俺が二人の代わりに食ってかかってやりたくなるほどだ。

そしてそのせいで佐久間も深澤もなんとなくギクシャクしているのに、当の照は知らんぷり。


とにかく俺の佐久間を泣かさないでほしい。


いや、俺の佐久間なんて言っても、佐久間は1ミリも俺の気持ちなんて知らないけどね。


これは完全なる片想い。


気持ちを伝えたところで佐久間の悩みが増えるだけだ。

好きな相手は泣かさない。

それは俺のポリシーだから。


鞄からテキストとノートを取り出し、俺は佐久間に気を遣わせないように勉強を始めた。



🩷あべちゃん、少し、泣いててもいい?


💚うん、いいよ


🩷ありがとう


💚俺は誰にも言ったりしないから



佐久間は安心したように、弱々しく笑って、しばらくするとまためそめそと泣き出した。


残りのメンバーが揃うまで、控え室には佐久間の鼻を啜る音と、俺のシャーペンを走らせる音だけが響いていた。







ライブの全ステージが終わり、休みなく年末を迎える。

12月は怒涛の忙しさだった。

それでも俺は佐久間に会えたから平気。

一人で仕事するよりよっぽど楽しいし、嬉しい。

佐久間が悲しそうにする分、隣りにいて癒すのは俺の役目。

そう思って、年越し配信が終わった瞬間に、思い切って佐久間を初詣に誘った。



🩷え?行きたい!行こう行こう!!



佐久間は思いの外乗り気で、佐久間の笑顔に俺の心も踊った。忙しい合間を縫って、穴場の神社を徹底的にリサーチした甲斐があったというものだ。


まったく人気のない、山の中腹にある古びた神社で、二人並んで手を合わせて、新しい年へ向けた願いを託す。


今年も佐久間と一緒にいられますように。


先に祈り終えて、隣りを見たら、佐久間はまだ熱心に何かを祈り続けていた。



💚佐久間はさっき、何をお願いしてたの?


🩷うーん、今年こそ、いい出会いがありますようにって


💚出会い?


🩷俺、照に振られちゃったんだぁ



泣き笑いのような顔。

俺の前でくらい、無理しなくてもいいのに。



🩷でもやっぱり好きだから、照の健康もお祈りしちゃった…バカだよね、俺…



俺は思わず佐久間を抱きしめた。



💚佐久間が好き


🩷えっ


💚照なんてやめて、俺にしてよ







あの時のあべちゃんは、神様からのプレゼントみたいだったと、佐久間は時々嬉しそうに話す。

少し恥ずかしいけど、大事な始まりだから、あの夜の肌を射抜くような寒さも、耳が痛くなるような静けさも、空に輝く星が綺麗だったことも、俺はきっと一生忘れない。






おわり。

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